第81話 魅惑の酒
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ヴィクターがユーゴのBARで伯爵の話題で盛り上がっていた時から遡ること数時間前。件の《カミーロ・ネグロン》伯爵は王都に向けてまさに移動中であった。
「王都は久しぶりなんじゃ無いのかい?」
ネグロン伯爵が話しかける。
「ああ、それこそ数年ぶりだな。わざわざ指名依頼で俺を引っ張り出しやがって、俺はもうとうに現役引退したんだっつーの」
答えたのはジョージだ。
「こうでもしないと君は中々出て来ないからねえ、でも息子さんが王都で開店したと言う酒場にも行ってみたいだろう?」
「ったく耳が早えな。ヴィクターの店も一度見ておきたかったからな、まあそのついでだ」
「ジョージ殿、伯爵に対してその物言いはいくら何でも……」
「まあまあ爺、この人は昔っからこうだから仕方ないよ」
「本当にカミーロ様はジョージ殿に甘いんですから、公の場ではキチッとお願いしますよ!」
「ああ爺さん、ちゃんと心得てるよ」
(もっともガストンがいなけりゃあこの指名も受けられなかったんだけどな。アイツをウチに寄越してくれたアイラ様々かな)
本人も知らないところで、いつもの〈直感〉スキルにより周囲に対してファインプレーを出し続けているアイラなのであった。
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翌朝。ネグロン伯爵の来店予定を二日後に控えたユーゴは、錬金術を使って朝からBARのカウンター内でリキュールを仕込んでいた。
この世界でも染料などによく使われる〈紅色虫〉から取れる赤い色素と〈苦味ダイダイの実〉を、ウォッカとベルモットをベースに錬成し直し、真っ赤なリキュールを創り出す。
ユーゴ特製、異世界初となる〈カンパリ〉リキュールだ。
カンパリは現代ではバーテンダーなら誰もが知っているくらい有名な、いわゆる〈苦味酒〉であり、ビターオレンジ、キャラウェイ、コリアンダー、リンドウの根などから造られる、イタリアを代表するリキュールである。
現在では動物性のアレルギーの為か、レシピが変更になってしまったが、以前は〈貝殻虫〉という天然のコチニール色素がその着色料に使われていた。
ユーゴのレシピはまさに、その古い時代のカンパリへのオマージュであった。
その時丁度、アイラがまだ眠たそうに二階から降りて来た。
「おはよ〜ユーゴ、朝から精が出るねー」
ユーゴは朝からおよそ若者らしくない〈酒造り〉に精を出していた。
「おはようアイラさん、朝から煩かった?ちょっと、前から作ってみたいお酒があったもんで」
「へー、真っ赤っかだね。味見していい?」
ペロっ、
「あ、アイラさんそれは……」
「甘い?……いや、苦っ!!」
「ハハハ、そういうお酒なんですよ。でも慣れるとヤミツキになりますよ」
「えー本当かなあ、全然想像がつかないや」
もう一口ペロッと味見をするアイラ。
「炭酸で割るだけでも、物凄く爽やかになるんですよ」
「えーっ、じゃあ最初からそっちを飲ませてよー」
「あっ、材料はあるからなんなら飲んでみましょうか」
自宅兼お店の良いところは思い立ったら即試せるところだ。かくして朝からカクテルの試飲会が始まった。
ユーゴはグラス二つに手早くカットレモンと氷を入れ、カンパリを注ぎバースプーンを回して氷と馴染ませると炭酸で一気にアップした。シンプルなカクテルだが、カンパリが少な過ぎると却って苦く感じる。
「はい、お待たせしましたー」
二人はカチンっとグラスを軽く当てると、それぞれに異世界初となる〈カンパリソーダ〉を味見した。
「「旨っ!!」」
「何これーっ!ちゃんと甘苦いままなのに物凄い爽やかで飲み易いよ」
「初めて作りましたけど、想像以上に良い出来で僕も驚きました」
二人は調子に乗って二杯目を飲み出した。
美味しいものを飲み食いしている時の、アイラの笑顔はとてもチャーミングだ。美味しそうにカンパリソーダを飲むアイラを見つめるユーゴ、やがてその視線は誘われる様に下に降りていく。
「私このカクテル好き……かも」
自分の身体にユーゴの視線を感じて急にしおらしくなるアイラ。カンパリを飲んだ所為なのか、白のサテン生地に身を包んだ今朝のアイラはやけに色っぽい。それもそのはずだ、アイラは起き抜けのため下着を付けていなかったのだ。若いユーゴが自然とアイラを求めてしまったのも無理は無い。
〈異常回復〉スキルは、ほろ酔い程度では発動しない為、二人はほんの少しだけいつもより高揚していた。
自然と吸い寄せられる様に二人の唇が重なる、久しぶりのキスはビターオレンジの味がした。
この後、滋養強壮効果がめちゃくちゃ高いユーゴ特製の〈カンパリ〉でほろ酔いになった二人が、朝から若者らしい行為に精を出す事になったのはごく自然な成り行きであった。
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