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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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100:悲鳴は聞こえぬままに通りすぎる

※祝☆100話目です!いつも読んで下さっている皆様、誠にありがとうございます!

拙い文章ではございますがこれからもお楽しみいただければ幸いです!


昼過ぎまで遊び惚けた。

思い出すだけでもカークはにやりと笑ってしまう。

魔法道具屋で様々な魔法道具を見た。火をつける魔法道具だとか、魔法光のランタンとか。

ああ、あまりにもランタンが綺麗だったから、カークは両親へのお土産に買ったほどだ。

鈴蘭を模した優美な曲線を描くランタンは美しくも儚げで夜闇を照らすのもやっとかと思うほどだ。しかし、暗い店内で見せられたそのランタンの力強さにはカークもオニキスも感嘆した。

生命力を感じたのだ。人工物であるランタンから確かに生命力を感じ、そして、家を守ってくれるだろうという確信を持てた。

結構な値段だったが、この外見と魔法光である事を考えれば妥当だと思える。

思わぬ収穫にほくほくとカークは微笑み、道を歩く。

花の街は何処も華やかで美しい。


「そう言えば、枯れた草木はないんだな」

「言われてみればそうですね」


カークは上を見上げてそう言った。屋根まで伸びる蔦につく花。どれをとっても瑞々しく咲き誇っている物ばかりだ。

それともう一つ気になったことと言えば。


「・・・・・・赤い花も少ないな」

「この国では赤は貴色なので、咲いたらとってしまうのでは?」


オニキスは本当に物知りだ。頭を撫でながら周囲を見渡した。

赤い花は極端に少ない。これだけ広い上に屋根まで伸びているというのに見つけても1つ2つだけだ。


「よく知っているな。その通り、赤い花は咲いたらすぐに取ってしまうから無い。とった奴はそのまま食う」


話しかけられて背後を見るといつの間にかノアが立っていた。

さっき周囲を見渡した時には確かにいなかったのに。


「あ、そうなんだ」

「おう。ところで観光はもういいか?」


その言い方と何処かぴりりとした雰囲気にカークは瞬時に理解した。


「追手か」

「ああ、もうこの街に来てる。もう行かないと」

「そんなにすぐ?昨日撒いた所だろ?」


驚愕し狼狽するカークをどう思ったのだろうか。

ノアは目を逸らしてそれからため息を零す。


「機動力で言えば、あの女の部隊はこの国屈指だ。魔獣に乗って全速力でこちらに向かってくれば、そりゃ、すぐつくさ」

「知り合いなのか?」

「・・・・・・」


言いにくそうに、ノアは口を噤み、苦虫噛み潰した後のような顔をして首を振った。


「冗談じゃない。いいから、行くぞ」

「あ、うん」


凄く、憎悪に満ちた声だ。怨嗟の声だ。少なくとも友好的な関係のある相手ではないとカークは察してそれ以上は何も聞かなかった。




軍人が街に入ってくるのは大して問題じゃない。

トヴェンセの守護を任されている軍人も守備隊も警戒しないはずだ。

しかし、違う。道行くトヴェンセの守備隊の顔には緊張が走り、青ざめた様子で数名が領主の城へと向かって行った。

それを横目に赤い軍服を着こなす女は堂々と、いや、傲慢ともいえる足取りで真っ直ぐにその領主の城へと向かう。

疚しい事がある守備隊など放っておけばいい。どうせ、隠していることをばらしたくないのだろう。


「探せ」

「はっ」


片手間に部下たちへと指示を出して自分と副官は城を目指す。


――連中がいるとすれば、そこだ


普通、皇位継承権を持つ者が己の街に訪れればすぐさま接待をする。

だが、連中の小賢しい用心深さを考えればそれはあり得ないだろう。

では何処にいるか?

それが分からないから、部下に探させる。16人もいれば何とか見つけ出せる。

そうでなくては連れてきた意味がない。無駄に資源を割く余裕など無いのだから。

舌打ちをしつつ脳内で戦略を練る。

短気で先の見えないヨチヨチ歩きの子どもを追い回している場合ではないのだ、この国は。


「南も危うい、西は最悪だ。北西はまだましか?南西はアーヴェルニアの領土だ幾らか持ちこたえられる」

「はい。北西からの救援要請は出ていますが、将軍を呼ぶほどではないと」

「奴は妥協案を出したいに違いない。資材の横取りが目的だ。2大隊を出して叩け、埃を出させろ」

「はい」


淀みなく副官は答えて頭を下げる。今のやり取りも全てこれの頭に入っているだろう。

これ程優秀だからこそ、側に置いてやっているのだ。


「真西の、盾王国との国境の状況は」

「最悪の一言です。前線の補給線が切られました。今は復旧に手一杯で、攻め手に欠けます。1年でもいいので休戦協定は結べませんか」

「不可能だ」


バッサリと切り捨てる。それは出来ない。

今の状況は盾王国側が有利の状態である。2人の将軍が張り付いているとはいえ、盾王国は先の大規模戦で花竜帝国に対して勝利を収めた。

40年にも及ぶ戦争で花竜帝国は体力を落とされ、もはや前線を維持するだけで精一杯の状況。

この状況下で自国に不利な休戦協定など飲むはずがない。

しかも、自国の貴族どもはこれが見えていないから困る。


「花竜ルロンセ泰下は今どちらに」


縋るような言葉を吐いた副官の言葉に苛烈な目を向ける。冷酷で鋭利な赤い目を受け怯んだ彼は頭を下げた。


「申し訳ございません。軍人としての誇りを失ったことを申し上げました」


――いない


歯軋りをして、そして、爪が掌に食い込むほど握りしめて、女は言う。


「構わん」


――いない、いないのだ。我々が崇拝する花竜泰下は先々帝の代に弑害された

――いや、正確には先々帝が弑した。その肉を“食う”ために


だから、蒼竜バオガネーシュは怒り狂っているのだ。

親友(・・)の死を受け入れられず。

そして、親友を殺し、冒涜した気狂いの先々帝を骨の髄まで恨んでいる。


「早く新しい、竜が熾らねば」


人知れず苦悶に満ちた声を漏らす。

竜の加護で興った国だ。だから加護の無い帝国は滅びの一途をたどっている。竜の加護が無ければ、自然の恵みさえいずれ途絶えるだろう。

その為には新しい古竜を待つしかない。花竜の後継者を。


――新しい古竜が熾るにはいくつかの条件がある。皇族の血を引くものは皆、そのひとつ目の条件を

満たしている


彼女は目を閉じ、数多の戦略を練り続ける。


国の存続には何が必要だ?


今の軍の規模は適切か?


あの戦線は維持するべきか?


貴族どもを叩いて、危機感を持たせるか?


資源の量は適切か?


大を生かせ、小を殺せ。


タイムリミットはすぐそこなのだ。





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