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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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249:銀王国

ゼスティレイルは神速で空を飛び、俺を連れて行くと国境を悠々と超え、空から見えるのはぽっかりと空いた穴に13本の鎖が超巨大な塔を支えている状況に頭の理解が追い付かない。

その塔の南には城壁に囲まれた街と銀の城。

俺はその銀の城のバルコニーに真っ直ぐ降り立ち、緑色の髪の少年は神秘的な緑の目でこちらを見上げる。


「さて、カーク。きみは今日から銀王国の住人になる」

「それはちょっと」


断ろうとするとゼスティレイルは眉を顰める。


「……不死牢に行こう」

「え、投獄はしないって言ったじゃないですか」

「投獄はね」


ゼスティレイルはこちらに近づいてきていた使用人たちに手を振って俺の手を掴んで空を飛ぶ。


踏塵候(とうじんこう)に会って欲しい」

「は、はあ……」



数秒でこれだけ離れた超巨大な塔の入り口に降り立つ。


「ここが不死牢。逃亡は不可、外部から囚人に会うこともない。僕の力で浮いているんだけど……時に君、エルデン・グライプがなぜ発生したかわかるかい?」


歩き始めるゼステェレイルの背後をついていき、突然の話題に首をひねる。

以前どこかで何か言われたな。


「……2000年前、3つ目の月が現れてそれ以降、不滅者であるエルデン・グライプが発生し始めたと聞いています」

「そう正確には丁度1600年前にエルデン・グライプが発生した。その前の1600年前にはグー・ヴェ・ガーネスが発生した」


意味の分からない言葉に首をかしげて扉をくぐる。


「ん?なんですかそれ」

「4800年前に世界が作り替えられた時の話は?」

「え?あー……えーと地球が半分になり、人口も半分になったんですよね?」

「そう」


次の扉をくぐり、綺麗でシンプルな内装に無機質な感想を抱く。


「その後から1600年おきに揺り返しが起こるんだ」


無機質な内装の廊下を歩き、一つの部屋に入る。


「そして、グー・ヴェ・ガーネスはヒトの突然の魔物化だった。3つ目(・・・)の月が発生したときに発生し始め、月を狩ることで発生を防いだ。グー・ヴェ・ガーネスはそれで発生しなくなったが、グー・ヴェ・ガーネスは全員死亡。研究成果だけが残される形になった……あちら側の神が狙ったことなんだ」

「?」


意味が分からず勧められるがままソファに座り、目の前のコーヒーテーブルに紅茶が置かれる。


「あ、ありがとうございます」

「いえ。ようこそ、不死牢へ」


顔を上げると目の前のソファに深々と座ったゼスティレイル近くには長い白髪を一纏めにしたナイスミドルの男性が微笑んだ。


「私が踏塵候。ゼスティレイル様の配下でございます」

「配下というよりは共犯者かな」

「グー・ヴェ・ガーネスは?」


ゼスティレイルは肩を竦める。


「グー・ヴェ・ガーネス発生から100年で月狩りに成功。その後は惨憺たるありさまだった」

「何故その話を?」

「今年……今年が1600年の揺り返しの時期なんだ」


俺は不思議に思う。

つまり、3度目の1600年の揺り返しで、何か起こるかもと?


「……エルデン・グライプは狩らないのですか?」

「エルデン・グライプの“月”狩りは兄でも出来なかった。奴……幻角(げんかく)公も学んだんだ。1600年手をこまねいているしかない状況で次が来てしまう状態になった……」


じっと見つめられ、俺は首をかしげる。


「?」

「君、君は異常だ」

「は、はあ」


どう反応したらいいのか分からず曖昧に返事をした。


「両方の泥の神性を獲得、その上で知識(ダアト)?異常だ!!」

「え?あ、はあ」


頭を掻きむしりゼスティレイルはこちらを見る。


「君!君が1600年の“揺り返し”である可能性が高い」

「え?個人がですか?」


ここまで聞くと普通ならまた月が上りそうだが。

ゼスティレイルは頷き、紅茶を飲み溜息を吐く。


「泥の神性を両方獲得したうえで知識(ダアト)のセフィラ。これは稀な事だ。まず、知識(ダアト)自体が少ない。この4800年の中で知識(ダアト)はほんの31人。君を入れると32人だ」

「え」

知識(ダアト)は隠されたセフィラだから、適性が少ない」


そんな話も聞いた気がする。

ゼスティレイルは隣に座る踏塵候を見た。


「踏塵候」

「はい」

「どう思う」

「……」


ちろりと金の目がこちらを見た。

その一瞬で全身が総毛立ち冷汗をびっしょりとかく。

息をするのも忘れてその視線が一瞬で反らされ、ゼスティレイルに向けられた。


「幻角公の介入はあったかと。痕跡がございます」

「なに?」


ゼスティレイルはこちらをしげしげと見て、口を開く。


「どこかで、会ったか?エルデン・グライプになる前に」

「幻角公はどんな姿の方ですか?」

「ボブカットの赤い髪に顔は黒い布で目隠しをしている」

「会ったことはないですね」


ないよな?この世界に生まれてからを確実に鮮明に思い出せるという訳ではないが、そんな目立つ人物がいたら覚えているはずだ。


「何故、君は選ばれた?」

「……さあ?」

「何か異常なことは?」

「異常、ですか」

「エルデン・グライプになる前、変な人物にあったとか」

「いえ、ありませんね。村で静かに暮らしてました。時折賢いゴブリンと取引をする程度で」

「ふーん?」


ゼスティレイルは俺を見てそれから茶菓子を食べた。

余裕そうだ。が、しかし、焦りも見える。それはちょっとした仕草だった。

例えば、マカロンをつまむ指が震えていたりだとか。

不意に思い出したことがある。

俺にとっての異常。世界の異常。


「あ、俺は、転生者です」

「何処から来た?」


何処とかあるのか。


「地球です」

「ふむ?つまり、君は4800年前から転生してきたと?」

「俺は、その、世界の改変は受けてないんです。世界が半分になった所を知らない」

「ん???それはおかしい。転生者はすべからく、世界の改変により捧げられた人間だ」


待った。それはどういうことだ?


「俺は刺殺されました」

「通り魔に?」

「分かりません。ボロボロのロングソードで背後からひと突きされて……」

「踏塵候?」


ゼスティレイルに水を向けられた踏塵候は考え込むように、神経質に整えられた顎髭に触れ、それから至極慎重に口を開く。


「“誰”に刺されましたか、分かりますか?」

「分かりません」


即答した。

だって、あれは……――――


「あれ?」


あれは誰だった?

あれは誰だった?


ありえない顔が脳裏に浮かび、そんな訳ないと無我夢中で口の中で繰り返す。


寒気が全身を襲った。


「ありえない、そんなわけない。一体何で」

「どうしました?」

「おい、大丈夫か?」


わなわなと震える手がコーヒーテーブルに触れる。

そしてのぞき込んだカップの中の紅茶に見知った顔。


――そんなわけない


「俺?」

「は?」

「どういうことですか?詳しくお願いします」


あれは俺だった?違う?いや、あの時、振り返った時には誰もいなかったはず。でも、あの悍ましい笑みが、こびりつく。


「俺、俺?俺の顔?」

「どうした?」


酷く混乱している俺の隣にゼスティレイルが腰かけ、カタカタと震える俺の背をさする。


「無理をしなくていい……否、はっきりさせておくべきか?」


俺は数度深呼吸をし、ゼスティレイルを見た。


「俺でした。俺が、俺を殺したんです」

「は?自殺、ということか?」

「いえ、剣を持っていたのは今の俺、今世の俺の姿でしたが、目の色が金色で右目に眼帯をつけていた……?でも今、今の……そうだ、そう。この髪の色だった。長さもこのくらい」


ゼスティレイルは俺の頭を見てそれから首をかしげる。


「特殊な髪だ。神性がぶつかった結果の、髪色と長さ……そうそう簡単に被るわけがない。思い出してみて、そこには“君”がいたんだな?」

「……は、い……俺です。俺がいました。ほんの一瞬見えたあの顔。今の俺の顔だ。外見の特殊な特徴が一致しています」


どういうことだ?俺は自殺した?

いやおかしな話だ。俺は、“俺”を自認するまで時間差があったし、外見だって生まれてから変化するまでタイムラグがある。

なにより、どうやって過去に戻った?過去の俺を殺すことに何の意味があったんだ?

思案する俺をそっちのけで二人は話した。


「……ああ、まさか時虹(じこう)公か?」

「ですが、幻角公でもその方法なら可能です」

「“ヴェールをはぎとるもの”、か。難しいことじゃなかっただろうな……幻角公を呼ぶことは可能か?」

「難しいかと、あ、いえ」


踏塵候は青褪める俺を見てから、思案気に言う。


「彼がいれば、可能性はあります」

「痕跡か。辿れるか?」

「はい。容易く……ただ、その方法だと接触できるのは……彼だけですね」

「そう、そうか」


ゼスティレイルは俺の背中をさすりながら、溜息を吐いた。

そして俺に向き直る。


「すまないが、幻角公と対話を試みてくれ。難しいことではないと思う。幻角公は会話の通じる神格だし、隠し事はしない主義だ」

「え、あ、はい」


難しいことじゃないか?

あちら側の神格と対話をするんだよな?今まで会った神格でまともな対話が試みられたのは暗旅候や塊屍候だぞ?

水獄の君は一方的だし、時虹公なんて会話にならない。

不安しかない。


「じゃあ、踏塵候。頼んだ」

「はい。それでは、お手を」

「はい」


俺は右手を差し出し、踏塵候はその手を握った。








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