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エルデン・グライプ~「不滅者」は混沌の世界を狂気と踊る~  作者: 津崎獅洸
第一部

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99:なんでも


朝食を食べ終わったカークは水を飲んでから言う。


「今日の予定は?」

「我々はちょっと出かけます」

「そうですか、ついて行かない方が良いんですよね?」

「ええ、すみません」


ゼトの謝罪に慌てて首を振る。


「ああ、気にしないでください。トヴェンセでゆっくり過ごしたいですから」

「そうですか?」


ゼトの不思議そうな声に頷く。


「初めて来た街ですから、いろいろ楽しみですよ」

「楽しんでください」

「はい」


そう言って、彼らは3人連れだって酒場から出ていく。

シンジュとルリ、オニキスが一斉にカークを見ると戸惑いながらカークは疑問を呈した。


「ど、どうした?」

「いえ、今日はどう過ごすのかと思って」

「そう、貴公・・・・・・疲れているのであれば休んだ方が良い。私が世話を見てやろう」

「よろしければ、私もお側に」


3人は心配してくれているようだった。カークの朝が遅かったせいだ。

少し恥ずかしく思いながらも、カークは首を振った。


「ううん。折角だし観光しよう」

「良いんですか?大丈夫ですか?」

「大丈夫」


ルリの頭を撫でて宥めると嬉しそうに彼女は耳を伏せた。




かつん、と鳴る軍靴。

敬礼をした人物は温度の無い無表情で来賓を出迎えた。


「殿下。ようこそおいで下さいました」


赤い軍服に身を包んだ男は黄金の髪を優雅に伸ばしている。瞳は赤く、耳はヒトよりは長く、エルフよりは短い。


「トクェウニア将軍。急に訪れてすみませんでした」


簡単な礼をすませてから、その貴人は赤い髪を揺らして優雅な笑みを浮かべる。


「ですが、至急でしたので」

「いつでも、どこでも、私は馳せ参じます、殿下」

「助かります」


貴人は、ゼトは椅子に座ったまま少し離れたところに立つ将軍に話しかけた。


「指輪は見つかりましたか」

「いえ。見つかりませんでした」


仕事の不良だ。しかし、彼は一切無表情から表情を動かすことなく平坦に言う。

それに対してゼトに思う所はない。


――指輪を失ったのはもう20年以上前だ


当時の将軍が持って逃げてしまった。今は何処にあるのか見当もつかない。

しかし、花竜ルロンセにこの特別な指輪が必要だ。


「あの指輪が無ければ」


口を噤む。果たして、皇位継承権を持つ者が口にしてよい言葉だろうかと悩んだためだ。


「磁竜の目を逸らしましょう」


無表情の将軍の言葉に目を向けて、それから苦笑する。

そんな事不可能だ。おびただしい量の犠牲なしでは。


「・・・・・・止めてください。そんな事をして失敗すれば、多くの被害が出ます」

「大の為に小を殺すべきでは」


国とはそうあるべきだ。いや、本当にそうか?

どちらも救ってこそではないか?

ゼトはグールに襲われたと言われたその村を思い出す。


――グールを突き出せばよかったのだ


そうすれば、衆目を集めることもなく安全に帝都まで行けた。それをしなかったのは、村民に被害が出るからだった。

竜の素材を渡さずに村を放置すればどうなっただろう?当然村は冬を越せず廃れ、村民は死んだだろう。

“大を生かす為に小を犠牲にする”

正しいだろう。しかし、違ってもいる。これは感情論か?

違う。実利の問題だ。

あそこで村を竜から守れたことは大きい事だ。それに何よりカーク、エルデン・グライプの力を知れた。この先、どう転ぶか分からない中で大きな収穫である。

彼は警戒していないだろう。自分たちをただの貴族だと思い込んでいる。

それで良い。それでなくては困る。その為にはグールを突き出すわけにはいかなかった。

必死にそう思い、考えた。


――決して自己を正当化するための方便ではないと、言い聞かせるように


「止めましょう。それでは伯父上が弑された意味がなくなる」

「は」


彼はひとつ頭を下げて了承してくれたが、その心の内はどうだろう。

ゼトは一人寂しく俯いた。




どうして、自分だったんだろう。

どうして、自分ではなかったのだろう。




いくら問うても答えなはない。

花の匂いが充満する部屋で、どこか冷徹に話は進んで行った。





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