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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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112:待っていろ


尋常ではない速度を味合わされてイナンナは不機嫌極まるとばかりに傍らの男、ヴェノテシアを見上げて、呻いた。


「首が痛いんだけど」


ヴェノテシアはいっそこの反応すらも面白いと少し身をかがめて彼女の不満を聞く体勢に移る。

確かに彼女は周りにはいないタイプだったから、面白いというのは間違いないだろう。

ただ、少し、彼女が心配だった。他者を慮るのは珍しい事だが、それを自覚しないまま彼女の生末が気になって仕方がない。


「次の街に行くの一言でヒトを一日中担ぐのは、やめて」

「次は気をつけよう」


呆れ顔でイナンナはヴェノテシアの返答を聞き、口を尖らせる。


「本当かしら」

「鋭意努力する」


不安だわと彼女は嘆き、それでもそれ以上言い募ることは無かった。

納得がいったのではなく、言っても無駄だと悟ったのだろう。

この街、ベリスクエを歩きながらヴェノテシアは不意にイナンナのマントのフードを深くかぶらせた。

こういう時は大抵、軍人が側を通る時だった。

案の定、傍らを軍人たちが通り過ぎ、イナンナは肩を竦めた。

この謎の行動に疑問は感じるが、別に深く調べたいという感情はない。

依頼料を貰えればイナンナはそれで満足だったからだ。

それから10分以上歩き、イナンナからすれば上等な宿屋に辿り着くとヴェノテシアは驚いたような声を上げ、先客を訝しげに見た。


「クェーゲルニルムと・・・・・・」

「よせ、俺はアレスだ」


言いよどむヴェノテシアに黒い髪の男はそう不愛想に言い、その傍らの長すぎる桃色の髪の青年は苦笑してヴェノテシアに向き直って丁寧にお辞儀をして微笑んだ。


「何故こちらに?てっきりまだ陽王国に用事があるのかと」


桃色の髪の青年クェーゲルニルムに問われヴェノテシアは言いづらそうにしながらも結局は言うことにしたらしい。ため息交じりに言う。


「はあ・・・・・・2手に分かれる方が確率が上がるとの考えでこうなっている」


抽象的と言うか具体性が無く、ふわふわとした物言いだったがクェーゲルニルムはヴェノテシアの隣に立つ赤い髪の少女イナンナを見て何処か納得がいったように頷き、苦笑した。


「なるほど」


といい、アレスを見上げて彼が肩を竦めるとそれにも苦笑を零した。


「貴方も手紙を?」

「手紙?何のことだ」


クェーゲルニルムは一瞬考えたようだが、何もなかったように話を続けた。


「・・・・・・指輪が見つかったと」

「なに!?」


ヴェノテシアの声は宿中に響くのではと思えるほどに大きく、しばらく一緒にいたイナンナですら聞いたことのない声量だった。

それだけ彼が驚くほどの指輪とは何だろうか?


「そ、それであの方は」

「俺達は呼ばれてここに来たが、もう一行はいないらしい」

「そう、呼ばれたのに、もういない」


クェーゲルニルムの声には緊張感が滲んでいる。


「迷って・・・・・・おいでなのだろう」


ヴェノテシアの言葉にクェーゲルニルムは量りかねるとばかりに首を振った。


「迷うのは分かります。が、此処に呼んで先に帝都へと行ったというのは、何故でしょうか」


口を開き、閉じる。ヴェノテシアは一度その仕草をすると神経質に整えられた顎髭に手を当てて口を開いた。


「もし、そうなら・・・・・・ああ、そうか」

「そうでしょうね」


憂鬱な溜息と怒りの滲んだ声。

イナンナは何が起こっているかもわからずに3人を見渡して、ため息を吐く。


「話が終わったら呼んで。長くなりそうだし」


全く気にしないとばかりに彼女は宿屋のエントランスのソファに座る。

サッとやって来た従業員に果実水を注文して堂々と待つつもりのようだ。

3人はそれを見て、肩の力を抜いてカウンターに控える従業員に声を掛けて1部屋借りるとそこで話を続けることになった。




「それで」


ソファに座ったアレスは額に手を当てて呻いた。

クェルムは不安げな顔を見せるも、それでも言及はしなかった。

ヴェノテシアが遠慮もなくソファに着くとアレスがため息を零す。


「身代わりには少々酷ではないか」

「良い手が思いつきませんでしたので」


それは皮肉か。

アレスはだが、その考えをすぐに捨てた。こんな事を話している場合ではない。


「まあいい。それより、アイツはなにを考えている?本気で国を捨てる気か」

「・・・・・・可能性は出て参りました」


皇位継承権を持つ者が何と無責任なとなじる事は簡単だった。

だが、それをすることはできない。

アレスは傍らに立つクェルムを見上げて、直ぐに目線をヴェノテシアに戻す。


「止められるか」

「止めるほかないでしょう。もしかしたら、彼らは裏切り者に見当がついているのやもしれません」


口を開き、アレスは低い声で言う。威圧感のある声で唸ったのだ。


「裏切り者の正体など、あいつらもとうに分かっている」


ぎょっと目を見開き、ヴェノテシアはアレスを見る。

酷く狼狽える姿を見るのは何度目か。


「ま、まさか?」

「だが、放置するほかなかっただろう。あの時、俺が殺された時点で告発しても国が傾くだけだった。今は、落ち着いているしその上で指輪が見つかったというのなら、もう放置する意味もない」


一息つき、アレスは怒りを抑えるように数度呼吸をして、強い目で睨む。


「奴はあいつ等が帝都に付いたと気づけば直ぐにでも帝都に向かうぞ。古竜を殺し、俺を殺し、国を売った愚か者を黙って見過ごすか」

「・・・・・・」


アレスの激憤の言葉に圧倒されなかったのは流石と言うべきだろう。

だが、それでも掌に滲んだ汗をぬぐえない。

真正面からの威圧に喉を鳴らし、ヴェノテシアは恐縮した。


「直ぐに」

「それがいいだろう。俺達も帝都に向かう。ついでだ」


そう言い、アレスはヴェノテシアを睥睨する。


「連れて行ってやる」

「は」


ヴェノテシアはソファから立ち上がり片膝を付くと深く頭を下げた。






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