第83話 カミーロ伯爵①
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一時間後、ユーゴとアイラはヴィクターズに居た。アイラは朝から一切口を聞いてくれないものの、何故かユーゴの後にはちゃんと付いて来るのだ。
ヴィクターも露骨に不機嫌なアイラには、敢えて話しかけなかった。流石に商人はその辺の機微をよく心得ている。
「伯爵には明日の昼ごろに謁見する予定になっておりますので、恐らく開店と同時くらいにはお店にお伺い出来るかと」
「分かりました。とっておきのカクテルをご用意してお待ちしてますね」
「はいっ宜しくお願いします!あと……(何があったか知りませんけど、取り敢えずひたすら謝っといた方が良いですよっ!女性は後が怖いですから。伯爵の前では大丈夫ですよね?)」
ヴィクターがユーゴに耳打ちした。
「ハ、ハハ。ありがとうございます。大丈夫だと思います」
そしてこの日はいたたまれない空気のまま、ついにBARの営業時間を迎えたのだった。
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「いらっしゃいませ!」
その日は開店とほぼ同時に早速来店があった。もちろん一人はヴィクターだ、予定通り二人のゲストを連れて来ていた。先に入って来たのは肩まで掛かるサラサラのブロンドヘアーを持つ、優しそうな印象の爽やかイケメン男性だった。
(この方がネグロン伯爵かな?)
そしてその後ろからもう一人、冒険者風の出立ちの男が入って来た……
「と、父さんっ!?」
「ようユーゴ、良い店じゃねーか」
「すいません、僕もさっき知ったばかりで」
ヴィクターの苦笑いの原因はジョージだった。
「いやあジョージ、素敵なお店じゃないか!流石は君の息子さんだね。ご挨拶が遅れました、お父さんの古い友人で《カミーロ》と申します。今日はとても楽しみにして来ました」
「ようこそいらっしゃいました、父がいつもお世話になっております。店主のユーゴと申します」
「まっ、お付きの爺さんも居ない事だし堅い話は抜きだ。最初は何から飲んだら良いんだ?」
酒好きのジョージは、初めてのBARに密かにワクワクしていた。
「そうですね、ではお任せいただいて宜しいですか」
ユーゴはそう言うと、グラスの縁にカットライムの香りを擦り付けるとそのまま中にライムを絞り入れる。氷を数個加え、ジンと炭酸で手早く仕上げれば〈ジンリッキー〉の完成だ。
「お待たせしました。オリジナルの〈ジンリッキー〉というお酒です」
「へぇー、ジンと言う火酒の炭酸割りにライの実ですか?どれどれ……美味しいっ!これが噂の〈カクテル〉という奴ですねっ」
「よくご存知ですね?」
「ハハ、いえ何。今朝お城でモー公爵……じゃ無かった〈ブリー〉さんから、散々自慢されましたからね」
「そうだったんですか。このジンリッキーは数あるカクテルの中のほんの一つですけどね」
「確かに俺もこんなにすっきりとした酒は飲んだ事がねえ、やるじゃねえかユーゴ」
「ありがとうございます!あと今日はこの日の為に仕込んでおいた特別なお酒があるんですよ、飲んでみます?」
「はい、是非お願いします」
「ほう、そいつは楽しみだ」
あまりの美味しさにジンリッキーのグラスはあっという間に空になった。
ユーゴはつい先日完成したばかりのカンパリと〈スウィートベルモット〉を半々で混ぜ、炭酸でアップする。仕上げにレモンの皮の香りを効かせればカクテルの完成だ。
「お待たせしました〈アメリカーノ〉です」
「ほう、これは見た目も鮮やかな赤ですね!」
ネグロン伯爵家のイメージカラーは赤だ。カミーロはそのちょっとした気遣いに感心しながらアメリカーノを口にした。
「これはまたっ!先程のとは全然違って美味しいですね。色もさる事ながら、味わいが複雑で苦味もあるのに後味は爽やかだ……」
「ハハハ、パッと見だけ爽やかな所もカミーロにピッタリだな。それにしてもこの店の酒はいちいち俺の想像を超えて来やがる、酒でワクワクしたのなんていつ振りだろうな」
「確かにそうだねジョージ。人生には甘みと苦味があるものだよ。ところでさっきから後ろで静かにしている彼女はひょっとして……」
「おう、アイラ。珍しく元気がねえな、明るさだけが取り柄のお前が。大方ユーゴと喧嘩でもしたか?」
「えっ、いや。そんな事は……」
流石のアイラもジョージの前では、そうそう不機嫌でもいられない。
「そんなに隠れていては素敵なお顔が台無しですよ?《ネグロンの美女三傑》とも言われているアイラさんが」
「びっ、美女三傑ーっ!?な、なんですかそれは?」
アイラはカミーロが伯爵だと言うのも忘れて思わず食い付いた。
「私の部下達の間ではとても有名ですよ。《ビッグスマイルのアイラ》ちゃんを知らない者はいないでしょう」
ユーゴはアイラの不機嫌の原因が自分である事も忘れて、心の中で『なんてピッタリな二つ名だっ!』と密かに思ったのであった。
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