第74話 ドワーフ王国
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「ユーゴさん見えてきましたよ、あれがドワーフの町 《スランジバール》です」
「うわぁー僕が思ってたよりも全然大きいんですねー!」
「うん、山の中腹にちっちゃい建物がいっぱいあってなんだか格好良いよねー」
スランジバールは町とはいえその規模はかなり大きく、争いを好まない彼らは現在ではサヴァラン王国の属国という立場をとっている。
以前は種族差別もあったが、現在の〈賢王〉の代になってからは交易も盛んになり、今回ヴィクターが火酒を仕入れられる様になったのも一つの時代背景と言えた。
ヴィクターは既に門番にも顔を知られている様で、ユーゴらもすんなりと町の中に入る事が出来た。
山の岩肌を削って作った建物の上に更に増設をするというのが基本的な建築様式らしく、その不思議な意匠を見ているだけでも二人は飽きないくらいだった。
「まずはドワーフの王様に挨拶しておきましょうか、手土産があれば尚良いんですが……」
「あっ、ウィスキーですか?もちろん持って来てますよ、お土産に渡そうと思って」
「流石はユーゴさんっ!私の方からはなかなか催促し辛かったものでから」
「ハハハ、お安い御用ですよ。遠慮せずに言って下さい」
「助かりますっ」
一行は王宮の入り口で衛兵に事情を説明すると、ヴィクターの顔でこちらもすんなりと中に案内された。要所要所を確実に抑えている辺り流石は一流の商人である。
「ようこそヴィクター殿、王がお会いになるそうです」
宰相の《フディック》という男に案内され奥に進む。礼儀作法など知らないユーゴは内心ビビりまくっていたのだが……
「ようヴィクター!また来たのか。今回も火酒の仕入れかいっ?」
突然気さくなおじさんがヴィクターに話しかけてきた。およそ王宮に似つかわしくない雰囲気とラフな格好からして恐らく掃除夫か誰かだろう。お陰でユーゴは少しだけ落ち着きを取り戻す。
「ヴィクターさんは本当に顔が広いですね、掃除夫のおじさんとも仲良しだなんて」
「え、掃除夫なんていましたっけ?」
「あれ?このおじさんは……」
「だだだ、誰が掃除夫じゃいっっ!!」
「あ、ユーゴさんご紹介が遅れました……この方がドワーフ王の《グレン・リヴェット》様です」
「えーーっっっ!?た、大変失礼致しましたーーーーっ!!!」
もうひたすらに平謝りである、壮大にやってしまったユーゴであった。後ろでそれを見ていたアイラが声を殺して笑っている。
「もっもしかして僕、打首とかですか……!?」
「まっ、こんな格好してるワシも悪いんだけどよ。謝ったから許してやるよ」
滅茶苦茶あっさりしたドワーフ王であった。
「ありがとうございますーっ!あ、これお近付きの印に」
「何じゃあこりゃ?茶色いのう」
リヴェット王は、ユーゴがお土産に渡したウィスキーの蓋を開けて匂いを嗅いでみる。
「こ、これは……もしかして火酒かっ!?」
宰相のフディックがすかさずグラスを差し出す、王はウィスキーを少しだけ注ぎちびりと舐めてみた。
「何じゃあ、こりゃあぁぁっっ!!こんな美味い火酒は初めてじゃっ、お主これはいったい……」
ようやくヴィクターが助け舟を出し、今回の訪問の目的を一から説明をする。試飲の手応えは十分過ぎる程あったので、どうやら交渉はスムーズにまとまりそうだ。
ユーゴが持ち込んだウィスキーのお陰で、このあと一行は国賓扱いの待遇を受ける事になる。そのままその日は歓迎のお祭り騒ぎとなり、ヘトヘトになった一行は用意されていた宿で一泊する事になったのだった。
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翌日、火酒の製造工程などを見せてもらいながら、職人達にサンプルのウィスキーを幾つか飲ませて今後の酒造りの方針を話し合う。
全て錬金術で作成した物ではあるが、通常のウィスキーに加えて、ユーゴが試作した特別にスモーキーなウィスキーも試飲用に持って来てある。麦芽の乾燥の方法による風味の違いなどをレクチャーする為だ。
幸運な事に町周辺には湿地帯が多く、実際に泥炭をドワーフ達は燃料としても使っていたので、その提案はすんなり受け入れてもらえた。
この泥炭を燃やして麦芽を乾燥させる工程で、ウィスキー特有のスモーキー香が生まれる。それを更に長い年月樽の中で熟成させる事により、味わいはより複雑になり火酒の角が取れて丸みを帯びて来るのだ。
「あの幾らでもその辺に転がってる泥炭が、ウィスキー造りに役立つなんてのう、ワシゃあびっくりじゃ」
「このフルーティなウィスキーもかなり美味いが、ワシみたいな呑兵衛にはこっちのクセのある煙臭い奴が良いのう」
「泥炭の使い方ひとつで味わいは大分変わります。いろんなタイプのウィスキーがあった方がきっと喜ばれますよ。最初は皆さんで試飲用ウィスキーの奪い合いになるんじゃ無いかと思って、内心ヒヤヒヤしてたんですけどね。アハハ」
「お主、ワシらドワーフが全員酒に対して意地汚いと思っとるじゃろ……少なくとも火酒職人はそれじゃあ務まらんわいっ!」
「そ、そうですよねー。ごめんなさい」
火酒職人達の中でも活発に色んな意見が飛び交わされ、美味しさの正解はやはり一つでは無い様だった。だがそれで良い、実際ウィスキーには様々なタイプがあるのだから。
ユーゴは内部を既にチャーして組み上げた樽と、樽の下に置く枕木を全てアイテムボックスから出すと、ようやくコンサルの任務から解放された。
「では後は私の方でやっておきますので、ユーゴさんは観光でも楽しんで来て下さい。しかし隠し球のスモーキーなウィスキーには私も驚かされましたよ!」
「すいません、アレは無理やり作った奴であまり数が無かったものですから。今度アヴィエイションでもお出ししますね」
「やった観光だ!早く行こうユーゴっ」
ひとまず任務から解放されたユーゴとアイラは、ヴィクターの言葉に甘えてドワーフの町を観光する事にした。
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