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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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130/272

128:業が深い


美しい微笑みを少し歪ませた地哭(ちこく)の君はそれでもカークに言い募る。

哀れな犠牲者。もしくは大切な餌。それをここで失うつもりは無い。


「それで、どうするんだ。僕の提案を断って、君はどうにかできるのか」

「・・・・・・真実を伝えればいい。古竜は継げないと皆に伝えます」


甘っちょろい考えを地哭の君は鼻先一つで笑い飛ばす。


「お前ひとりにそこまでの信頼があると思い込むのは結構だが、そもそも人間の醜さを分かっていない。連中は自分の信じたいものだけを信じ、不利なことは隠すことが好きだ。だから面白くって僕も飽きないのだけど」


思い当たる事があるのだろう。カークは俯き、足の先を眺め、口を開く。


「説得、します」

「無理だ。以前もそうだった。説得できなかったんだよ。だからあれは古竜になったんだ」

「・・・・・・」


別の国の話をされてもカークには理解できないだろう。

そもそも、古竜の話だってピンとこないのだ。そこで、全部嘘だったと打ち明けられても脳が理解を拒み、パンクするだけで先に進まない。


「甘い嘘を信じ込んで、喜んで生贄を差し出すさまは本当に愉快だ。君も味わえばいいのに」


理解を拒まれ、残念そうに地哭の君はそう言って、ため息を吐いた。

何を悩むことがあるのだ。他者を踏み潰すことで自身の栄誉も財産も仲間も全てを守り通せる。

これ程美味しい取引等ある訳が無いと地哭の君は己の優しさを鑑みて息をつく。


――ああ、自分も随分と丸くなったものだ


どこからともなく、真白い椅子を取り出した地哭の君はそれに座って、俯いて動かないカークを見た。

このままでは哀れな彫像だ。

生憎、時虹公(じこうこう)ほどではないが、地哭の君も気の長い方ではない。

特に目の前に大好物の料理が所狭しと並べられている状況では、少しばかり焦りが生じる。


「で?どうするんだ。本当に無駄に殺しあう気かい?」


慈悲深く、再び問えばカークは酷く憔悴した様子で、震えていた。

何をそんなに悩むことがあるのか、地哭の君には理解がしがたい。

いや、その感情の動きや機微は分かる。

同じ“人間”を見捨てるのは成程、心苦しいものがあるだろう。

だが、それがどうした?相手は“敵”だ。喰い殺すことに躊躇していては一歩も動けなくなる。

呆れ気味にため息を吐く地哭の君にカークは問う。


「花竜帝国に花竜は必須なんですか」


意図の分からない問いに地哭の君は辛抱強く微笑んで頷く。


「ああ、必要だとも。今は遊竜ピジウが何とか騙し騙し肩代わりをしているが、それも限界が近い。聖樹はあと30年ほどで国中の生命力を奪って枯れ果てる。そうなったら手遅れだ」


カークは意を決したように強い瞳で地哭の君を射抜き、口を開く。


「俺が、花竜を継ぐことは可能ですか?」


その決意は本物かもしれなかったが、世界の真相。成り立ち。そして、仕組みを知るものからすればそれはただの茶番であり、気持ちの悪い吐しゃ物と同等だった。


「馬鹿だな。君は無理だよ。その資格が無い。最低でも、花竜の血を継いでないと、代わりは出来ないし、竜に関しての才覚を恩恵を権利を資格をエルデン・グライプは喪失するんだ。だから“エルデン・グライプ”なんだから」


意味の分からない事を聞かされ、けれども、自分が花竜を継げなければ次の手が分からない。

説得できず、殺し合いを止められるだけの実力もなく、仲間を守り通せる実力もなく。

中途半端な決意だけが胸の内を食い荒らす。


「どうすれば」


途方に暮れて零れた言葉に返ってくるのは嘲笑だけだ。

カークは何かヒントはないかと必死に脳を動かす。頭の中に過去に誰かが言った言葉にヒントはないか?

だが、何も見つかりはしない。誰も、分からないのだから。誰も知らなかったのだから。


――いや、そうか。水獄(すいごく)の君


「“正しく”願いを叶えられるのは――」


その対価はいかほどか。カークには到底想像もできない。

けれど、此処で立ち止まる訳には行かなかった。

死んだままではいられない。

死んででも立たなければいけない。“仲間”の為に。

花竜帝国が亡べば、必定、周辺国家にも影響が出る。

故郷の陽王国と花竜帝国は密接な関係にあり、経済面、貿易面で助けられていることは周知の事実だ。

その上、花竜帝国は周辺国の中でもトップクラスの軍事力を持つ。

そんな国家が瓦解すれば、世界を巻き込んだ混沌が始まる。

混沌が始まれば、冒険者業もままならなくなるかもしれないし、仲間たちと離れ離れになる確率も上がる。

その引き金を引きたくはない。

カークは結局、“人間”に過ぎない。目先の利益を追い求めて走るしかないのだ。


「水獄の君」


祈るようにカークは呟いた。

その声は確かに白い部屋に響き、地哭の君の顔を歪めさせ、海色の髪を揺らし、大きな口が特徴的な純朴そうな高身長の青年はにこやかにその場に立っていた。


「ああ、やあ。呼んだかい」


彼はカークを見た。カークは彼の金の瞳を見上げた。

祈りを込めて、カークは膝を付き、懇願する。


「花竜を蘇らせることは可能ですか」


その懇願に対して降って来た言葉は残酷だった。


「不可能だ。彼女は、彼だったか?まあとにかく、あれは自害したんだよ」


とんでもない情報にカークは震え、顔を歪ませる。

そうして、水獄の君は笑顔で告げる。


「真相はこうだ。あれは何十年か前に“人間”に恋をしたのさ。身が焦がされるほどの恋をね。しか

し、自身が古竜である以上、その恋が実ることは無い。それに憂いて、あれは自害した。数多の国民を置き去りにして、その義務を放棄して、自身の“核”を抉り取った。協力したのはほかでもない僕だ」


大きな口が弧を描き、笑みを浮かべる。

おぞましい笑みを見てカークは唇を戦慄かせた。


「先々帝が弑害奉ったと」

「嘘だよ。嘘。外聞が悪いだろ?まさか皇帝の子どもに恋をしてそれが実らないから国を見捨てたなんて、どうして言える?」


絶望だ。

希望などない。

祈りは通じず、あるのは残酷な現実だけ。


「そうなのか。そう、だったか」


項垂れるカークの背後からその男の声がして、驚いて振り返る。

そこには、黒い髪に赤い瞳の美丈夫アレスが立ち竦み、悲し気に顔を俯かせた。


「・・・・・・エニー」





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