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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第四章
88/102

第88話 バーバラの過去①

個人的に好きなバーバラとジョージの関係性をショートストーリーにてご紹介します。


誤字、脱字、御指摘、特に感想 等もらえると嬉しいです。

ジョージがカミーロの護衛で王都に行っている間、店の切り盛りはガストンとバーバラに任されていた。〈料理〉スキルをメキメキと上げているガストンは、既にバーバラも認めるところと為っていた。


ある日の仕事上がり。頑張っているガストンを労うべくバーバラが珍しくエールをご馳走した。


「ガストンいつもお疲れ様」


「バーバラ姐さん、ありがとうございます!」


「フフ、もうジョージがいなくてもこの店はやっていけそうね」


バーバラは軽口を叩きながらエールを美味しそうに飲む。


「本当っすか!?嘘でも嬉しいっす!いやー俺自身アイラちゃんにコテンパンにやられるまで、自分の料理スキルに全く気付いて無かったですから、人生何があるか分かりませんねえ」


ジョージに仕事を叩き込まれるうちに、料理スキルが開花したのには当のガストン本人が一番驚いていた。


「しかし、姉さんはそもそも親方とはいつ頃からの知り合いなんで?親方に強く出れる人なんてこの街にそうそういませんぜ」


「何、アンタそんな事が気になるの?」


「ええ、気になりますっ!」


「そうね、もうあれから十五年は経つのかな…」


珍しく上機嫌だったバーバラは、普段は決して話さないジョージと出会った頃のことを、酒のつまみに語り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーー


冒険者を引退したばかりのジョージは友人のカミーロの要請もあって、ネグロンに移り住むと直ぐさま飛空亭のオープン準備を始めた。マリーがユーゴを身篭ったのも丁度その頃であった。


宿屋を無事オープンさせ、半年ほどが経ったある日の事。ジョージの仕事上がりの一人エールはもはやこの頃には定番となっていた。救国の英雄が宿屋を始めた事はたちまち評判となり、飛空亭は連日の大賑わいだった。営業中は手伝ってくれているマリーも、身重のためこの時間には先に部屋で休んでいる。


「仕事後のこいつが止められねえんだよなー」


と、その時であった。突然背後から音も気配もなく現れた何者かがジョージの首筋目掛けてスッとナイフを突き出した。たまたま床に落としたつまみの木の実を拾おうとしたジョージは、奇跡的にかすり傷でそれを躱す事が出来た。


「なっ!てめえっ」


侵入者は明らかに暗殺者アサシンだった。〈隠密〉スキルが無ければ例えリラックスしていたとはいえ、ジョージの背後を取ることなど決して出来ない。〈悪運〉スキルを持つジョージでなければ確実に死んでいたであろう。


一瞬ジョージはクラッとする。相手のナイフの濡れた感じから恐らく刃に毒が塗ってあったのだろう。ジョージの〈異常回復〉スキルがすぐさま発動する。


「残念だったな、不意打ちじゃ無けりゃ俺はまず倒せんぞ」


暗殺者は再び〈隠密〉を使い闇に紛れるが、予め〈探知〉スキルを発動しているジョージからは逃れられない。真っ向勝負となったら限りなくSランクに近いジョージに勝てるものなど、この世界にはコリーくらいしか存在しない。


賊は程なくしてジョージに取り押さえられた。自害しないように猿ぐつわを嵌めて縛り上げ、覆面を剥ぎ取る。


「お、女かよ…!?」


覆面の下から現れたのは、白金の髪を短く刈りそろえたまだ幼さの残る少女だった。少女の名は《バーバラ・ライカ》幼くして暗殺者ギルドに育てられ、生きる喜びすら知らない哀しい殺人マシーンであった。


「可哀想に、まだ若いのに目が完全に死んでやがる」


ジョージは少女を殺さなかった。猿ぐつわを外すと少女は案の定奥歯に仕込んだ毒で自害を試みた。しかしジョージはキュアポーションを無理やり飲ませ治してしまう。


直ぐさま少女は今度は舌を噛みちぎる。すると今度はヒールポーションを無理やり口移しで飲まされ、再び治してしまう。


「一思いに殺せっ!!」


任務に失敗した暗殺者の末路は決まっている。ギルドに殺されるか、女なら捕まって慰み者にされるかだ。


「嫌だね、こんなに幼気な少女が死ぬのは間違っている。お前はオレが生かす」


バーバラは幼くして性的な虐待を受けていた。親の顔も知らず、他人に怒りと憎しみ以外の感情など抱いた事は一度も無い。育ての親からは暗殺に必要な事以外は何も教えてもらえなかった。


翌朝、ジョージはマリーに事情を説明して、バーバラの面倒を見る事にした。少女とは言え、自分を殺しにきた刺客を育てるとはもはや正気の沙汰では無いが、ジョージは一度言ったら聞かない性格なのをマリーはよく知っていた。マリーの目から見てもバーバラは根っからの悪党には見えなかった。


バーバラはその後しばらくの間、家出や自害を繰り返していたのだが、いつ寝ているのか分からないジョージにより、毎回連れ戻されるか救出されてしまう。恐らく二十四時間バーバラに探知スキルを向けていたのだろう。


ジョージが自分の身体目当てでこんな事をしているのだと思ったバーバラは、思い切って色仕掛けで殺害を試みたがジョージは誘っても一向に興味を示さなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


そんなバーバラに変化の兆しが見えたのは、それから数ヶ月後にユーゴが生まれてからだった。


「バーバラも見にきてくれたのね、触ってみて」


ベッドに横たわるマリーに促されたバーバラは、ユーゴにそっと触れてみた。生まれたばかりの赤子を暗殺者の前に晒すというのは非常に危険だが、その頃のバーバラはすでに飛空亭のスタッフとして働いており、マリーには少し心を開きかけていた。


「だあっ」


不意にユーゴがバーバラの指をギュッと握り返した。その瞬間、バーバラの中で何か小さな殻が壊れる音がした。押し殺していた感情が次々と甦り、自分の意思では止める事が出来ない。気が付いたら涙が頬を伝いとめどなく溢れていた。マリーはバーバラの手の上にそっと自分の手を重ねる。


「私、生きてもいいのかな…」


ジョージもバーバラの肩をそっと抱きしめると、マリーと笑顔を交わしたのだった。


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