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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第四章
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第90話 クラウドとの邂逅

誤字、脱字、御指摘、特に感想 等もらえると嬉しいです。

その日は静かな夜だった。会員にふさわしい人に入場コインを少しずつ配っているとは言え、その数はまだまだ少ない。


カミーロ伯爵とジョージは先週末にネグロンに帰ってしまったし。念願のアイテムボックスを手に入れたヴィクターは、来週までエルフの村にブランデーの樽熟成の手筈を整えに行っているらしい。


「トマスさんとお爺ちゃんも昨日来たばっかりだしなあ、今日は暇かもね」


「まあ、たまにはそんな日もあるよね」


バースプーンでステアの練習をしながらアイラがそう答えた。暇な日は暇な日なりに、バックバーの掃除や練習などやれる事は沢山あるのだ。


と、そこへ入り口に魔力が流れ扉のロックが外れた。本日一人目の来客だ。


「多分コリーさんかな?」


ところがそこに現れたのは初めて見る男性だった。金髪・碧眼でカミーロ伯爵以上に整った顔立ち。これほどのイケメンは王都でも未だかつて見た事が無かった。


「すいません、この店は会員制なのですがどなたかのご紹介ですか?」


「ええ、コリーさんからの紹介でね。あと君のお父さんの古い友人でもあるかな」


その男はコリーの弟子であり、かつてのジョージの兄弟弟子〈ハリー・クラウド〉だった。


「基本的に僕がコインをお渡しした方しか、入店できないシステムなのですが……」


「ああ、これは失礼。後からコリーさんと待ち合わせで先に私が預かって来たんですよ」


本当はコインの貸し借りは禁止事項なのだが、初めての事だしコリーの顔を潰すわけにもいかない。クレームは後で本人に直接言う事にした。


「なるほど、そういう事でしたら今日は特別という事でご案内しますね。お飲み物は何になさいますか?」


「初めてなものですから、お任せします」


ユーゴはまずは定番のジントニックを作る。


「へー、これはさっぱりとして美味しいですね、何処でこの様な調合の技術を?」


「すべて私のオリジナルですね」


「ここまでクリアな火酒がこの世に存在するとは、世の中はまだまだ広いですね」


「ありがとうございます」


その後もクラウドは〈ネグローニ〉やウィスキーのストレート等を飲みながら色々と質問をして来る。


「このウィスキーというのはかなりの年月熟成をしている様ですが、いつ仕入れたのですか?」


「それは企業秘密という事で、申し上げられません」


「なるほど……では質問を変えましょうか。

ーーー君のその〈錬金術〉は何処で覚えたんですか?」


ユーゴは一瞬だが真顔になった。確かに今クラウドは〈錬金術〉と言った。しかし冷静に考えれば失われたスキルとは言え、錬金術自体を知っている人物がいてもそれ自体は何の不思議もない。


「〈錬金術〉ですか?確か今では失われたスキルですよね、かつて存在したらしい事は知っていますが……」


「フフフ、なかなか尻尾を出さないですね、これだから人間は面白い」


「…ありがとうございます」


「あと聞いた話では君は冒険者デビューをして、まだ二年も経っていないとか。その割には全盛期のジョージさんとそう強さが変わらないなんて不思議だよね。


短期間にそんなにレベルが上がったりする物なんでしょうか?後ろの彼女もそうは思わないかい?」


「い、いえ、ジョージさんにはまだ二人がかりでも敵わないですから」


「へー、そういう君もユーゴ君と出会ってから急激に強くなった口だよね」


BARには意地悪な客が付き物だが、クラウドの質問は流石に常軌を逸していた、二人の事をあまりにも知りすぎているのだ。開店以来こんなにも客から緊張を強いられた事は未だかつて無い。


「少し昔話をしましょうか……博識な君なら聞いた事があるかも知れないが昔ジエリ・トマスという錬金術師がいましてね、何やら人の潜在能力を勝手にいじくり回す方法を見つけたらしくて、当時は大分派手にやっていたみたいなんですよ。


錬金術を使えばお金は幾らでも湧いてくるし、金で買えないものは力ずくで手に入れるなど、とにかくやりたい放題だったそうです。王都にあるトマス商会の創業者って事になってますね。


彼が気まぐれで能力を最大限引き上げた魔物使いが後々魔王になっちゃったり。気に入った奴隷の女をSランク冒険者にしてみたりと、次第にこの世界の秩序にも影響を及ぼし始めたそうです。もはや神にでもなったつもりだったんですかね?


最後は創造神の怒りを買って、本の中に閉じ込められてしまったんですって。ぼくが神様だったら殺しちゃうのになあ。なんで殺さなかったんですかね、そう思いませんかユーゴ君……?」


ユーゴとアイラはもはや顔面蒼白であった。この得体の知れないクラウドという男に、もはや恐怖すら抱いていた。


と、その時であった。


入り口の扉が開きコリーが入って来た。待ち合わせというのは本当だったのだろうか。コリーはカウンターに座るクラウドと、顔面蒼白な二人を見て瞬時に臨戦態勢に入った。


「クラウド、貴様……二人に何をした!」


「これはこれはコリーさんこんばんは。なに、普通にお酒を飲んでお話をしていただけですよ、ねえユーゴ君?」


「は、はい…そうです」


「……とても普通には見えないがな。まあ良い、どうやってここに入ったのか知らないが、貴様は入場コインすら持ってないのだろう?即刻ここを出て行け」


「嫌だと言ったら?」


「力ずくで叩き出すっ」


次の瞬間、店内にビリビリとした緊張が走る。コリーの様子は先日の模擬戦の時とは比較になら無かった。全身に魔力の闘気を纏い、ユーゴらとやった時が如何に本気で無かったかを思い知らされる。


「フフフ、冗談ですよ。争い事はあまり好みませんのでね。では私は先に退散するとしましょう。ユーゴ君、アイラさん、またお会いしましょう」


クラウドはコリーを一瞥する事なく、その脇をすんなりと押し通ってそのまま出て行ったのであった。


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