第89話 バーバラの過去②
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バーバラはその日から自分を傷付けるような事をピタッとやめた。ユーゴの世話も自ら積極的にするようになったが、その表情は何処かまだ儚げだった。
「ーーー不安か?」
ジョージがバーバラに尋ねた。
「うん…暗殺を失敗した以上私はギルドから追われる身。いずれここにも迷惑がかかる…」
「馬鹿やろう、ガキが余計な心配するんじゃねえ。幸い依頼主が誰かは知らされていない様だから、直ぐにどうこうはならんだろう。その前に俺が暗殺者ギルドに行って直接話しをつけて来る」
ジョージはバーバラの髪をクシャッと掴み、それ以上気を使わせないようにした。
もしバーバラが依頼主を知っている場合、依頼主との信頼関係を守る為に、暗殺者ギルドは直ちに追ってを差し向けたであろう。
未だに誰も襲撃してこない事が、バーバラが何も詳しい事を知らされていない事を暗に示していた。
ジョージは二日ほどで戻ると言い残して、ネグロンの町を出て行った。暗殺者ギルドがあるのは馬車で六日はかかる王都だと言うのに、一体どこに向かったのであろうか。
ジョージはフルスピードで街道を東へ駆け抜けると、僅か一日半も経たないうちに王都へと辿り着いた。人間離れした速度と持久力である。その足でイーストの地下にある、知る人ぞ知る暗殺者ギルドのアジトへと乗り込んだのだった。
ドンドン。
「邪魔するぜ」
「何だ貴様はっ」
「ギルドマスターの《ポチーン》に用がある、ネグロンのジョージと言えば分かるはずだ」
「ネグロンのジョージだと…」
「何いっ、あの〈蒼天の槍〉かっ!」
先の戦争が終結してまだ二年も経っていない、裏社会も含めて王都でジョージの名を知らないものなどいなかった。
「おい誰か、マスターに知らせてこい!」
気づいたらジョージは周りを数十人の男達に囲まれていた、いずれもが暗殺者ギルドの手練れである。
程なくしてポチーンと呼ばれる男が現れる。痩身だが引き締まった身体付きで、その左眼には黒い眼帯が巻かれていた。
「貴様の方からのこのことやって来るとはな、おれのこの左眼の疼きを抑えてくれるのは…お前の死だけだっ!」
「左眼?ああ…わざとでは無いんだが、先の戦争の時の逆恨みって訳か、って事はあの子を俺に差し向けたのはやはりお前か?」
先の戦争に於いて、暗殺者ギルドは特にサヴァラン王国に与する事なく独自に影で暗躍していた。本来なら同国の同胞である筈のポチーンが、ジョージの戦闘に巻き込まれて失明したのはその為だ。
「ぐっ、それを貴様に応える必要は無い」
ポチーンが目配せすると、突然背後から毒矢が一斉に放たれる。ジョージは振り向き様、横薙ぎに剣を振るうと全ての矢を撃ち落とす。
当然それを読んでいた暗殺者達は〈隠密〉スキルを発動したまま、その背後から更に襲い掛かるのだがジョージの〈探知〉は始めから全ての敵の位置を把握していた。
「ーーー【龍の荒ぶる尾】ゲイ・ボルグっっ!!!」
ジョージはアイテムボックスから一本の槍を取り出すと、身体の周りをまるで龍がうねるが如く振り回す。その淀みなく捉え所のない動きはまさしく荒ぶる龍の尾であり、次々と手練れの暗殺者達を打ち倒していく。
七割ほどの敵を行動不能にした頃であろうか、流石にポチーンの顔には焦りが見えはじめる。あろうことかギルドマスターのポチーンは立ち向かうどころか、部下にも気付かれないように敗走の為、気配隠蔽スキルを発動しようとした。その刹那…
「ーーーやはり貴方はギルドマスターの器では無い」
「えっ?」
次の瞬間、ポチーンの視線がエアポケットの様にストンと下に落ちる。本人にはまだ何が起こったか理解出来るはずもない。既にポチーンの頭は自分の足下に垂直落下していたのど。ギルドマスターを張るほどの実力者が、本人も気付くことなくあっさりとその命を絶たれた。
「ジョージ殿、槍をお納め下さい」
そう語りかけたのはポチーンの義理の弟である暗殺者ギルドのサブマスター《バルカン》であった。ジョージ達一部の上級冒険者や情報屋の間ではその男の名はよく知られていた。実際に顔を見たものはほとんどいないが、暗殺者ギルドを実質的に陰でコントロールしているのはバルカンだと言われていた為だ。
「あんたが噂のバルカンか……やはり恐ろしい腕だな。ところで良いのか?義理とはいえ本家筋の自分の兄貴を殺しちまって」
「先の戦争の時にも兄に進言しましたが…無駄でした。本来ならサヴァラン王国側に付くべきものを目先の金欲しさに国を裏切り、そしてその時の貴殿への私怨により今回引き起こしたギルドへの多大なる損害。もはや組織の長としては不適格である事から、致し方なく速やかに排除致しました」
兄を殺害した直後だと言うのに、淡々と話すバルカンの表情からは何の感情も感じられない。ジョージがこの国で唯一警戒している暗殺者、それがバルカンであった。
「なるほど。悪かったな、手加減はしたんだが部下の何人かはもう仕事にならんだろう」
「いえ、たとえどんな状況でも言い訳が許されないのが我々の仕事です」
「ところで、バーバラの落とし前はどうつける?」
「思えばあの娘も兄の犠牲者かも知れませんね。ギルドとしては彼女はもう死んだものとします。後は貴殿の方で煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
「そうか、邪魔したな」
ジョージは暗殺者ギルドを後にした。
(バルカンの野郎に借りが一つ出来ちまったな…)
ジョージはその足ですぐさまセントラルにある王城へと向かう。垂直に切り立った城壁を苦もなく駆け登ると頂上付近で突然指笛を鳴らした。
ピュィーーーッッ
するとそこにひょこひょこっと大きな魔物が現れた。なんとそれは王国竜騎士隊が所有するまだ子供のワイバーンだ。
「こらーー待てお前っ、何処に行くっ!」
向こうからワイバーンの世話係の男が慌ててその子を追いかけて来た。
「悪いっ!ちょっとだけ借りるぞっ」
「えっ!〈蒼天〉の……ジョージ…さん!?」
ジョージはそのワイバーンに騎乗すると、あっという間に空の彼方へと消えていく。その場に残された世話係の男はただ呆然と立ち尽くしていた。
「俺、完全にクビだな……」
竜騎士隊所有のワイバーンの内、特に何匹かはジョージにやたらと懐いており、中でもまだまだ好奇心が旺盛な子供のワイバーンはこの様に竜舎からひょこっと出て来てしまうのだ。もちろん用が済めば勝手に帰って行くのでジョージ的には問題は無い。
まだ子供とはいえ流石にワイバーンは速かった。王都からネグロン上空まで僅か六時間ほどで到着した。
「おーい、今帰ったぞーーっ!!」
飛空亭の外でジョージの大きな声がする。バーバラが二階の窓を開け放つと、ワイバーンに跨がったジョージがゆっくりと空から舞い降りて来るのが見えた。
「えっ!?えーーーーっっ!!」
「暗殺者ギルドのマスターからなー、お前はもう死んだ事にするって言質を取ってきたぞー。あ、ポチーンの野郎ならもう死んだから安心しろ」
ジョージはアイテムボックスから大きな干し肉を取り出すと、ワイバーンの子はそれを美味しそうに頬張りながら王都へと帰って行った。
バーバラは再び大粒の涙をボロボロ溢した、それはジョージへの信頼と感謝から来る嬉し涙であった。この日を堺にバーバラはジョージに生涯ついていく事を決めた。内に芽生えた小さな恋心は、そっと胸にしまったままにしておくのが良いだろう。少女はそう思った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「と、まあこんな感じだったかしらね」
その話を聞いていたガストンは、最初から最後まであんぐり開いた口が塞がらなかった。
「い、良い話ですけど…はぁ…無茶苦茶ですね……」
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