第95話 最後の審判
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それからしばらくは平穏な日々が続いていたのだが、ある日突然審判の日はやって来た。
入り口の扉が急に開く。開店前はユーゴの魔力でロックしてあるため普通の人間が入ってくる事は出来ない。
そんな事が出来る人物には一人しか心当たりがない。そう、現れたのはやはりハリー・クラウドだった。ユーゴは精一杯の虚勢を張って話しかける。
「すいません、まだ開店前なんですけどね」
「これは失礼をしたね、まあ今日は飲まずに帰るので勘弁して貰えるかな」
ユーゴはとうとうその日が来たのかと思ったが、ここは敢えて聞いてみる。
「今日は一体どの様なご用件でしょうか?」
「ほう、前回とは面構えが違うね。もう覚悟が決まっているのかな?今日は君に良い知らせと、悪い知らせを持ってきたよ」
「はあ、なかなか興味深いですね。悪い知らせからお伺いしても?」
「そろそろ君に〈天罰〉を与えなくてはならないと言う残念な知らせだよ」
「やはりそうでしたか……ちなみに良い知らせとは?」
「アイラさんはもしかしたら気が付いているかも知れないが、おめでとう、彼女は妊娠しているよ。もちろん君の子だ」
「ええっ本当ですか!ありがとうございますっ」
「そう言えばしばらく来てないなーとは思ってたんだよね、嬉しいよユーゴっ」
「アイラさんっ」
突然の知らせに思わず抱き合って喜ぶ二人。
「子孫の一人も残せないのはあまりにも不憫かなと思ってね、私なりにタイミングを見計ってたのさ」
子どもが出来てすぐにこの世から抹殺されてしまう、父親と残された家族は不憫では無いのだろうか?そうと決まったら話は別だ、ユーゴも簡単には引き下がれない。
「でもクラウドさんちょっと待って下さい!確かに僕はステータスを弄ったり、異世界の知識で新しい文化をこの世界に持ち込みました。でも誰かの人生を狂わす様な事は何もして来なかったつもりです」
「確かにジエリ・トマスと比べたら君のしてきた事は大した事では無いかも知れないね。ただ、私個人としてはもうこの世界の住人には失望させられてばかりでね、何だったら世界ごと消滅させても良いかなとさえ思ってるんだよ」
「ええっ!僕だけじゃなくてこの世界ごとですか!?それじゃあ生まれてくる子供はどうするんですかっ!」
「先程ああは言ったが、大人にせよ子供にせよその辺の石ころにせよ、僕にとってはすべて同じ創作物に過ぎないんだよ」
「そ、そんな……」
「それに皆で仲良く消滅すれば、誰も悲しむ人さえいないだろう?」
「えーっ、私達せっかく赤ちゃんを授かったのにそんなのあんまりですっ!」
実際、消滅というのはあくまでも方便だ。トマスが殺されず本に封印された様に、創造神に出来るのは創る事だけであり殺す事は出来ない。しかし些細な事がきっかけでこの世界の住人に失望しつつあるというのもまた事実であった。
「うーんそう言われてもねえ、予定通りユーゴ君には消えてもらいましょうか」
クラウドがそう言うとユーゴの身体が、ぼんやりと白く輝きだす。
「ユーゴっ!!」
「おや?その指輪は……以前はしていませんでしたね」
ユーゴのこだわりで、バーテンダーたるもの営業中はアクセサリー類を一切身に付けない。アイラはペアリングを外したくは無かったが、営業時間以外は必ずつけるという条件でユーゴがなんとか説得したのだった。
この時間はまだ開店前の為、二人はペアリングを付けたままであった。
「あ、これですか?ドワーフ王国に行った時に買ってきた言わば、僕たちの結婚指輪ですね」
流石に毎日付けているので、あれだけ嫌がっていたユーゴですらそのデザインの酷さにもはや慣れていた。
「へ、へえーなかなか良いね。ちなみにその時はいくらで購入したんだい?」
「確かペアで金貨10枚だったよね?思ったより安かったからユーゴにおねだりして買って貰ったんだー」
「ハハ、そうでしたね」
「き、金貨10枚!なかなかの値段ですね」
「まあ、クラウドさんからしたら大した金額では無いんでしょうけど」
「ーーー気が変わりました、今日は帰ります」
「えっ、えーーっ!?どういう事ですか?」
「よくよく考えたら、君達はまだこの世に混乱を生じさせて無い事から、情状酌量の余地があると判断しました。取り敢えず執行猶予という事で、ではまたっ!」
バタンッ
クラウドはにべもなく出て行った。
その状況に完全に呆けている二人。
「えっ、どういう事?僕たちもしかして助かったんですか!?」
「うん、ユーゴの〈悪運〉スキルが効いたのかも……?」
「アイラさん!」
「ユーゴっ!」
二人はアイラに宿った新たな生命に感謝をすると共に、最大のピンチを生き延びた喜びを抱き合って分かち合うのであった。
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〈クラウド目線〉
「あ、これですか?ドワーフ王国に行った時に買ってきた言わば、結婚指輪ですね」
(あれは間違いなくジエリ・トマスの時代に気まぐれで作ったお洒落ペアリング!あの頃お洒落にハマっていた私が自らデザインした物の一つだ)
300年以上の永きに渡りそのデザインの酷さからいつも呪いの品の様に扱われ、純金?なのに銀貨1枚の値が付けられる事もしばしば。中には溶かして再加工しようとした不埒な業者までいたが、人間如きに加工できる様な神器では無かった。
「確かペアで金貨10枚だったよね?思ったより安かったからユーゴにおねだりして買って貰ったんだー」
(なんとっ!金貨10枚とは。重さで言えば金貨2枚ほどの価値しかないというのに。ようやくこの世界の住人達にもお洒落というものが分かって来たのか……)
「まあ、クラウドさんからしたら大した金額では無いんでしょうけど」
(もしかしたら私が造った残りの神器も再評価され始めているかも知れんな。それにしてもこの二人、私のデザインをここまで気に入ってくれているとは。
ジエリ・トマスの様に本に閉じ込めてしまうにはあまりにも惜しい、否むしろもっと子孫を残すべき逸材だろう。良し、決めた!)
「気が変わりました、今日は帰ります」
「えっ、えーーっ!?どういう事ですか?」
かくしてアイラの奇抜なファッションセンスと〈直感〉スキルのお陰で、九死に一生を得たユーゴ達なのであった。
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