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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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239:〈展覧〉 2

8階層目に足を踏み入れて違和感に気付く。


「うん?生臭いな」


こう、海上がりの何か的な。生乾きの洗濯物的な。


「あー……あれはなんだ?」


黒い触腕が落ちている。

クォーツは近づき、腰から剣を鞘ごと抜きつつく。

そこにオニキスが近づく。


「何でしょう」


瞬間、ぱっと2人が消えた。




白い部屋に一瞬で放り出され、クォーツとオニキスは驚き、天井を見上げる。

底抜けに明るい青空。


「レライデヌエとエレイジェ」

「クォーツだが」

「オニキスです」


白い椅子に座る褐色肌のあまりにも美しいという言葉が霞むほどの美貌を持つ青年が指を組んで2人を楽しそうに見ている。

あれは獲物を見る目か。

青年は金の目を細めて笑う。


「まあ、まあ、まあ。座って座って」


クォーツとオニキスは互いに顔を見合わせ椅子に渋々座る。


「僕は地哭(ちこく)の君。聞いたことあるんじゃないかな?」

「さっき聞きました」

「カークの友達だよ」

「絶対嘘だな」


クォーツの反論に地哭の君はにこりと笑うだけだった。

地哭の君は2人に手を向ける。


「君たちに神性をあげよう」

「いやそれは」


カークが断っていたようなものを受け入れていいものか。

警戒していると地哭の君はにこやかに言う。


「このまま、カークを放っておいていいのかい?彼はもう1500LV近いだろう。止められないんじゃないか?」

「それは」


威圧的に地哭の君は嗤う。


「ただの人間には200LVが限界だが、神性を深めればそれを超えられる」

「なに?本当か?」


信じがたいとクォーツが問うと地哭の君は気をよくしたようににこりと笑った。


「本当だとも」

「……証明は?」

「それは各自で」

「危険があるのではないですか?」


地哭の君は笑みを引っ込め、じっとオニキスを見た。


「危険がない取引なんてないよ」


クォーツとオニキスは顔を見合わせた。


「デメリットを教えてください」

「デメリットねえ。僕が外界を覗けるようになることかな」

「それだけですか」

「他には、僕が体を操ることがある」

「うーん」


大してデメリットには感じない。

クォーツはどうだろうかとオニキスがのぞくと同じ意見の様子だった。

そもそも神様というのがぴんと来ない。

もちろん教会の治癒師が使う魔法は神様ゆらいだとは思うが。何の神様かはしらない。

力が強いとか、魔力が強いとかなのかなとは思うが。


「貴方に何のメリットがあるんですか?」

「信仰が集まる」

「それだけ?」

「それだけ。それが重要なんだよ。風刻(ふうこく)の君も君たちに神性を渡したがってる。先を越されたくない。こっちはアレリールス・ピオニー・ルロンセ・イニクェ・オルパニア・ヘトネベアを横取りされて残念なんだ」


肩を竦める地哭の君を見て、オニキスはじっくり考える。

どうする?このまま、このチャンスを捨てるべきか?

地哭の君は信頼できる人物じゃない。見た目が麗しいだけの恐ろしいほど賢い人物だ。

だが、願ってもみないチャンスだ。カークがまた、戦場に行ったとき、それを支えられるだけの実力が欲しい。


「一気にLVを上げる方法はないのか?」

「カークに頼んで、LVを分けてもらえば?」


カークは嫌がるだろうなとクォーツは考える。

危険な目に合わせたがらない。だから最低限のLVはくれたが、カークにとっては鎧袖一触だろう古竜を相手するには心許ない。

いや、第5世代だったか、そんな言葉を言っていたな。その第5世代以外は危険ってことだ。

それでも、カークはLVを渡そうとはしないだろう。

そんな前途多難の感情の表情を見られたのか、地哭の君は提案をする。


「神性を受けるなら、LVをあげよう」

「どれくらいですか」

「200LV」


オニキスは悩み、考え、カークの泣き痕の残る寝顔を思い出す。

カークが一般人を殺したとき、一緒に自分も一般人を殺せばよかった。

それが出来なかったのは、泥の神性が便利だからではない。自分にも覚悟が足りなかった。任せるということがどういう意味か理解できていなかった。

そしてカークがほんの少しでも危険を避けたからだ。


「お願いします」

「おい」

「僕は、地哭の君の提案に乗ります」


クォーツはその決断に何も言わなかった。


「俺は断る」

「そう。じゃあ、オニキスだけ」


地哭の君は手を伸ばしオニキスと握手する。

バチンと火花が散り、カークが現れた。

彼はきょろきょろとあたりを見渡し、机の向こう側の地哭の君を見て指さす。


「は!?地哭の君!?」

「あ、やば」


それだけ言い残して地哭の君は消え失せ、変わりに水獄(すいごく)の君が現れる。

海色の青い髪、大きな口に笑みをたたえた青年は目が笑ってなかった。

カークを指さし、口を開く。


「君、自分の空間なんだからちゃんと管理をしなきゃ」

「ここ、俺の空間だったんですか」


初めて聞くが。

とカークが胡乱げな目を向けるもオニキスとクォーツがこちらを見上げている。


「2人はなぜここに?」

「君がいたからだ。泥の神性の精神に入り込める」

「ひ、ひどい」


勝手に人の精神を部屋にしないで欲しい。


「入り込めるといっても、精神操作したりだとか体を乗っ取ることはできない。せいぜい‶近い場所”で無理やり引きずり込むことくらいだ」


そんなこと言われても危険すぎる。


「2人はなぜ連れ込まれたんですか?」

「神性を渡すため」

「受け取ったのか!?」


咎めるようなカークの言にオニキスはおずおずと答える。


「は、はい」

「危険なんだ!あいつの思い通りにさせればなにが起こるかわからない!」

「でも、もう受け取りました!カーク!何もかも一人で済ます必要はないんです!これで抱え込む必要はないんです!」


カークは頭を掻きむしる。

突然ぴしりと空間が陶器のように割れた。


「まあ、まあ。ここでは怒らないで」


割れた空間からどろりとした黒い液体が零れてくる。


「ああ、カーク以外は触らないで。気が狂うよ。ここ、夢白泥の王とも知灰泥の王とも近い場所なんだ。精神空間だからね」

「あっぶな!」


オニキスとクォーツを連れて亀裂から離れる。

ただ、どろどろとした液体が追ってくる。

諦めて椅子に上り、上から水獄の君を見る。

ちょっと気分が悪い。怒られないかな。


「無理だよ。もう出なよ」

「あ、いいですか。それじゃあ」


意識を手放し、床に沈み溺れる。


と元の迷宮に戻っていた。

オニキスとクォーツも戻っており、黒い触腕もなくなっている。

8階層目ともなれば彫刻は綺麗なもので、通路の壁側には口だけがある無貌の樹の幹のような触腕を伸ばす黒い彫刻が置かれていた。


「地哭の君に会われましたか?」

「な、なんでわかるんだ?」


ルリはその彫刻を指さす。


「多分ここは‶近い場所”なんだと思います。〈魔獣の鉱山〉は火極(かごく)の君に近い場所でした。ここはあらゆる邪神に近い場所だと言えるかもしれません。その彫刻は地哭の君です」


彫刻に近づき、表題を見る。


「月に吠えるもの?」

「地哭の君の別称です。時虹公だと門にして鍵などですね」

「へー……じゃない!オニキス!」

「ひぇ」

「本当に危険なんだ!絶対に神性を深めちゃだめだ!」

「でも、ルリは神性を深めてますよね」

「う」

「シンジュだって」

「そ、それは」


オニキスは強い目でカークを見た。


「神性を深めれば200LV超えられると聞きました実際にほら!」


オニキスは能力表を見せた。

能力表は職業(クラス)欄を見せている。


「魔法使い60LV地属性魔法使い100LV神官100LVドルイド100LV。本当だ。エイボンは蛙餓(あが)候の神性が深かったから200LV超えてたのか」


感心しているとオニキスは得意げに胸を反らす。


「どうですか!これで、負担が減るでしょう」

「オニキスを負担だなんて思ったことはないよ」


カークの言葉にオニキスは首を振る。


「違います。そうじゃないんです。うまく言えないんですけど、カークの負担が減るのではないでしょうか」

「俺の負担のために神性なんて」

「もう、受け取ってしまいました。カーク、前向きに行きましょう」


確かにもうどうしようもないことではあるが、神性を深めない方法を探すほうがいいのだろうか。

唸りながら考えてオニキスの赤い目を見た。

強い目だ。

神性を深めてありうるデメリットとは?

自分だって泥の神性を深めている。強くは言えない。


「……何か問題が起こったらすぐに言うんだぞ」

「はい」

「クォーツは?地哭の君の神性をもらったのか?」

「いいや」

「そうか」


ちょっと安心して、先を急いだ。



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