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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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129/272

127:ハッピーエンドは水底に。バッドエンドは星の彼方。けれど貴方はどちらも見ないだろう


「ホントに人間って馬鹿だよねえ」


彼はその美貌に容赦の無い嘲笑と抑えるつもりもない愉悦の笑みを浮かべて、地面に無様に寝転がる男に言った。


「は、あ?」


白く濁った空間。真っ白な空間にはどこにもただ一人以外誰もいない。

ルリは?シンジュは?オニキスは?レラは?

何がどうなった?

そうだ、死んで、レラに殺されてカークは――


「寝てる場合じゃねえ!」


カークは飛び起き、左右を見渡すと自分に起きるよう言い聞かせた。


「起きろ!起きろ!起きろ!!」

「無駄だ」


男は嗤った。心底可笑しそうに、獲物を捕らえて離さない蜘蛛のように悠然と微笑んだ。


地哭(ちこく)の君。何かしているなら、直ぐに離してください」


噛みつくような声にけれど、彼は全く堪えた様子はなく、肩を竦める。


「僕が離したとして、それで君は、中途半端な覚悟でもう一度あの人間に挑むんだろう?」

笑顔で伝えられた冷酷な言葉に言葉が出ない。

ああ、確かにカークは中途半端で覚悟も出来ていなかった。

唇を噛むカークに美貌を歪めた男は“貌”を近づける。


「馬鹿な奴らだ。もう、意味が無いのに」


美貌の男の哄笑が耳を突く。

カークは壁からさえも聞こえるような耳障りな哄笑に耳を塞ごうとしたが、それを“地哭の君”両手を掴んで阻む。


「駄目だ。ちゃんと知っておけ。ここからが本当に面白いんだ」


にやにやと嗤う顔のおぞましい事。

カークは顔を歪めて腕の自由を取り戻そうとしたが微動だにしない。

そして、その艶やかな唇が裂かれて紡がれた言葉は、絶望に等しい。


「意味が無いんだよ。最初から、これに意味はない」

「は?」


金色の目が細められて、愉快気に口がゆがめられる。

それと同時に腕の自由が戻り、カークは嫌な予感に、おぞましい想像に身を震わせた。


「――ははははははははは!!!滑稽だ!信じたのか!?人間に!古竜が!継げるだなんて!?」


哄笑はしばらく続き、カークが言葉を顔色を失っている間にぴたりと彼の声が止み、冷淡な声が降ってくる。


「馬鹿馬鹿しい。昔から変わらない。夢幻に身を委ね、盲信し、ありもしない希望に心を躍らせるのは楽しかっただろう。お前たちは無駄に殺しあっているんだよ」


震える手でカークは口を塞いだ。


(吐き気がする。俺は何を聞いた?)


恐怖が、絶望が、全身を支配し眩暈がする。

そんな訳ない、そうだ、言っていた。


「前例が、あるって」

「ああ、あるよ」


希望を持って顔を上げると待っていたのは侮蔑の笑みだった。


「僕が手伝った。望むままにあれを新しい古竜にしてあげたのさ」


妙技の手品を披露した手品師のように両手を広げ仰々しく彼はお辞儀をした。

傲慢な“神”に対しての怒りで絶叫しそうになったカークの口から灰色の液体がごぽりと零れる。

それを抑えても、意味がない。次々と溢れる。憤怒と一緒に傲慢な神へとカークは、地哭の君に掴みかかる。


「『喰い殺してやる!!』」


灰色の唾液をまき散らしながらカークは怒鳴る。それは何かもっと地底から、極寒の地から響く、悍ましい者の声が混じったような低い声だ。

灰色の液体はひとりでに蠢き、段々と黒ずみ、足元を汚す汚濁になる。

名状しがたい光景に、けれど地哭の君は微塵も興味を示さなかった。

それどころか鬱陶しそうにカークを突き飛ばし、冷淡に言い放つ。


「良い所なんだ。邪魔するなよ」

「『貴様から喰ってやる』」


カークの白目が黒く濁り、瞳は冷淡な金色へと変貌する。

そして、黒い涙を滂沱と流し、苦悶の声を上げた。


「『殺して(くって)やる。殺して(くって)やる・・・・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』」

「無理だよ。それじゃあまだ弱い。器が耐えられないさ、“知灰泥(ちはいでい)の王”。諦めたら?」


吐き出され、もしくは涙として溢れたその黒い液はさも自我があるかのように蠢いて地哭の君の足を掴み服を汚すが彼は気に留めずに嘲笑した。


「こんなちっさくなっちゃって。まあ、まあ、まあ・・・・・・お可哀想に」


ばぎっという音は肉を裂く音と共に響き、カークはよろめく。

グラグラと揺れる体を支えるのは2本の両足ではなく、1本の人間の足とゼリーのようなぶよぶよとした黒い物体だった。


「『喰わせろ』」


黒い液を吐き散らし、悶え苦しみながら必死にそれは当たり散らしたが、地哭の君にとっては何の興味も引かない。


「いいから、帰れよ。良い所だって言ってんだろ」


ぱちんと地哭の君が指を鳴らすと彼自身の腕が吹き飛ぶと同時に白い空間から汚濁じみた黒い液もゼリーもなくなる。

ばったりと倒れるカークが再生するのは大した時間はかからない。何せ夢の中だ。

地哭の君が“知灰泥の王”を帰還させる代償に吹き飛んだ腕を再生させて服も元通りにした辺りで彼は意識を取り戻し、困惑したように起き上がって、地哭の君を見た。


「・・・・・・?どう、どうして、起きないんだ?」

「はあ、面倒くさい・・・・・・まあ、兎に角、君たちがやっているのは無駄なんだって。無駄な殺し合いに終止符を打つ方法がある」


カークは顔を青褪めさせて震える。

また“奴”が出てくると面倒くさいと考えた地哭の君は美貌を歪めて本題に移った。


「中途半端な覚悟しか持てない君に提案がある」

「なんですか」


警戒心を隠さずにカークが問うと彼は満面の笑みでいうのだ。


「望みを叶えてあげよう。今なら無料だ」

「望み・・・・・・」


にたりと笑う男をカークは見返した。

決して安い物事ではない。これは受けてはならない。

口を噤んだカークに天使のような安らかで優しい笑みを浮かべた男が囁く。


「仲間を追い立てるこの国が憎くないか?」


ぱっとカークは地哭の君から離れる。

彼はまだ優しい笑みを浮かべている。父のような包み込む優しさを持った笑みだった。


「アイツらがひき肉にでもなればいいと思わないか」


地哭の君は柔らかに微笑み、手を差し出す。


「苦しみぬいて、恥辱の果てに死に絶えればいいと思わないか」


カークは絶句した。


――そんな悍ましい願いなど無い


だがこのままでは、カークはレラに勝てない。

違う。その覚悟を持てない。

そして、持てたとして、仲間を守り通せない。

分かっている。カークでは守り切れないのだ。

だが、カークは目を閉じて、拳を握った。


「僕に任せてくれれば、1匹残らず潰してあげるよ。その後に君の国を作ればいい。仲間もみんな平和で、ハッピーエンドさ」


おぞましい、提案にカークは薄く笑った。


――ああ、そうか。“知って”いたんだ。水獄(すいごく)の君は、知っていたんだ


「お断りします、地哭の君」





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― 新着の感想 ―
[一言] カークは知灰泥の王の神性持ちなのか。 こっちが最上の方かな?
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