238:〈展覧〉 1
きょろきょろしながら1時間歩いて街道沿いの城を探す。
「あれかな」
「城だな」
蒼い宝石でできた城は寒々としている。
ミニチュア城は中がくりぬかれていて〈砂の城〉のような見た目である。
きらきらして綺麗だなと思いつつ、魔法陣の中心に向かう。
周りには誰もいない。人気のない迷宮だ。
「【精神力強化ⅩⅩ】」
全員に魔法をかけて水晶に全員で手を触れる。
一瞬で青白い廊下に出る。
左右を見渡すと絵画や彫刻などが飾られている。
ただどれも荒く、全体的に四角い。
絵画として言えばキュビズムで通せそうだが彫刻でそれをされるとただの荒い彫刻である。
「これ階層を重ねると綺麗になるとかかな」
「知らん」
まあそうだよな。
歩き始めるとすぐに魔物が現れる。
煌びやかな宝石を纏ったホブゴブリン。
一も二もなく巨躯を切り殺し、血にまみれた宝石をまじまじと見る。
「魅了されるとか言ってたけどこういう系かな?」
「さあ?」
「宝石単体で魔物として出てきますよ」
「へえー」
じゃあ、違うのか。
ちょっと楽しみにしながら先に進む。
10分ほど歩くとなんだがモザイク画のような荒い彫刻が目に付く。
「どっかで見たな」
「この……タコか?」
「うーんどこで見たんだっけ」
ぶよぶよとした人間の体にタコの頭、背中には蝙蝠の羽。
ジーと見たが思いつかない。
ただ絶対どこかで見た。
「うーん?」
「思い出せないならしょうがないだろう」
呆れたような声でそう言われ背中を押される。
とぼとぼと歩きながら考える。どこで見たっけ。
次の彫刻で飛び上がるほど驚いた。
「分かった!!水獄の君だ!」
「これが?」
「違うこれは纏穣公!」
積み重なるような体、ねじくれて伸びる9つの角、6つの山羊のような脚、よだれを垂らす口。
精巧とは到底言い難いが、荒いつくりでもわかる。
纏穣公の像は手に持ったことさえある。
「そうだった!地哭の君が迷宮を作ったんだ、こういうこともあるのか!」
「へえ、神様ってこんなかんじなのか」
「いや普段はヒト型なんだけど、なんかもう一個体があるみたいで」
「ふーん」
うへえと思いつつ歩き出した。
着飾った鎧を着た骸骨兵士達を素手でバラバラに砕いて、先に進む。
どうやらこの階層のボス的存在だった様子で、向こう側に階段が見える。
「1階層1時間くらいかな。曲がりくねってたけど、一本道だったし」
「そうだな、56分だ」
シンジュの冷静な言葉に頷き、階段を降りる。
2階層目も青白いねじ曲がった廊下だった。
歩き始めて20分ほどでやっと魔物が出てくる。
一抱えもあるきらきらとした宝石が浮いている。
嫌に魅力的な煌めきを見せて誘惑してくるように見える。
「ああ、なるほど。こういうこと」
精神力が低ければここで魅了されて、その場にとどまって攻撃を一方的に受けることになるだろう。
剣で宝石をぶった切る。
石ころになった宝石は転げ落ちた。
「あ、取れるものはないのね」
「悲しいな」
クォーツがそう言うので、なんとなく頷き、先に進む。
数々の彫刻は相変わらずモザイク画の様で要点がわからない。
うねうねした触腕だったりクラゲのような何かが置かれているのを見る。
「こういうのも、そうなのかな」
「まあ、‶そう”なんじゃないか」
「そうですね。こちらは時虹公です」
「え?わかるのか」
「はい。主だった邪神はわかります」
じゃあさっき答え教えてくれてもよかったのにと思いつつ。
肩を叩かれる。振り返ると虹色に見える白髪に小麦色の肌。厳つい左目の眼帯の青年が立っていた。
「ひえ!」
「いやあ、ここ来てくれて助かるよ。夢白泥の王の神性も受けれたんだって?おかげで僕ちゃんさんもこの通り!」
時虹公はそう言いにこやかに見てくる。
「誰だ?」
くるりと振り返ると仲間たちがいる。
あれ、どういうことだ。
特殊な空間に連れ込まれたんじゃないのか。
「時虹公だよ」
「へえ神様」
「そう。君、地哭の君の神性が近いね。手を出すとまた癇癪を起されそう」
「え」
クォーツをまじまじと見ると小突かれる。
「地哭の君が神性を渡そうと狙ってるってことか」
「そんなことより僕様ちゃんの神性は受け入れてくれる!?」
「いえ、結構です」
首を振ると髪を掴まれ顔をアイアンクローされる。
「頷いてよー!」
頷くも何もないが!
ふがふがと文句を言うとクォーツが剣を向けた。
「離せ」
「いやだね」
クォーツはそう言われて剣を振り下ろすが寸でのところでクォーツの腕を握ってルリが止める。
「止めてください!」
「はあ?」
「時虹公は強い方です。とてもじゃないですが敵いません」
クォーツはアイアンクローを受けているカークとルリを見比べて剣をしまう。
「おお、賢明だねえ。ここで脅してもいいけど時間が足りないなあ」
カークから手を離し仲間達を見据える。
「ああ、時間切れ。じゃあね」
ばしゃんと時虹公は水になる。
「何だったんだ」
気疲れしてへたり込む。
そばにルリが寄ってきて、そばにいてくれた。