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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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13:獲物だったはず

ジャニスは珍しく機嫌がよかった。

2日前に“狩った”獲物の持っていた指輪が高く売れて手持ちが潤ったからだった。

これに関しては相棒のドミニクも同じだろうが、ジャニスは特別機嫌がよかった。

白色級の雑魚が持っていたとは思えないほど高額で売れて、借金をやっと全額返済できたのが機嫌のよさの理由だ。

ジャニスは生まれも育ちもロージニアの市民で、農民たちからすれば勝ち組だろう。

しかし実情は違う。ジャニスはずっと泥水を啜り、腐った食べ物を探しては腹に納めるような暮らしをしていた。

酒のみの父がいつも面倒事を起こしては金を家に入れず母は病気で亡くなった。

そんな家に金などあるはずがない。いつも何処からか金を借りて、不安定な生活を送っていたが2年前に成人と同時に家を出て冒険者の道を歩みだした。

その頃は良かった。人生で一番夢と希望を持っていただろう。

ただし直ぐに現実に引き戻され泥水を啜る生活に巻き戻った。

弓の実力だけは人一倍だったが迷宮にいって一攫千金を狙うにも仲間が必要だ。しかし誰もジャニスを仲間に入れようとはしなかった。

仲間に入れてくれない冒険者に悪態を吐きながらも小さい仕事を受けては日銭を稼ぐ。ただしその日の宿代で稼ぎも消える。

希望の無い中で相棒ドミニクに会ったのは幸運だと確信している。

彼は新しい仕事を提案し、ジャニスもそれに賛成した。

何せ簡単で実入りのいい仕事だったからだ。

弱い冒険者を見つけて、森で処分する。それだけで金は十分に入った。

冒険者は基本的に財産を持ち歩いている。よほどの、そう、B級以上は十分すぎる財を持っているし信頼できるような銀行に預ける事が出来るが、それ以外は持ち歩くものだ。

D級もしくは駆け出しのF級はいいカモで、駆け出しなんかは何処からか金を借りているから金を意外と持っている。

だから率先して冒険者狩りを楽しんだ。

自分は最高にツイている。小躍りしそうな足取りでギルドの門をくぐった。

こう見えても冒険者だ異変には敏感である。

ギルドの施設内は騒然としていて 新たに現れたジャニスなど誰も見ていない。

何があったのかと覗っていると怒鳴り声が響く。


「指輪をどこにやったのかって聞いてんだよ!」

「・・・っ知らねえよ!言いがかりは止めろ!」


答えたのは相棒のドミニクだ。咄嗟に二人を囲んた人垣を掻き分ける。

ジャニスが一番前に出てくるとドミニクは顔色を悪くしながらも目の前の人物を罵った。


「でっち上げで俺を嵌めようとするんじゃねえ、クソ野郎」


罵られた方はよく見ると異様な姿だった。

乾いた血がべっとりと付いた金髪、麻の服は血みどろで随分出血したか頭から血を浴びたかのように、どす黒く染まっている。

そしてその顔は冷たく、氷を割るような冷たい笑顔をグレイに向けた。


「俺に矢を撃った女がいたろ?そいつを呼べば、証拠があるぞ。身が潔白なら呼べるよな」


何を言っているのだろう?だが間違いなく自分を呼びつける男の声に血の気が引く。

ドミニクは一瞬こちらを見て、目を見開き、顔をますます青くして言葉に詰まった様子だ。

血みどろの男の濁った青の目が戸惑い動けないジャニスを捉える。


「その女だ」


指を向けられ、逃げようと足を踏み出すよりも早く、周りの冒険者がその腕を掴み輪の中心へと突き出す。

たたらを踏むジャニスに冷たい声が浴びせられる。


「ああ、ありがとう。さて、矢を見せてもらえるか?」


片手に矢を持った男の言葉にジャニスは答えられなかった。

弓使いの弓は特注品で、矢はそれに合わせて仕様が異なる。

羽が違えば矢じりも長さも太さも材質も違う。目の前の男が何故ジャニスの矢を持っているかは知らないが、渡すことは致命的な行動だ。

言い逃れは一応出来るだろう。ジャニスの矢は購入したものだから別の誰かが同じものを購入して使ったのだと。

だがその苦しい言い訳を誰が信じるだろうか。

此処には腕のいい弓使いが沢山いるのだ。ジャニスの弓の癖すら言い当てて矢が誰が射たものかも言い当てられる。


「分からないか?矢を、見せろと言っているんだ」


殺意の籠った声にジャニスはサッと顔を青ざめさせて震える手で矢を差し出す。

差し出した矢はひったくられて、それから男は懐から矢じりの潰れた矢を取り出してよく見えるように掲げて周囲に見せた。


「・・・・・・ほら、証拠だ。同じ矢だ」


ジャニスが見ても同じ矢だ。

喉が狭まり苦い味が広がる。頭が白くなって混乱の中で思わず男の顔を見上げた。


「あああぁぁあ!」


ジャニスの口から悲鳴が零れる。

見た顔だった。2日前狩った獲物だった。

確実に殺した獲物だったはずだ。


「生きてるはずない!殺したはずよ!」


半狂乱のその声は受付中に響き渡り、冒険者たちも一瞬静まり返った。

だが男は構わず、裂けるような笑みを浮かべる。


「・・・自供してくれてありがとう」


見ていただけの冒険者たちが一斉にドミニクとジャニスを取り押さえた。




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― 新着の感想 ―
わ、わぁ…! いっきに物語が華開いた感じ 怖いなぁ蘇ってくるなんて
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