19:フルボッコ
質素で上品な部屋に入ると男は胸に手を当てて軽く頭を下げた。
「お招きいただき誠にありがとうございます。エジェワーディ侯爵閣下」
席を立って客人を迎え入れた美女は困った様に微笑む。
黄金の髪から飛び出す狼の耳。きめ細やかな瑞々しい褐色の肌。整った美しい顔。女神のようですらある彼女の“将軍”に向けたその微笑みは何処か寂し気であった。
「そのように畏まらないでくださいませ、アゼランセス将軍閣下。どうぞ、此方にお座りください」
「・・・・・・ありがとうございます」
招かれたと言ってもこの部屋で表向き最も位が高いのはこの闇色の長髪の男だ。男がソファに座り、それから美女がソファに座る。男についてきた者の2人はその後ろに立っているが、残りの2人は部屋の外で待っている。
「今回はどの様なご用向きで視察を?」
美しい侯爵の単刀直入な物言いに男は苦笑した。相変わらず怖いもの知らずの真っ直ぐした娘だと。
「息抜きです。我儘に付き合わせて誠に申し訳ございません」
そういうと背後に立っていた女軍人に合図をする。女は絹に包まれたものを恭しく男に差し出した。
受け取ってそれをテーブルに乗せると微笑む。
「お詫びというほどのものでもありませんが、最近帝国で流行っているブローチです」
「ブローチですか?開けても?」
美女はその顔に喜色を隠そうともせずこちらを見た。あまりに純粋な反応に男は再び苦笑して、口を開く。
「どうぞ」
絹の包みを取ると花細工の箱が現れる。帝国に置いて高級とされる硬い花弁を咲かす花“ロッアネッシェ”。巨大な薔薇にも似たその花を加工して出来た上質な香しい箱は一流の細工師によって繊細な彫刻の施された美しい箱になっている。
この箱だけでいくらするのかと考える無粋な者はこの場にはいない。ただこの美しい箱を宝物のように大切に扱う美女が喜ぶ。
そっとその繊細な箱を開ける。中に入っていたのは小さな桃色の花と大きな葉のブローチ。
もしこの場に一般人がいれば肩透かしを食らっただろう。仰々しい箱を用意して中身が素朴な物かと。
だが、見る者が見れば違う。誰もが垂涎し喉から手が出るほど欲しがる一品だった。
しかし、それ程の物であっても美女の顔色は優れない。
――好みを間違えただろうか?
いつも自信に満ち溢れ傲慢ですらある男は珍しくその反応を覗った。
美女の繊手がブローチを取り上げ、困ったように微笑む。
「・・・・・・正直な話、このブローチが悪いというわけではありませんが、箱に何も入っていないことを期待しおりました」
「ああ、なるほど」
言われて、男は納得した。小さい頃からの悪癖は治っていないのかと思うと笑いすらこみ上げた。
その雰囲気を察したのか恥ずかしがるように女神のような侯爵は顔を伏せる。
「もう少しお話をして、それからでもいいでしょうか」
男の言葉に侯爵は赤らんだ顔を少し上げてこちらを覗った。
「お時間はよろしいのでしょうか?」
「今日一日でしたら」
「まあ、それは・・・・・・本当に?ああ!嬉しいです、閣下!!」
彼女は舞い上がって立ち上がった。側にいた執事が思わず諫めたほどだったが、冷静を取り戻すまでに僅か時間がかかった。
それからいろんな話をする。陽王国の現状と近況。隣国、円王国の茶々入れと面倒な外交。結局のところ、円王国の茶々入れは晶竜帝国からの圧力に過ぎない。ここまで何故、明け透けに情報交換をするのか?勿論、陽王国と花竜帝国の関係が良好だからでもあるが、それでも他国の軍人それも要職に座る軍人相手には渋る貴族の方が当然、大多数だ。それでもなお花竜帝国の軍人に対して好意的に接するのは決して王国への忠誠心が低い訳ではなく、エジェワーディ侯爵領の生い立ちに関係する。
そもそも、エジェワーディ侯爵領はヘトネベア花竜帝国の一領地だった。しかし、ハノリアト円王国との国境が接しているにもかかわらず帝都からは遠く、その上で守るのには極めて不適格な地形であったため、花竜帝国は面倒事を起こしかねないこれを大山脈以北ごと、ロイノーネ陽王国に高値で売りつけた。花竜帝国もこの地を手放すのは苦渋の決断だったことは付け加えておく。大森林に囲まれているがそれは言い換えれば自然資源の宝庫だ。しかも、世界的にも希少な宝石の“湧く”地点がある程であり、迷宮も多い。資源的にも経済的にも優れていた。それでも手放した。手放さざるを得なかったのだ。問題はここだけで起きている訳ではないのだから。時の侯爵は慎んで皇帝の言葉に従い侯爵位を返還。陽王国の大貴族と自身の子どもを婚姻させ、新しくエジェワーディ侯爵とした。そのエジェワーディ侯爵にしてノイバシッセ家当主だったのが彼女の祖母だ。
話の一旦途切れた空白で男は我に返った。今は昔を思い返している場合ではないと。
紅茶を飲みながら男は侯爵を窺う。
「失礼かもしれませんが、祖母君はどうお過ごしですか」
その言葉を聞いてそれまでは喜んで話していた侯爵の顔に僅かな苦みが走る。
「・・・・・・お祖母様は・・・・・・円王国の国境が近く危険だと言っているのに東の森の奥に住むと言って聞かなくて」
彼女の祖母の性格を思い出しながら男もまた苦笑した。
昔から突拍子もない事をしでかす娘だったと。
「お会いしたいのですが・・・・・・」
「直ぐに地図を用意します」
「宜しいのでしょうか」
地図という言葉に難色を示したのは地図が嫌いという偏屈を見せたのではなく、他国の軍人に地図という軍事機密の詰まったものを見せるのは好ましくないという意味でだ。だが、彼女は笑う。
「隠しても仕方がありません。それに今更ではありませんか」
微笑む彼女にそれもそうかと男は頷く。今更だ。
確かにこの辺りの地理は分かっている。ほんの200年前までは帝国領で、この方面を当時担当していたのは他でもないこの自分だ。
「では、宜しくお願いします」
「・・・・・・手合わせの準備も整えておきますね」
彼女の顔は初恋の少女もかくやというほど赤らんでいた。
罵声を投げかける男を見て深々とため息を吐いた。
ルリがやってみたいというのでギルドの受付を任せて、自分はフロアの隅に固まっていただけだったが、相手はわざわざカークを探し出して騒ぎだしたのだ。
「聞いてんのか!?」
聞いていて恥ずかしくなるような下品な言葉にありきたりな罵声。カークが顔を覆いたくなった。
「聞いてる、聞いてる」
「テメェみてぇな雑魚が何いきがって他の奴と組んでんだよ!俺達の誘いを断ったくせに」
それを言われて2人の女を思い出した。ひとりは戦士然とした女でもう1人は甘ったるい声を出す獣人の女だった。まあ、言うまでもなく後者の関係者だろうなと思い見渡すと、確かに彼女の姿があった。
「誘いを断る事といきがることに関係性はないんじゃないか?」
「うるせえ!クソ野郎!」
なんだ?会話が成立しない。カークは額に手を当ててため息を吐いた。もうそれしか出来ることは無い。
ただ、その態度が男たちの怒りに火をつけたのは明白だった。男の1人がカークの胸ぐらをつかみ怒鳴る。
「すかしてんじゃねぇ!」
カークの顔に衝撃と痛みが走る。殴られたのだ。それと同時に遠巻きに見ていた冒険者たちからははやし立てる声や煽りたてる声が一層大きくなる。お祭り好きで騒ぎが大好物の奴らはこれを見て賭けすら始めるだろう。殴られた左の頬を撫でながら胸ぐらをつかむ男を睨んだ。
「離せ。それともお前も貧相な魅力で押し通す気か?」
煽り文句に口笛が鳴る。胸ぐらをつかんでいた男は青筋を立ててその手を離すともう一度殴り掛かってくる。避けようと半身を逸らす。だがそれはフェイントで、左手がもろに腹に刺さった。
「ぐえっ」
「やっぱり雑魚だ!わはは!」
唾を吐きカークを嘲笑った。
「その雑魚が必要な程、チームに人が足りないのか?それとも実力が足りないのか?」
「黙れ!」
もうひとりの男の右足がカークの頭を狙って真っ直ぐ向かってくる。必死の思いでそれを避けると、男は避けられた足を床に下ろしてこちらを睨む。
反撃するべきか否か。カークは悩み、反撃することにした。
下からの抉りこむような拳。それは男の顎を的確に捉えていたが、いかんせん速度が足りずあっさりと避けられ、逆に蹴られてカークは倒れた。
「おいおいマジで雑魚だなあ!迷惑料として有り金置いてけよ。そうしたら痛い目見ずに済むぜ」
倒れたカークの腹に足をのせて勝利に酔い知れる様に男はそう言う。カークは嗤った。
「おとといきやがれ、クソ野郎」
鈍い音と重いものが落ちる音を聞いてそちらを見た。
いや、騒ぐ声はずっと聞こえてはいたが大して気に留めていなかったのだ。
そちらを見ると人垣が円陣を組むようにして連なっている。花の匂いを纏わせた青年は赤い髪を揺らしてそちらを見に行く。
人垣をどうにか掻き分けて前まで来るとそこには3人の男がいた。2人の男が1人の男を殴ったり蹴ったりしている最中で、青年は気分が悪くなった。
いや、暴力は嫌だが、吐き気を催す程ではない。あまりにも一方的に殴られ続ける男が気の毒で気分が悪かったのだ。
周りの冒険者たちははやし立てるばかりでこの暴力を止める気は皆無の様子。
青年は迷う。助けるべきだろうか?
このままではあの金髪の男は死んでしまう。そう思うほど苛烈な暴力だ。
だが、助けたとして、彼のプライドはそれを許せるだろうか?だが、助けないと。
悶々と考えて結局、青年は足を一歩踏み出した。
「止めてください。それ以上は死んでしまいます」
そう声を掛けると2人の男は振り返って青年を見た。暴力に酔い、暴走した目だ。
不快感に顔が歪むのを何とか耐えて床に転がる男と2人の間に立ちふさがった。
周りの冒険者はまた煽るような声をあげているが無視だ。
2人の男は立ちふさがった青年を見下ろして鼻で笑う。
「死んだってかまわないさ。そいつは泥らしいからな」
驚いて床に転がる男を見た。泥だって?
だがすぐに気を取り直して2人を睨みあげる。
「寄ってたかって暴力を働き、その上で殺すことも厭わないなど・・・・・・ヒトとしての矜持が無いのですか」
「舐めた口をききやがって・・・・・・テメェも同じ目に合いてえのか!?」
怒鳴り声と共に襲ってくる右腕を難なく捻り上げてその勢いのまま男の身体を宙に浮かせ一回転させると、床に叩きつけた。
その場は静まり返った。一瞬の出来事で全く理解が追い付いていないのもあるが、細身の青年がそれをしたのが認められなかったのだ。
床に叩きつけられた男も痛みや怒りよりも驚きが勝っている様子だった。
「さあ、もうここはお開きです。皆さんお仕事に向かってください」
混乱する周囲を良い事に一方的にそう言って、青年は興味を失ったようにあっさりと2人の男から目を離す。背後で倒れている男が心配だ。
しゃがんでその様子をうかがう。
「大丈夫ですか」
声を掛けると微かなうめき声が聞こえた。本気であの男たちは殺すつもりだったに違いない。顔は腫れあがり、服は血だらけだった。呼吸音も僅かに異音が混じっている。
――直ぐに治療が必要だ。しかし、動かすのは危険だろう。
青年は周囲を見渡す。神官、治癒士がいればすぐに解決する。しかし、周囲には神官も治癒士もいなかった。
どうしたものかとポーチを漁る。なにか、こういう時に役立つものを渡されていたはずだと。
「舐めやがって!なめやがってぇぇぇええええええぇ!!!!」
怒鳴り声をあげた男はその背中を剣で斬りかかった。その行動はさすがの冒険者たちも驚いて咄嗟に動けなかったが、間一髪、誰かの優雅な蹴りが男の脇腹を力強く抉った。
汚い悲鳴と壁にぶつかる音。それを聞きながら青年は助けてくれた人物を見上げる。
瑠璃色の美しい髪。その上にチンチラの様な愛らしい耳があり、ふさふさとした艶やかな尻尾が揺れる。男装をしているが獣人の女性だ。
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそ、カークを助けていただき、ありがとうございます」
獣人の女はそう言うとくるりと振り返って壁に落ちている男とまだ床に落ちている男の襟首をつかんで引きずって行く。
細腕でどうやって大柄な男たちを2人も引き摺って行けるのか全くなぞだった。
「少々お待ちください。直ぐに戻ってまいります」
彼女はその2人を受付まで持っていき。何か話した後、戻って来た。
戻って来るや否や、掌に水の玉を創り出しそれを男、カークに投げた。
何をしているのかとひやひやしていたが効果は劇的に現れる。顔の腫れが引き、鬱血痕も消え失せる。
「ああ、治癒士の方でしたか!」
青年が驚いた声をあげると同時にカークが目を覚まして起き上がる。
「た、助かりました」
膝を付いて深々とカークは頭を下げる。思わず身を固くした。
「いえいえ、それよりも彼女のおかげですから」
「ルリ!ありがとう」
カークは同じ様にルリにも頭を下げる。
「カーク。お助けできず、申し訳ございません」
悔悟の念にとらわれ頭を下げるルリにカークは笑いかけた。
「いいんだ、気にしないでくれ。弱い俺が悪いんだし、そもそも襲ってきた奴らが悪い。ルリが謝る必要は一切ないんだよ」
「そう、でしょうか」
「俺は実力が足りないけど君は俺の仲間だ。寂しいことは言わないで欲しい」
誠意を込めてカークが見つめるとルリは数度瞬きをして頷く。
それを見てから立ち上がると、カークは赤い髪の青年に話しかけた。
「お恥ずかしい所をお見せして、すみませんでした」
「いいえ。ご無事で何よりです。それに素晴らしい治癒士の方ですね」
「ありがとうございます」
事務的に答えるルリに気分を害した風もなくまじまじと青年はルリを見た。
「もしよろしければ、雇われてはいただけませんか?」
「・・・・・・私はカークとチームを組んでいますので、そう言った話はカークにお願いします」
「・・・・・・・・・・・・では、あの、すみません。代わりにお聞きします」
カークは一瞬ルリを見て、何処か諦めたような顔で近くのテーブルに青年を手招く。
そこに座ると、口を開いた。
「俺はカークといいます。治癒士の彼女はルリ。よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いいたします。僕はゼトと申します」
「ゼトさんは何故、ルリを雇おうと?」
花の香りと共に赤い髪を揺らして周囲を窺い、ゼトは赤い瞳をカークに向けた。
「・・・・・・東の森の知り合いに会いに行くんですが、もう少し誰かいた方が良いかと思って」
東の森にヒトが住んでいたのかとか、思ったがカークは賢明にもそれをスルーして話す。
「我々は2人ですが、そちらは何名ですか」
「僕を含めて、4人の予定です」
「では、合わせて6名で・・・・・・その、警護という事ならお断りします。先ほど見ていただきましたように、俺には実力がありませんから皆さんの足を引っ張ってしまいますので」
ゼトはその言葉が飛び出すのを予期していたかのように笑顔で首を振る。
「警護というわけではありません。気軽な・・・・・・そう、ピクニックのようなものです」
「ピクニックですか?東の森の縁の辺りに御用事で?」
東の森は大山脈側の南の森ほどではないが一応危険地帯だ。森の縁でもゴブリンやコボルトが出現し奥に行くほど山を登る程、強い上位種などの魔物や魔獣がでる。
少し怪訝な顔をしたカークにゼトは取り繕う風もなく気軽に言う。
「森の奥です。奥と言っても街から15km前後ですね。山道ですので歩くともう少しありますが」
それは十分奥だな。カークは言葉を飲み込んで笑う。
――そこは俺が足を踏み入れたら死ぬ。
それを素直に言えるかというと難しい。これでも冒険者の端くれだ僅かな矜持がある。
オークやホブゴブリン、その他の上位種の魔物がごまんと住む森の奥ははっきり言ってヒトの領域じゃない。
だがそこに住んでいるヒトがいるという。目の前の青年が助けてくれた恩人でなければカークは一笑してこの場を去っただろう。そんなところにヒト等住まない、と。
しかもそんな危険な場所をピクニック気分で行くそうだ。もう訳が分からない。
実力が開きすぎている。それを理由に断ろうとした瞬間さきにゼトが口を開く。
「明日の朝出発して一泊。明後日の夕方には帰ってこられるはずです。2日間で金貨2枚お支払いします」
「そんなに!?」
思わず出た大声にカークは恥じた。あまりにも品の無い本音が漏れてしまった。
しかしながら冷静に考えれば妥当な気がする。それはルリが優れた“治癒士”であることに起因する。傷を跡形もなく癒す治癒士というのは貴重だ。それに大抵の治癒士は神官と名乗り、教会の管轄の人員である。野良とでもいうべきか、何かと面倒事が多い教会と関わり合いの無い治癒士は特別希少で、誰もが顔を繋ぎたいだろう。その上で、ルリは優れた戦士でもある。たしかに金貨2枚の価値はあるだろうとカークは考えた。
「はい。それ程にルリさんは優秀な治癒士ですから、これは是非ともコネクションを作っておくべきだと思ったんです」
「確かにルリは優秀です。勿論、治癒士として優秀ですし戦士としても優れていますから、気持ちは分かります・・・・・・」
けど、ネックはカーク自身だと顔を伏せる。
それを慮ってゼトは優しく声を掛けた。
「・・・・・・他人の戦う姿も参考になりますよ。僕は色んな話を聞きたいと思っていますし、カークさんは僕にいろんな話をしてください。それを依頼にします。どうですか」
「ゼトさんに大変不利な依頼だと思いますが」
「先ほども言った通り、コネクションづくりの一環です。不利だなんてとんでもない・・・・・・それとも金額にご不満が?」
慌ててカークは首を振る。
「と、とんでもない!!」
「でしたら、この依頼受けていただけますか」
カークはルリを振り返る。彼女は此方を見返すだけでよいとも悪いとも言わない。
「・・・・・・はい、よろしくお願いいたします」
花の香りの残り香を残した青年の背を見送る。年の頃は同じくらいだと思うが、どうにももっとしっかりして落ち着いだ青年だった。
カークはそうひとりで思いながら振り返った。
細かいことも決めたし、明日の朝またギルドの前に来るだけでいい。
「ルリ。明日に備えて今日は街でゆっくりしようか」
「はい。その方が良いかと思います」
珍しく感情を露わに力強く頷いた彼女を見て不思議に思うが、直ぐに思い至った。
そうか、まだ気にしていたのか。
「ルリのおかげで怪我はない。魔物狩りでも薬草狩りでも行けるぞ」
「いいえ!街でゆっくりしましょう」
焦って早口になる彼女の不器用な優しさに微笑んでギルドを後にした。




