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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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206:仕返し


「でも結局、俺の外見で調べられたら見つかるよな?」


白黒髪で髪も超がつくほど長い三つ編み。

その上厳つい眼帯をつけていれば、足取りは簡単につかめるだろう。


「だが、あの場で言い出すより何倍もマジだろ」


クォーツの言葉に確かにと頷く。

ギルドから疑いの目を向けられたとして、王宮の禁闕で過ごしているような人物が不正を働くとは考えもしないだろう。

そういう点では有利だ。


「お金返すのは明日でいいかな」

「そのほうがいいかと」


ルリの言葉にそうだよなと頷いて歩を進めた。


「この格好で王宮に入って問題ないと思うか?」

「まあ、仕方ないだろ?」


まあ、仕方ない。仕方はないが多分怒られる。

王宮に入り廊下を歩くメイドに声をかける。


「すみません」

「はい。いかがなさいましたか、カーク様」

「砂だらけなのですが、禁闕まで通ってもいいですか?」

「問題ございません。後で掃除をしておくので、お気になさらないでください」

「ありがとうございます」

「はい。ありがとうございます」


メイドに頭を下げ、その際にも砂が落ちる。

悲しくなりながらしょぼしょぼと禁闕に向かった。




各々部屋に戻り、カークはシャワーを浴びて自分の髪から流れ出ていく砂の量に愕然とした。


(砂除けの指輪、買おう)


金をためるのにいい狩場だと分かったので、いい投資だろう。

明日ついでにラナンティアにコートを作ってもらおう。リリギアニスに頼むと凄いのできそうだし。

髪を乾かすドライヤーのような形状の魔法道具を髪せっせと当てて乾かしていく。

乾かし終えるころには腕がつかれてうんざりしていた。

そこで扉が叩かれる。

バスローブを着て慌てて出ると朝髪を梳くのを手伝ってくれたメイドが一人立っていた。

食事ならそういうだろうし、無言で扉を叩いた理由がわからない。


「すみません、差し出がましいようですが……シャワーはもう終わりましたか?」

「はい。さっき」

「あ、遅かったようで申し訳ございません。寝るときは、ゆるく三つ編みにするといいそうですよ。リリギアニス様がおっしゃってました」

「ありがとうございます」

「お食事はもう少しかかります。お待ちください」

「はいわかりました」

「それとこちら、今日は禁闕ではこの服装でお過ごしください。代わりに、皆さまの服を回収しております。明日の朝には綺麗にしてお返しします」


そう言われて、慌てて服を取りに部屋に戻り、それから服を手渡した。

彼女は一礼して去っていった。

慌てて髪を三つ編みにして身なりを整えようとして受け取った服を広げる。

フリルたっぷりの赤いシャツ。金の薔薇の刺しゅう入りの黒いズボン。

下着類は普通だったのはうれしかった。

これもしかして全員同じ目にあっているのでは?

そう思うと肩を落とすしかなかった。




案の定、皆フリルやレースのたっぷりあしらわれた服を着て食堂に集まった。

ただ全員、気にしてないというか、着こなしている。

シンジュはもともとそういう感じの服装だったし違和感はない。色が黒から真っ赤になっただけで。あと赤いレースのグローブも身に着けていた。可愛らしいかんじだ。

ルリは青いフリルのシャツにハイウェストの長いレーススカート。多分、悪目立ちすると考えたんだろう。青系統で統一されていた。凛とたたずんでいて美しい。

オニキスは緑のフリルのシャツに刺繍が施された短いズボン。こちらも可愛らしい。上品な貴族の子息にしか見えない。

クォーツは赤いフリルのシャツに黒いベストを着せられ、レースのタイをつけていた。ニッカポッカ調の黒いズボンにもレースがあしらわれている。

思わずクォーツを指さして笑ってやった。


「あはははは!!」

「お前、仕返しか」


すっと真顔に戻って頷く。


「当たり前だろ」


クォーツは一つ舌打ちをして、扉を叩く。

中から執事が現れ、お辞儀をした。


「どうぞ」


ぞろぞろと中に入るとジェラルドが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「〈砂の城〉に行って砂だらけになったんだって?」

「ええ。すみません」

「いいよいいよ。掃除するの僕じゃないし」


素直に謝るとジェラルドは無邪気にそう言った。

まあ、王様直々に掃除することなんてないだろうしな。


「適当に座って」

「はい、ありがとうございます」


席に着くとステーキが運ばれてくる。


「明日からは晩餐会とかあるから、僕いないけど、禁闕のものも部屋も好きに使っていいからね」

「恐縮です」





「どうだった」


ウェザミューはそう問いかけられて委縮しながらも答えた。


「どうも……その、王宮に出入りしている様子で、詳しくは調べられませんでした。出てきてはいないので、多分、王宮で過ごしているようなチームです」

「D級なのにか?」


強面のギルド長の言葉にますます委縮する。

あれだけ目立つチームなのに集められた情報が少なかった。

王宮はあまりつつけない。宰相にばれようものならギルドの立場が悪くなる。


「新しいセフィラという線は?」

「多分そうかと思います。空席が埋まったとの話が出ておりますので、ただ」

「なんだ?」

「新しいセフィラの方は魔導研究所から出てきていないとの話もあります。後、髪の色が違いますし、女性だそうです」


ギルド長は腕組みをして深く考えるように頭を傾ける。


「2人同時にと言う線」

「そんな稀な事ありますか?」


理由は知らないが、セフィラは10人しかいない。その代わり全員が王に直接意見できるほどの地位を持つ。

王家と言うものがないこの国においては、あまり重要視されるようなことではないように感じるかもしれないが、そうであっても強権を持つ。

内政は国ができてから大体は宰相が請け負っている。貴族のほとんどは、宰相ハデスに忠誠を誓っているほどだ。宰相は代替わりしたことがなく、建国してこの方、国の運営を担っているのが理由でもあるのだが。

だから、宰相ハデスからの印象が悪くなるような真似はできない。


「これ以上は本人たちに直接聞くなどの手段しか取れません」

「喋りそうか?」

「どうでしょうか、非常に警戒心が高いように感じました。余り情報は出さないでしょうね」

「買取を拒否してみては?」

「拒否したとしても、錬金術師ギルドや商会ギルド、鍛冶師ギルドは買取を喜んでするでしょう。鱗を持って行った際、どのチームだったかを熱心に聞いてきましたから、あちらもあのチームを探しているはずです」

「久しぶりの赤影と黒円の討伐だったからな。鱗は高く売りつけられただろう」

「はい。十分です。あのチームもS級でも問題ないかと思います」

為人(ひととなり)を知らないからな、なんとも言えない」


窓の外から3つの月を見上げて、溜息を吐く。


「S級が行くのは〈水天〉、〈氷原〉、〈砂の城〉くらいだ。どうだ、他にも行きそうだったか」

「わかりません。〈砂の城〉に行くのに砂対策だけ怠った様子だったので、あまり情報通でもないようです」

「そうなのか?変なチームだな」

「D級らしいと言えばらしいな。〈氷原〉に行くなら滑り止めが必要だと伝えとけ」

「はい」


それだけ言ってウェザミューはお辞儀をして、部屋を去った。



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