164:剣できた
「ほい。できたでね」
鍛冶屋の男はにっこにっこと愛想よく笑い、棒にしか見えない剣を4本カウンターに乗せる。
シンプルなデザインの剣だった。鞘に彫刻はされているが最低限の物で、華美さと言うものは一切ない。
クォーツは剣のひとつを手に取るとそれをすらりと抜き、光にかざす。
白く僅か透けて見える刀身が煌き、美しく残忍にこちらを見た。
「・・・・・・ちょっと薄いな」
「あー?文句かん?」
さっきまで愛想の良かった男はブスッとした顔でクォーツを睨むがクォーツ本人は肩を竦める。
「腕がいいと言いたかったんだ」
「ならいいわ」
鍛冶屋の男は再び機嫌よく笑い、今度は弓を取り出した。
淑やかな赤い木で出来た弓は場に馴染みそれが狩りに使われるものだとは思わせてはくれなかった。張られた弦は竜の腱。それを留めるのは高価な素材。
クォーツの剣は地味なものだったがシンジュの弓は美しい工芸品の様だった。
「ほい。これが弓」
「ああ」
一度カークが受け取り、シンジュに渡す。
彼女は張り具合を見てから珍しく薄く微笑んだ。
「良い弓だ。感謝する」
直ぐに笑みを消してしまったがシンジュの興奮具合が分かる。何せ何度も弓を撫でているのだから。
鍛冶屋の男は満足気に何度も頷くと口を開いた。
「こっちこそ感謝しとるでね。赤鶴木なんて滅多にお目にかかれるもんじゃない。楽しかったわ」
「楽しかったならよかったです・・・・・・?」
品質に問題が無ければカークとしては何も言うことは無いが、それ程に鍛冶というのは楽しい物なのか。
(腕のいい鍛冶屋さんはまあ、これくらいのモチベーションじゃないとできないのかもなあ)
なんとか思っていると鍛冶屋の男がカークに向き直る。
「んで代金」
「あ、はい」
「材料費なんかも込みで金貨500枚でいいに。出血大サービス」
「あ、ありがとうございます」
どのあたりがサービスされているのか明細請が欲しくなるがそれを言っても栓が無い。
カークは若干肩を落としながら金貨の塔を積み上げていく。
10枚の塔が50個やっとできると鍛冶屋の男は金貨を受け取り、カウンターの下へとそれを乱雑に置くとずいと身を乗り出してきた。
思わずカークが一歩後ずさるが、男は構わずにんまりと笑い口を開く。
「もっといい素材が手に入ったらいつでももってこりんね」
「あ、はい・・・・・・」
分かったこの人鍛冶が大好きなんだ。仕事に誇りを持っているし、その上で好きでたまらないんだ。
日本人のオタク根性に似たものを思い出しながら愛想笑いを浮かべてカークは会釈をし、一行は鍛冶屋を離れた。
「ラナンティアさんに魔法付与してもらえるか聞いてみようか」
「はい」
ルリがそう言って頷くのを見て路地裏へと足を進める。
ラナンティアの店に入ると宵闇色の髪のエルフの青年が丁度こちらを見たところだった。
彼は深くお辞儀をしてカーク達を迎え入れる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
完璧な微笑みにカークは会釈を返して4人を振り返り、クォーツを見た。
「剣を貸してくれるか」
「ああ」
クォーツから剣を4本受け取るとそれを持って、ラナンティアに話しかけた。
「剣の魔法付与を行って欲しいのですが、お願いできますか?」
「鑑定をさせていただいても?」
「はい。よろしくお願いします」
鑑定もできるんだな。そんな事を思いながら4本の剣をカウンターに置くと彼は剣に触れ、それから剣を抜き、を4本全部にして微笑んだ。
「問題なく魔法付与させていただくことが出来ます」
「え?あ、よ、良かったです」
LV40以上の魔法付与師なのか技能:魔法付与Ⅳを持っているのかは不明だったが彼のばあは前者な気がする。
彼は剣を手に取り、カークに問うた。
「LV88ティユレイの鱗を錬金鍛冶で鍛造した武器であれば、合計80までの魔法付与LVが可能ですが、ひとつの魔法付与に割ける限界値はⅥです。これは素材の問題ですのであしからずご容赦ください」
「はい解りました。クォーツ」
「あ?」
「魔法付与、何をにしてもらう?」
そう聞かれてクォーツは呆れたように一言いった。
「値段聞いとけよ」
「・・・・・・すみません。魔法付与っていくら位かかるものなんですか?」
ラナンティアはその質問にひとつも嫌な顔もせず綺麗な笑顔のまま答える。
「LVⅥでしたら、魔法付与ひとつ金貨90枚で承っております」
「ひぇ」
「言っとくが、この店は破格の安さだからな」
クォーツの呆れかえった声にカークは身を凍えさせて肩を掻き抱いた。
魔法付与された武器が出回らない訳だ。
「ひぇえ」
「俺はとりあえず、【頑強:Ⅵ】が付いていればいい。駄目ならⅤでもいい」
遠慮のない言葉に苦笑しながらカークは頷く。
「元もと金貨1000枚クォーツの武器に使う予定だったし、【頑強:Ⅵ】を4本に付けて貰おう。ラナンティアさん、お願いします」
「はい、畏まりました。少々お待ちください」
そう言って彼は4本の剣を持って店の奥へと引っ込み、直ぐに帰って来た。
魔法の詠唱が聞こえたりだとか、謎の光に包まれるとか言うことは無く、1分ほどで帰ってきたのだ。
「お待たせいたしました。ご確認のため、こちらでの鑑定をお見せします」
ラナンティアが剣に触れると半透明の板がカーク達に向けて中空に映し出される。
そこには作った人物と剣の素材、現在の魔法付与が記されている。
「確認しました」
カークの言葉にラナンティアは頷き、半透明の板を消した。
「本日のご購入金額は金貨360枚になります」
「ふぉ・・・・・・今出します」
一日で随分と散財したが、カークはひとつ頷くだけで財布を取り出す。
何事にも初期投資は必要なのだ。クォーツに弱い武器を持たせても逆にうまく使いこなせず、怪我に繋がる事だってあるだろう。
それに強い武器を渡しておけば、クォーツは大概の事から守ってくれるのは間違いない。
これはチームの為であり、自分の為でもある。
金貨を山と積みながらカークはひとり納得していた。




