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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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208:相手によっては辛辣

砂対策を行ったおかげで軽々と〈砂の城〉を攻略できるようになったのはでかかった。

10日、毎日竜の素材を売り続けたおかげで、懐は潤い、チーム全員に均等にお金を渡せた。

その反面、D級ごときがと言う目も少なからずあったが、黙殺する形で収まっている。

それ以上にジェラルドが頻繁に夜会への参加を頼んできたことがカークの胃を痛くしている。

どうにも、S級の中でも〈砂の城〉の10階層目に到達できるのはごく少数で、そのうえで黒円と赤影を討伐しまくっているのがほかの国の上層部に知れ渡ってしまった様子で、そんなすごい冒険者なら一目会いたいと懇願されている様子だ。

今はジェラルドがのらりくらりと躱しているが、それもそんなに持つものでもない。カーク達は近いうちに夜会に呼ばれる羽目になるだろう。


「鍛冶屋も大盛り上がりで、武器の作成してるってさ。おかげさまで潤ってるよ」


ジェラルドの言葉にカークは答える。


「そうですか」


興味ないなあと思いつつ、そういえばクォーツが鍛冶屋に行ってくるとか言ってたなと思い出す。

手元の本をコーヒーテーブルに置き目の前に座るジェラルドに目を移す。


「お忙しいのでは?」

「今逃亡中」


う、うーん、この。

苦笑いを浮かべてその場はやり過ごし当たり障りない話題を探す。


「迷宮の話題とかあまり聞かないんですね」

「興味あるけど、そんなにかな」


ツボがわからん。会話も殆ど続かないし。部屋で休んでたら突然現れるし。

10日ぶっ続けで竜の素材売りまくっていたら、当然のようにギルドから待ったがかかった。

これ以上は在庫を抱えられないと。いや、正確には在庫はいいのだが、買い取る金が尽きるといわれた。

なので、今日は休みだ。宿代も食費もかからない、光熱費もないし。

カークは料理の本を読むくらいには暇だった。料理する気もないし、予定もないが。


「〈氷原〉とかは行かないの?」

「〈氷原〉ですか。そろそろ、行こうかなと思ってます」


ジェラルドはその言葉にパッと目を輝かせて祈るように手を組む。


「僕新しい宝石欲しい!ネックレスにしようかなって!」

「そ、そうですか。どんな宝石が欲しいんですか?」


うーんと言いながら細い指を形のいい顎に当てて悩む。


「あれがいいな氷の宝石。なかなか手に入らなくて」

「へえ、そうなんですね。手に入ったら差し上げますよ」

「わーい!約束ね!」


満面の笑みで両手を上げて喜ぶさまを見ながらカークもつられてにこにこと笑う。

絶世の美少女だし、庇護欲をそそられる少女の姿だ。100歳超えていても子供の喜ぶ姿はほほえましい。


「なので、そろそろお仕事に戻ったほうがいいですよ」

「えーやだー」


こんこんと扉が叩かれ、不貞腐れるジェラルドを放置して扉を開ける。

長身の美女がそこには立っていた。


「陛下はいらっしゃいますか」


明らかに怒っているのを必死にこらえている様子のアーテーの言葉にカークは焦りながら答える。


「こ、ここにいます」

「え!今僕のこと売った!?」

「さぼるほうが悪いでしょう」

「次が来てますよ。謁見の準備をしてください」


つかつかとカークを避けてジェラルドのもとまでいったアーテーはジェラルドを冷たく見下ろした。

ジェラルドは顔をしかめ、口を尖らせる。


「次、ハノリアト円王国でしょ。やだよ。胃が痛い」

「痛む胃はありませんでしょう」


辛辣な言葉にジェラルドはしょぼんと肩を落とし重々しくソファから立つ。


「行ってきたら、宝石取りに行きますよ」

「本当!?絶対だよ!」


うきうきとジェラルドは扉から出てきざまに再度扉から顔を見せて念を押す。


「絶対だからね!」

「行きます、行きます」


廊下まで出て行ってジェラルドが何度も振り返るのを見届けて、部屋に戻った。




「ハノリアト円王国より、外交官パーシヴァル・クラットラ・グユーレ・ヴェットユガーレス卿のご入室です」


謁見室に現れたのは黄金の髪をきっちりとしたポニーテールの、騎士とはこうあるべしといわんばかりのハンサムな青年だった。

彼は青いマントを翻し蒼い軍服を着こなし、赤い絨毯の前に立つ。


「どうぞ、陛下のもとへ」

「ありがとうございます」


背筋をぴしっと伸ばし、ポニーテールを揺らしながら青年は玉座の足元まで到達すると膝をつかず、その階段上の玉座を見上げる。

ざわりと鳴王国の貴族たちが一瞬騒ぐが、ジェラルドの冷たい目線を見てすぐに収まる。


「相変わらずの態度か、円王国は」

「この度は……」

「いらん。余の前でおべんちゃらを口にするなら殺す」


鋭利な殺意に晒され一瞬パーシヴァルは自身を奮い立たせるように拳を握る。


「時間は有限だ。貴様は何の用でここに来た」


内容如何によってはここで切り捨てられる。

それがお祭り騒ぎの外交だとしてもだ。


「カーク卿はお元気でしょうか」

「ほう、知りたいか」

「はい」


ごくりと誰かが喉を鳴らした。

冷たく重い空気の中でジェラルドは微笑んで口を開く。

ジェラルドはカークが円王国で何をしたかを知っているし、5万人近くの軍人を食ったことも知っている。

それを踏まえて言葉を選ぶ。


「貴様に教える義理はない」


パーシヴァルは頭をわずかに動かし、会釈の様なものをした。


「左様でございますか。それでは失礼いたします」


くるりと踵を返した青年にジェラルドは嘲笑を送る。

それを背に真っ直ぐに扉を出ていく。




この国に着いたのは昨日だ。カークの噂が出てこないが、その仲間の噂は広がっている。なんでも、S級が狩るような竜を狩っているそうだ。

そこからたどるのは容易だろう。

パーシヴァルは手汗がじっとりとにじんだ手袋をお付きの者に渡し、新しい手袋を渡される。

廊下を音を出さず軍靴で歩き、喉を鳴らす。

呼吸が苦しい。あの鳴王の前ではとてもじゃないが正気ではいられない。

あまりにも鳴王国との仲が悪すぎる。その溝はもう埋めがたい。

冷たい目線など慣れているし、殺意も受け続けている。

それでも、鳴王は格が違う。殺意が本物なのだ。本物の中でも質が悪い部類に入る殺意は毒々しい。

怒らせたニヒジェケス相手でもここまで肝は冷やさない。

兎に角、あとは毎夜の夜会を乗り切るくらいだ。

あと、カークの行方か。どうして情報が出ないのか。

首をかしげながら廊下を歩いた。


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