表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/275

22:まあ、遊びならいいんじゃないかな

迷宮に入ったルリとカークは真っ直ぐに下層を目指す。


「とにかく下を目指そう。下の方が良いものが落ちているらしいし」


カークがそう言うとルリは無言でうなずき、槍を構えて先に進む。

今は地下4階。この迷宮は30階構造であり、最下層の30階にはボスと呼ばれる大型の魔物がいる。噂や本を信じるなら、身長3mの巨大ゴブリンだ。

ここまでの収穫は解体したゴブリンと使うとしみて痛いしそんなに回復しないが普段使いには重宝する傷薬軟膏だけだ。売ると一個銀貨1枚買うと結構な値段だが売るとそうでもない代名詞と言える。

そんなしょっぱい報酬しか出ない迷宮でもいい点がある。それは迷宮と呼ばれながらも曲がりくねる一本道とたまにある部屋の扉以外ないという単純で初心者向けの構造だという事だ。

正直な話、この迷宮に来るのは避けたかった。あの恐ろしい“神”を自称する男がいるからだ。しかしそれをルリに打ち明けたところ、否定された。

(滅多に表には出てこれない、か)

実際、以前あったところを通ってもあの男は現れなかった。

今では安心してゴブリン狩りをしている。何とも現金な物だと自分でも思った。

そうして進み続けて地下5階。

ゴブリン2匹を切り伏せて、血を払うと息を吐く。


(・・・・・・ゴブリンが強くなってる。流石に5階まで来るとな)


1階と比べて5階のゴブリンは強い。4匹程度だと思っていたが、ルリが居なければやばかっただろう。

悲しいことに強いゴブリンだろうが弱いゴブリンだろうが剥ぎ取れるものに大した差は無い。腑分けをしながら苛立たし気に鼻を鳴らす。


「・・・・・・肺は駄目だ。肝臓、駄目。くっさ!胃と腸はいらない。膵臓・・・・・・うーん駄目だなあ。胆嚢はよし。心臓は・・・・・・よーしよーし・・・・・・」


満足して革袋を撫でる。いつかはもっと容量の入る魔法付きのポーチか袋が欲しいものだ。

そうしたらゴブリンの皮も剥いで帰れるのにと考えながら周囲を警戒するルリに声を掛ける。


「出来たから、先に進もうか」

「はい」


2分ほど歩くとまたゴブリンたちがいる。5匹を見てカークは喉を鳴らす。


「魔法使いのゴブリンがいる。ルリ、先に始末してくれるか?」

「任せてください」


ルリはそう言い、水の魔法を放つ。拳ほどの大きさの水の弾丸は真っ直ぐに魔法使いのゴブリンの頭を砕いて見せた。

それを確認してからカークは身を乗り出し剣士のゴブリンと鍔迫り合い、ルリは盾を構えた神官風のゴブリンを槍で貫く。

何とかゴブリンの剣を押し返し、後ろから襲って来た棍棒を避ける。

しかし、避けた先でゴブリンの剣がカークの胸を抉った。


「が、あ」


呻き、ゴブリンを斬ろうと力を込めて振り下ろした剣は、避けられ棍棒が頭に直撃する。


「カーク!!」


悲痛なルリの声が届くと同時にカークは迷宮で確かに死んだ。




街に戻り冷たい視線を浴びながら新しい服を買ってそれをそのまま着ていくカークのルーティンはこの4日ほどで洗練されてきた。

服も武器も復活しないことに気づいた時には街に慌てて戻り衛士に見咎められたが何とか通してもらえたし、服屋の従業員も顔を引き攣らせながらも安い服を売ってくれた。

優しい人たちだ。そう思って喜びを噛み締める。

自分なら血みどろの襤褸切れを纏った半裸の男を街に入れたくないし、店に入ってほしくない。

4日目の今日などはあらかじめ服が用意してあってそれを金――銀貨3枚――と交換するだけになっていた。

今は涙ぐましい4日の努力の話はどうでもいいのだ。


正直なところ“泥”になってからは引く手あまただが想像を絶する地獄を見たくなければ全部断れと受付の青年ニールに言われている。

実のところカークもそれはそうだろうと納得しているのだ。

声を掛けてくる彼らは戦力としてカークに期待しておらず、鉱山のカナリアとしての役割を求めている。

上位の迷宮のトラップは凄惨な物が多いと聞く。それの判別に“泥”がいればどれだけ楽で安全か。

カークは想像して背筋が凍る思いだった。

彼らは自分をヒトとして見て無い。生命ではないと無意識にか思っている。

自分の安全の為に他者が犠牲になるのはやむを得ないだろうが、生憎とカークには見ず知らずの他人の為に数多死ぬ自己犠牲の精神は無い。皆無だ。

基本的に死にたくないし、死ぬなら自分の為に死にたい。誰だってそうだろう。

だがこのままでは浪費の一途だった。

ギルドに向かいながら考える。

良い手が思いつかなければ指輪を失い装備が買えなくなって冒険者としても生きていけない。

いや、悲観的になるにはまだ早い。

便利なワープポイントがあるため、あの迷宮の6階までしかまだ行っていないが7階にはいいものがあるかもしれないし、5階までの魔物の素材も落ちているアイテム――毒物や回復の薬など――だってそれなりの値段で売れている。

具体的には日給銀貨10枚前後。ルリが居るお陰で強いゴブリンを倒せるのがでかい。

宿代に銀貨1枚。服の買い替えに銀貨3枚。で、残るのは6枚の銀貨だが、生憎と腹が減るので食事で一日銀貨1枚と銅貨50枚その上消耗品の購入。

命をかけてこの値段は思う所があるが、不死じゃない冒険者たちは本当に十分な実力を身につけてから迷宮に挑んでいるのだと実感する。

冒険者ギルドの門をくぐり開いている扉をくぐり、依頼先から戻って来た冒険者たちでにぎわう受付を横切って掲示板に張り付けてある依頼の紙を覗き込む。夕方近いこの時間にはいい依頼は無い。

何処のギルドも24時間開いているが冒険者ギルドでの依頼の張り出しは大抵早朝。

良い依頼はその時に早い者勝ちだ。


「F級にいい依頼は少ない。良くてもゴブリン退治か薬草選別」


呻くような声でひとりごちる。

ゴブリンは一匹退治するごとに銅貨70枚。これは討伐報酬と“剥ぎ取り”で得られる素材を売った金額の合計だ。

ゴブリンは退治してもぞっとするようなスピードで繁殖し農作物を荒らし、家畜を襲う。いくら退治しても足りないために常に依頼が出されている状況だ。

薬草選別は目に染みて手が痛くなるのを除けは安全な仕事で、F級は大抵この依頼を受ける。

錬金術師たちは薬草を大量に抱え込んでいて選別には猫の手も借りたいほどだそうだ。おかげでこの依頼も常に張り出されているが、半日給は安く銀貨2枚で一日だと銀貨4枚。

稀に張り出される特定の魔物や魔獣退治は最低でもE級への依頼なので関係ない。

E級にどうしても上がりたいが、実力がない。冒険者は実力主義なのだ。

実力を上げるにはとにかく経験を積んでいくしかない。

泥は有利だと自身を奮い立たせてギルドを後にしようとして、後ろを振り返るとそこには道具屋で会った見目麗しい美少女がこちらを見上げていた。


「やあ!奇遇だね、泥くん」


名前を聞こうともしない姿勢に顔を引き攣らせつつも会釈をする。

正直この子どもは苦手だ。が、こちらの感情とは裏腹に子どもはカークの袖を引っ張って笑う。


「どう?お金貯まった?」


僅か数日で貯まったように見えるのだろうか?

剣はこの4日でボロボロになり防具だっていまだに身につけていない。

その日暮らしから脱却できないでいる相手にそんな事を聞くものではないだろう。

見栄を切りたいが正直に答えるしかないのは悲しい所だ。


「いや・・・貯まってない」

「そうか、そうか」


カークの答えを聞いて少女は心底嬉しそうに笑った。

酷く無邪気で残酷な笑みだった。

ロクでもないことを言い出すぞと身構えると少女は口を開く。


「僕と遊んでくれたら、1回金貨1枚出してあげるけど」


どうだろうかと問う声に周りの冒険者が羨ましいと色めき立つ。

金貨1枚は大金だ。10日分の稼ぎ。

欲に目がくらむがそんな美味しい話がある訳ないと口を噤む。


「あれ?足りない?じゃあ金貨2枚」


周りの冒険者たちはどよめき、嫉妬交じりの声を上げ始めた。

それらを無視して首を横に振る。


「いいや、止めておくよ」


巻き起こったブーイングの嵐に鬱陶し気に手を振って溜息を零す。祭り好きの奴らだ。そんなに文句を言うなら自分たちが代わればいいだろう。

少女はまだ諦めずにその愛らしい唇を尖らせて指を振る。


「ふんふんふん・・・・・・それなら、僕が指輪買っちゃおうかなー?」


顔を引き攣らせて少女の整いすぎた顔をぶん殴りたい衝動を押さえつける。

性格が悪い。非常に悪い。

一方の少女は新しい玩具を見るような顔でカークを見ると施設の裏手にある訓練場を指さす。


「じゃ、遊ぼうか」

「ルリ、少し待っててもらえるか」

「構いません」


少女は野次馬の冒険者たちを引き連れて訓練場に向かい、カークもその後に続いた。

戯れに軽く運動する程度だろうと高を括るが性格の悪さを考慮するととてもそうは思えない。

訓練場の広場に立つと木剣を持った少女にもう一つの木剣を手渡された。


「時間は10分。お互い楽しもうね」


満面の笑みで少女はそう言うとカークから5m離れて剣を構える。

なんだ、模擬戦か。カークは安堵した。

子どもとの模擬戦程楽なものはないだろう。羽振りがいいのが気になるが。

カークは肩の力を抜いて少女を見据える。

相手は華奢で小柄な子どもだ。打ち据え過ぎないように軽い攻撃を心掛ける必要がある。

野次馬の輪の中から現れたラナンティアの店にいた、不愛想な顔のハーフエルフの少女が前に進み出て手をあげると双方を見て頷く。


「はじめ」


手を振り下ろした号令と共にカークは駆けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ