101:ベリスクエ
平原に降り立ち背後の黒い門を消すと一息ついて腰のポーチから魔量回復薬を取り出して噛み砕いた。
「トヴェンセから7,8日なら、あー640km位かな」
トヴェンセから400km西に向かって【門の創造】を使って移動した。
ノアはノホルグラ大山脈を見上げて太陽の位置を見ると懐の時計を見た。
「うーん。かなりずれてるぜ。もっと南だ。200km・・・・・・180kmくらいか?」
ノアの言葉にカークは少し疲れたように笑い頷く。
これも仕事のうちだ。
「じゃ、南に180km移動しよう。【門の創造】」
ジワリと闇が浮き出て門を創り出すとその奥に闇が広がる。
闇からはあの悪夢で聞いた何かを奏でるような音が絶えず聞こえてきた。
恐ろしいのが、以前よりもそれが鮮明に聞こえる事か。
だが、恐怖してばかりではいられない。一歩踏み出して闇を越えると別の平原へと出てくる。大山脈は遠くの方に見えるが、やはり、元が巨大であるために遠近感がうまくつかめ無い。
「後は西に240km?」
「ああ、そこからならもうベリスクエの城壁が見えるくらいだろう」
ノアの言葉に頷き、再度魔法を発動させて闇を通り抜ける。
――見えた
「は?」
振り返り、背筋が凍る。何もない空っぽの闇。生臭く、混沌とした闇。
そのはずだ。なのに、どうして今、声がした?
幻聴か?
「カーク?」
オニキスの声にはっとなって魔法を解除した。
恐怖を振り払うように、恐怖をなかったことにするように。
「何でもない。ああ、あれがベリスクエか」
成程、大きな街だ。トヴェンセと同じか少し小さいくらいの城塞都市は堂々としたたたずまいでそこにあった。
「歩くとどれくらいだ?」
「結構近場に出たから30分くらいだ。きりきり歩け」
「分かった」
ベリスクエは成程、言われた通りトヴェンセと同じ様に花と緑に囲まれていた。
「本当にあるんだ」
「失礼な奴だな。言っただろ」
「あんな凄い草木がどこにでも植わってるなんて思わないだろ」
「どこにでもじゃない。こういう、大都市だけだっての」
ノアの言葉に苦笑して謝罪して大通りを歩く。
トヴェンセとは違い、軍人たちの姿が目立つ。
「軍人が多いけど此処は重要拠点なのか?」
カークの言葉にレラが振り返る。
「フォージェ山脈が近いせいだ。もっと西に2日ほど歩いたところがフォージェ山脈なんだ。そこから小竜だとか、魔物や魔獣が降りてくることが多い。北側の森林地帯はそれほど危険はないんだがな」
「成程」
敵の強さの程度は分からないが少し危険な地帯と言う訳だ。そのギリギリ安全と言う所に城塞都市を城築き上げたというのは凄まじい努力の結晶である。
「商人たちや冒険者もフォージェ山脈を通るから、本来はそこまで危険はないんだ。だが、此処10年ほどで急激に過激化している。そのせいで軍を張り付けていないといけなくなったんだよ」
「詳しいんだな」
感心したカークの言葉にレラははっとしてカークを睨むと顔をそむけた。
「・・・・・・噂だ」
「成程?」
今のは何か聞いてはいけない事だったのだろうか。
カークはレラの態度に戸惑いながらも歩を進めた。
――根掘り葉掘り聞いてみよう
耳元に聞こえた愉快気な声に寒気がして振り返る。
背後には誰もいない。なら誰の声だ。
「カーク?どうしました?」
ルリの言葉に首を振り、ゼト達を追いかけた。ぼんやりしている場合じゃないのに。
着いたのは宿屋だ。平均よりは良い宿屋。
「今回はここに泊ります。部屋を取った後は自由行動です。何日滞在するかは分からないので、準備は早めにお願いします」
「はい」
カークは背筋を伸ばしてそれに従い、宿屋へと足を踏み入れた。
気取った宿屋でないことはかなり助かった。一階は酒場という、一般的な宿屋であるのも助かった。
宿屋の鍵を渡されると、カークはそれを腰のポーチに入れてルリ達を振り返った。
「俺は約束した人を探しに行くけど、どうする?」
「私は一緒に行きたいです」
「僕も」
「私も一緒に行こう」
3人の優しさに感謝しながらゼト達に一声かけて街へと繰り出した。




