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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第四章
87/102

第87話 金麦亭〈店主目線〉

誤字、脱字、御指摘、特に感想 等もらえると嬉しいです。

金麦亭の店主 《アラン》は王都でもそこそこ老舗となる酒場の三代目だ。父から金麦亭を引き継いで早二年。今年で三十歳になるアランは父から引き継いだ料理と、商売へのアイデアと情熱に溢れた好青年だ。


先程テーブル席に座ったダンディな冒険者風の男がコーヒーを注文した。今富裕層を中心に流行りつつあるコーヒーを、貴族でも無かろうに知っているとは珍しい。


これからの時代は酒だけでは駄目だと思い、ヴィクターズのコーヒーや、トマス商会の紅茶をわざわざ入荷して、利益度外視で提供している甲斐があるというものだ。


整った容姿のその男は父の代にこの店によく来ていたのか、懐かしそうに店内を眺めていた。男がイケメンな事に気付いたのか、周りの有閑マダム達がソワソワし始める。


と、そこへ黒いローブを被った一人の女性が来店する。僕の憧れの人、かのスター・ケイプのご令嬢マリーさんだ。今日はコーヒーと紅茶どちらを頼むのかな?僕が声を掛けようとしたその時だった。


「マリー……」


その声に気付いたマリーさんが、ブロンドの巻き髪をふわっとなびかせ振り返る。


「えっ……ジョージ……」


なんと驚いた事に二人は知り合いだった様だ。


しかも男は席から立ち上がると、周囲の目も気にせず突然マリーさんを抱きしめた。美男美女だけにそれでも絵になるのが悔しい。


僕がその様子を見守っていると、マリーさんは全く嫌がるそぶりを見せず、むしろその胸の中で急に泣き出した。泣き止むまでに結構時間がかかった様に思う。


「ご主人、悪かったな」


男は騒がしくした事を一言詫びると、コインを一

枚指で弾いて寄越した。こんなにスマートなエスコートがあるのかというくらい、マリーさんを連れて颯爽と風の様に去って行った。


辺りのマダム達からは溜息が漏れ聞こえていた。


あっという間の出来事だった。僕は呆然としながらもコインを掴んだ掌をゆっくりと開いた。中には大銀貨ではなく金貨が一枚入っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


それから二時間くらいが経っただろうか。ランチのお客さんも掃けて、これからディナーのお客さんが入り出そうかという時間。なんと先程の男とマリーさんが再び来店したのだ、しかも屈強そうなドワーフの男を引き連れて。


「エールを二つと、赤ワインを一本を貰おうか!」


ドワーフの男がすぐさま注文を入れる。マリーさんは申し訳なさそうに僕に頭を下げた。


その後、頼まれた料理をひと通り出し終えると、僕はその三人の会話が何となく気になり自然と耳で会話を追っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「しかしお前らとまたこうして三人で酒が飲めるとはな!長生きはしてみるもんだぜっ」


ドワーフは人間よりは長生きとはいえ、寿命はせいぜいが120歳。バギーの歳は聞いた事が無いが恐らく65歳は超えている筈だ。


「まあ今日マリーと会えたのは全くの偶然だがな、ユーゴには感謝しなくちゃな」


「うん、そうね」


ジョージとバギーはエール、マリーは赤ワインに魔法で作った氷を浮かべて飲んでいた。


「しかしアイツはとんでもねえな、幾ら〈蒼天の槍〉と〈血塗れ〉の息子とはいえ、まだ冒険者を初めて一年ちょっとだって言うじゃねえか。才能はお前ら以上だな」


「ちょっと何でバギーがその二つ名知ってるのよ。〈血塗れのマリー〉なんてノースのマフィアくらいしか呼んでないのにっ、一応私お嬢様なんだからねっ!」


「〈血塗れ〉ってすげえなっ。それにその〈蒼天〉ってのも今じゃ誰も呼んでねえんだから、やめてくれよ恥ずかしい」


「飛竜に乗って空からあれだけの数の槍をぶっ放したんだ、未だにベテラン冒険者の間じゃあ語り草よ。ワシもあんときゃあ徹夜で槍を打ちまくったもんよ」


「あん時は世話になったよ。アイテムボックスがあったから収納には困らなかったしな。戦争が終結する頃には流石に槍も足りなくて、その辺の岩とか粗大ゴミとか落としてたから、変な二つ名が付かなかっただけマシか?」


「〈蒼天の岩〉ならまだしも〈蒼天のゴミ〉じゃあな、今頃救国の英雄とは言われて無かったろうよ、ガハハハハッ」


「まあでも、それくらい酷い戦争だったわよね。結局ジョージもバリスタに飛竜ごと撃ち落とされて、冒険者を引退したんだものね」


「普通はバリスタなんぞ当たらんぞ、運が悪過ぎるにも程があるわ」


「着地の時踏ん張ったんだけどな、流石に両脚とも粉砕骨折だったからハイポーションでも完璧には治らなかった」

 

「普通の奴なら空から落ちただけで確実に死んどるぞ……頑丈過ぎて呆れるわい」


「いやいや最近じゃあユーゴとの模擬戦でも、もう脚がついて行かねえよ。とっくに俺の現役は終わったのさ」


「あらそれでも、あっちの方はまだお盛んみたいだけど?」


「何っ?誰がそんな事を、アイラかっ!?」


「ぷっ、ちょっとカマかけただけなのにー、もう本当これだから男って単純よねー」


「お前、相変わらずアホなのは変わっとらんのう……」


「ぐっ、返す言葉がねえ……」


「ユーゴにはアイラちゃんがいるから大丈夫だと思うけど、この人の血を引いてると思うと母としては心配よねー」


「違いないのう」


ーーーーーーーーーーーーーーー


ダンディな男はどうやらマリーさんの元?旦那さんの様だった。それにしても〈血塗れのマリー〉とか〈救国の英雄〉とか凄い話が次から次へと出て来て僕は驚かされた。


最後はあのダンディで屈強な男が、マリーさんにやり込められていた。憧れのマリーさんは本当に、マフィアを壊滅させたという噂の〈血塗れのマリー〉なのかも知れない。


密かに聞き耳を立てていた店主のアラン。マリーに密かに恋心を寄せていた男は、告白も出来ないまま華麗に散るのであった。

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