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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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202/272

200:いい迷宮探し

時計を買ってもらって恐縮するカークとは裏腹に実際に買ったもらった仲間の反応は淡白なものだった。

「これからどうしますか?」

ルリの言葉にちらりとジェラルドを見ながら言う。

「冒険者ギルドを覗きたいなあって」

「お!いいねえっ!」

ほらきたぞ。

でも時計を買ってもらった手前、無碍にするわけにもいかず苦しい言い訳を考えているうちに諦めた。

依頼を受けるつもりはないが、街中を歩くだけならまあ、セフィラはみんな強いし、ジェラルドも自分の身くらいは守れるだろう。

「どこにあるか知ってますか?」

「もちろん!僕、たまに依頼出しているんだ!冒険者の話さ、聞くの楽しくて」

「ええ?」

仕事しろよという言葉を何とか飲み込んでひきつった笑みを浮かべる。

どうせ、何を言っても通じないというか押し切られる。

「こっちだよ」

と言われお辞儀をしている店員を置いて後をついていく。

そこからは結構歩いた20分ほどだろうか。

何せ道が入り組んでいる。

「そういえば以前、オニキスが言ってたな」

「なんですか?」

オニキスの返答を聞きながら歩き続ける。

「街の建物を作るとき素材を変えて魔法防御を上げるって」

「はい。本にそう書いてありましたし、ロイノーネ陽王国の王都はそうですよ。カラフルです」

そこで周囲を見渡す。それで気づいたのだろうオニキスも首を傾げた。

「ここは全部白いですね」

「うん。王都はセフィラが誰か常駐しているから戦力的にはよほどのことがない限り大丈夫だし、白亜の建物は鳴王国の名産品の頑丈な石でできているんだよ。道はただの石の畳だけど。魔法防御は王都全体を魔方陣にすることで上げているし、物理的にも強い」

「へー。すごいですね」

街全体を魔方陣にしているということはそれだけ道が入り組んでいるということだ。なるほどと納得した。

巨大な王都を支えるのは大変なのだ。

そんなことを話している間に賑やかな大通りに戻ってきてそこは雑多だった。

慣れ親しんだ庶民の匂いがする。

露天商が美味しそうなフランクフルトやイチゴ飴を売っている。値段は若干高く感じたが、まあ、お祭り気分だろう。

「随分にぎやかですね」

「うん。もうすぐお祭りなんだ」

「へえー。何のお祭りですか?」

ジェラルドはカークを見上げてにこにこ笑う。

つられてにこにこと笑い返した。何歳かはわからないが見た目はエルフの少女だ。優しくしたくなる。

「僕の治世100周年記念」

「ごっほっ!うぇ!?100年も続いているんですか!?凄いですね!」

「いやあ。えへへ」

まあ仕事してないけどなという言葉も飲み込んで、ハデスの仕事量に納得した。

多分アーテーの仕事量も途轍もないだろう。

ここで遊んでいていいのか国王。

(まあ、いいか。干渉してもいいことはない。陛下を怒らせると怖いしな)

「あと2週間後にはお祭り本番!それまでは他国からいろんな人が来る」

「ここで遊んでいていいんですか?来賓もあるでしょう?」

「今日くらいは大丈夫。明後日からは謁見の数が急激に増えるよ。だから息抜き息抜き」

まあこれくらいのほうが何事も長続きするんだろう。

「外交もあるし、商人とも話のすり合わせをしないといけないし、やることいっぱい」

あ、ちゃんと仕事してたんだ。

「ほとんど外交官の仕事だけど、陽王国の支援を決定したから商人に品物を回すように頼んで回らなきゃならない。アーテーが何とかするだろうけど」

「アーテー様は随分有能なんですね」

「そうなんだよ。助かるよー。昔から賢い子でね。セフィラになったときはお祝いにあげた指輪をずっとつけているし」

あの不釣り合いなほど豪華絢爛な指輪はそういうことだったのか。

「なるほど。仲良しなんですね」

「そう!仲良し!」

嬉しそうに頬を染めて笑うジェラルドは無邪気な少女にしか見えなかった。

不意に今の言葉のおかしさに気付く。

「昔から賢い子で?」

「うん?うん」

「生まれたときにセフィラになるかどうか決まるのでは?」

拙い言葉ではあったが意図は通じたらしい。ジェラルドは首を振る。

「セフィラになる資格は全人類種族問わず存在する。意思疎通が可能なら、ウサギだろうとも古竜でもセフィラになれるよ。重要なのは、そのセフィラの素質を生かせるかどうか。育てられるかどうか」

だからと続ける。

「セフィラとして受け入れられる為には一定の器と安定した魂が必要だ。だから、発見されれば生まれてすぐ、セフィラとして育てられる可能性はあるけど、極めて稀だよ。基本的には器の育った人物をタナトスとヒュプノスが探す」

「で、セフィラにすると」

「そう。だから空席の期間が長い。セフィラに適性がある人物を発見できても寿命を迎える可能性もあるし、逆にまだ不安定な場合もある。イナンナは器は不安定だったけど、セフィラになれた」

「危険な橋だったのでは?」

眉をひそめてそう問うとジェラルドは首を振る。

「いや。イナンナは十分セフィラになる資格を有していた。博打でセフィラにしようとはしないよ。数百年前に無理に資格がない人物をセフィラにしようとして失敗している。無理に例えるなら、セフィラになるには50のセフィラの水が必要で、イナンナは50から70を行ったり来たりしていた感じ」

(やったんだ)

カークの苦い顔を見ながらジェラルドは肩を竦める。


王都ユーラの冒険者ギルドの賑わいぶりはロージニアの比ではない。

初めて見たときロージニアの賑わいぶりには驚いたものだったが、ここは段違いだ。

人が犇めき合っている誰それが足を踏んだだのという言い争いがそこらから聞こえてくる。

が、扉で周囲を見渡している絢爛なドレスを着たジェラルドを見た冒険者たちが道を開ける。

「ジェラルドお嬢さん!」

人ごみをかき分けて現れた赤い星型水晶を首から下げたA級冒険者が声をかけてくる。

巨躯を縮こませてジェラルドの目線に合わせようと努力する様は涙ぐましい。

「今日はどんな依頼を受けるんですか?」

「今日は友達と一緒」

「友達」

白黒三つ編みのカークを見て、それからクォーツに目を移し、ルリ、オニキス、シンジュと見ていく。

「竜人2人、獣人1人、グール1人、それにエルデン・グライプ?」

ざわっと空気が揺れる。

ひそひそと冒険者たちが声を潜めながら隣の冒険者と話し始める。

「なんでわかるんですか?看破の技能ですか?」

「そうだ。派手ななりで冒険者かあ?」

「ジェラルドへ、さんも十分派手だと思いますけど」

へっと巨躯の男は笑う。

「お嬢さんはいいんだよ。依頼者だから」

そして、カークのことを見ながら怪訝な顔をする。

「冒険者証は?」

「ありますよ。ほら」

服に合わないため首から下げてはいたが隠していた胸元からD級の黄色の雫型水晶の冒険者証を取り出し見せながら言う。

「ああ、再発行してもらったのか」

クォーツの言葉に頷く。

「うん。高かった」

地味な出費に唇を噛みしめる。

「D級ごときがお嬢さんの友達い?」

「良いじゃん別に」

「あ、はい。すみません」

明確な上下関係に目を白黒させていると巨躯の男は去っていった。

「何見たいの?」

「どんな依頼があるのかなあと」

「昼過ぎだし、あんまりいいのはないよ」

「ですよね」

そうは言いつつボードまで歩いていく。

ジェラルドが先頭のおかげで道が開いていくのはちょっと面白かった。

ボードの前から群衆が割れて開かれる。

ボードを見上げると彩り豊かな依頼表でいっぱいだった。

だがどれも所謂‶美味しい”とはいいがたい。

王都の近くは森もなく、平原が広がっており、山が遠くにあるだけで見渡しがいい。

大半の依頼は輸送や仕分けそれから警護などだ。

警護はB級以上が主で、まだ貼られているということは、割に合わないか依頼主が悪いかのどちらかだ。

いやよく考えたら警護なんて割の悪い仕事しねえか。

「ああ、迷宮あるのか」

迷宮産の何か小物を求めるふわふわの依頼が貼られているのを見ながら問うとジェラルドが答える。

「結構あるよ16個ある」

「この近辺でですか?」

「馬車で1時間以内ならそんだけあるね。ただS級向けの迷宮も交じってるから」

ほらと指さされた先には黒い紙に白いインクで書かれた依頼書。

「ええー『迷宮〈水天〉の宝石が欲しい』なんでS級なんですか?それだけなら別に、A級でも行けそうですけど」

「さっきのA級のチームならいけると思うけど、ほとんどいけない。〈水天〉は全部水中なんだ。最低でも水中呼吸の技能がないと無理」

「うわあ」

そりゃ無理だ。水中呼吸の技能なんてどうやってとるのか。

いや水獄の君の神性を受け入れて技能を取得するというパワープレイも可能ではある。

が、興味ない。

「でも迷宮は行ってみたい。明日いこうかな」

「おすすめは〈水晶の花〉。中は洞窟でところどころ水晶の花がいっぱいある。50階層まであって最終階層のボスはいい素材とれるよ」

「へえ。どんなのがとれるんですか?」

「宝石いっぱい」

ぱっと両手を広げられて苦笑した。

「そうですか。いい狩場っぽいけどなあ」

「C級チームなら余裕の迷宮だよ」

LVで考えればC級どころかS級だが、実戦経験が乏しいカークがネックだ。

「他はどんなところがあるんですか?」

「〈砂の城〉はいいよ。LVがあれば美味しいらしい。暑いけど」

「暑いんですか」

「砂漠の中を歩くから水分必須。10階層まであって、各階層のボスが竜なんだよね」

「うわあ」

「地竜と飛竜が交互に出てくる。鱗をきれいに取れれば高値で売れるから、人気」

「値崩れとかしてないんですか?」

ジェラルドはカークの問いにふふと心底おかしそうに笑う。

「値崩れするほど取れないよ。最初の階ですら到達は難しいのに、最終階層の10階まではS級じゃないと到達できない。でもS級は〈砂の城〉には行かない。そんな時間ないからね」

「え?時間がない?」

「そう。S級ともなれば社会的地位がついてくる。商人ギルドが直接護衛にと要請することも多い。だから、S級は基本的に時間がない」

仕事しろよ国王。冒険者だって頑張ってんだからさ。

なんて言えるはずもなく。

「砂漠かあ。そのうち砂漠の国とか行くかもしれないし、経験積んどこうかな?」

「いいんじゃないですか?」

ルリの言葉にカークは微笑み、くるりと振り返った。

「じゃあ、〈砂の城〉に行こうかな!」

「いいなあ。僕も行ってみたーい」

目をキラキラさせるジェラルドに背筋が凍る。

「お嬢様、さすがにそれは」

執事のナイスフォローにカークは心からの喝采を送り、ジェラルドは頬を膨らませる。

「なんだよう」

「じゃあ、今日はもう王宮に戻ってくださいね」

「お嬢様、どうぞよろしくお願いいたします」

ぐぬぬと拳を握っていたがジェラルドは憤懣やるかたないと肩をいからせ冒険者ギルドから出ていった。

「〈砂の城〉の情報を調べようか」

「はい」

仲間の威勢のいい返事を聞きつつ明日の迷宮探索に心を躍らせた。



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