第94話 魔性の女
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ヴィクターがエルフの村での商談を終え、無事王都へと帰って来た。夕食をとってから最初に向かったのはもちろんBAR アヴィエイションだ。
「こんばんはー、先ほど帰って参りました」
「いらっしゃいませ、お疲れ様でしたヴィクターさん」
「ヴィクターお帰りー」
元気に挨拶するヴィクターの後から入って来たのは、なんと久しぶりに見るハインだった。
「二人とも久しぶりねっ」
「ハインさんっ!」
「わっ、ハインだ!久しぶり〜」
「今回はハインさんの里帰りも兼ねて、同行して頂いたんですよ。向こうでご両親ともお会いできましたしね、お陰で交渉がスムーズにいって助かりました」
「せっかく王都に寄ったんだから、二人の顔が見たいと思って連れて来て貰ったの」
「そうだったんですね、ありがとうございます」
「最近は私もカクテルを作ってるんだよ、ハインは何にする?」
「噂のカクテルって奴ね。そうねー、何かさっぱりして飲みやすいものが良いかしら」
ユーゴはアイラに耳打ちをする。
「それ良いかも。じゃあ私に任せて、美味しいの作ってあげるからね」
「では、私にも同じものを」
「かしこまりましたっ!」
アイラはおどけて見せるが、その腕前はユーゴが鍛えただけになかなかだ。シェイカーにブランデーとレモンジュース、シュガーシロップを入れるとリズミカルにシェイクし二杯分をきっちり二つのグラスへ注ぎ分ける。シェイカーの中の氷をグラスに落とし炭酸でアップすれば完成だ。
「ハインの為に熟成したブランデーをベースに作った〈ブランデーサワー〉だよ」
欧米では炭酸で割らずに飲まれるサワーカクテルだが、一杯目という事で炭酸で割って清涼感を敢えて増してみた。
仕上げにレモンの皮を絞りかけると、真上からのスポットライトに照らされレモンの飛沫が浮かび上がる。オープンにこそ間に合わなかったが、ユーゴが特注したピンスポットライトの魔導具だ。
「まあ、綺麗ね」
「おお、素晴らしい演出ですね」
「どうぞ、召し上がれー」
ハインがカクテルを口に運ぶ。ワイルドで妖艶なコリーとは違い、清楚な雰囲気があるハインにはやはりカクテルがよく似合っていた。
「何これっ、美味しい!」
「ストレートが一番美味しい飲み方だと思ってましたが、カクテルにしても美味しいんですね。これは新たな発見です!」
「やった!」
「結構ブランデーをベースにしたカクテルは沢山有るんですよ」
「こんなに素敵なお店で美味しいお酒が飲めるなんて、夢のような空間ね。改めておめでとうユーゴ」
「〈調合〉を一から教えてくれたハインさんにそう言って頂けると、僕も嬉しいです」
「そうなの?じゃあ後で授業料頂こうかしら?」
「ええっ!?」
「ウフフ、もうー冗談よ。私も身内から搾り取るほど鬼じゃ無いわよ」
ハインの言葉に嘘は無いのだが、その場にいた三人には全く冗談に聞こえていないのであった。
と、その時入口のドアが開いた。どうやら次の客が来たようだ。
「おや、先客がいらっしゃいましたか」
現れたのはこの店では〈ブリー〉で通っている、この国の宰相ブリードだった。
「こんばんはブリーさん!ご無沙汰しておりますっ」
「これはこれはヴィクターさん、またお会いしましたね」
「いらっしゃいませ、ブリーさん。今日はお一人ですか?」
「立場上〈戦闘〉メイドは連れて来ましたがね、お二人がいるこの店で危険な事になる事はありますまい。無粋ですから外で待たせておりますよ」
「そうでしたか、お気遣いありがとうございます」
(すいませんブリーさんっ、コリーさんですら勝てないクラウドさんが現れたばっかりなんですが……)
「私もヴィクターさんと同じものを貰おうかなあ?」
「はい、かしこまりましたっ」
「おっ、今日はアイラさんが作ってくれるんですね、それは楽しみだ。それにしてもヴィクターさんもなかなか隅に置けませんなあ、そちらの素敵な〈マドモアゼル〉をご紹介頂いても?」
ハインの銭ゲバ振りをよく知っているヴィクターは、ブリード公爵に紹介しても良いものか一瞬迷った。
「えーっと」
「まあ、お上手ですわね。ネグロンの片田舎で薬師をしておりますハイン・リモージュと申します。以後お見知り置きを」
「ここではブリーと名乗っておりますが、この国の宰相などもやらせて頂いております。こんな素敵な方に出逢えるなんて、やはりここは最高のBARですな、ハハハ」
やはり宰相とは言え人の子だ。ハインレベルの美人エルフには王都でもまずなかなかお目にかかれない。心なしかブリーの鼻の下も伸びている。
(ブリーさん、私は紹介しておりませんので悪しからず……)
ヴィクターが心の中で呟いた。
ブランデーサワーを片手に楽しく談笑するハインとブリー。その場に居合わせた残りの三人は一様に同じ事を思っていた。
(((ブリーさん、ご愁傷様です)))
その日以後、しばらくの間ブリード公爵はハインの気を引く為に様々なプレゼントを貢ぐことになったのだが、その恋が実る事はなかったようである。
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