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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第四章
71/102

第71話 ハリー・クラウド

誤字、脱字、御指摘、ご感想 等もらえると嬉しいです。

ーーートントン


コリーが執務室に戻って暫くすると、誰かが扉をノックした。当然、探知スキルの高いコリーには誰が来たのかは分かっていた。


「開いてるよっ」


扉から入って来たのは、先程ギャラリーの中にいた男〈ハリー・クラウド〉だ。


「ずいぶん懐かしい気配がすると思ったら、やっぱりアンタかい。もう二十年は経つけどちっとも変わらないね」


「ご無沙汰しております。そう言うコリーさんもお変わりない様で、先程の模擬戦を見る限りまだまだ衰えてませんね」


実際コリーの見た目は三十歳前後だ。エルフは寿命が近づくまではほとんど二十歳から外見が変わらない為、コリーは恐らく四百歳を超えている筈だった。


「今のアタシはもう人間とそう寿命も変わらないよ、果たして後何年やれるかねえ。そういうアンタは人間のくせに衰えるって事を知らないのかい?」


コリーがそう言ったのも無理はない。クラウドは金髪・碧眼の優男で、非の打ち所がない程のイケメンだ。ジョージと駆け出しの頃に一緒に修行をしてた割には、その見た目はどう見ても三十歳くらいだった。


「ハハハ、今日みたいにイキの良い若者を見ると、まだまだ老け込んではいられませんよ」


「まあ良いさ。で、今日は一体どう言う風の吹き回しだい?黙って私の元を去ってから二十年以上も音沙汰無しで。もっともダークエルフのアタシにとっちゃあ二十年も二日も同じ様な物だけどね」


「ハハハ、これは手厳しい。いやなに、随分長い事この国にはいなかったものですから。暫くぶりに王都に来たついでにギルドに顔を出したら、面白い物が見れたっていう訳です。あの二人、剣筋を見る限りジョージさんのお弟子さんですか?」


「ああ、弟子のアイラと息子のユーゴだ。正直、まだまだ伸びる可能性を秘めてるね」


「どうりで。今度僕も一度手合わせ願おうかなあ」


それを聞いたコリーの耳がピクッと動いた。


「アンタ止めときなよ、あの二人はこのアタシが面倒を見てるんだからね」


クラウドには当時から何を考えてるか分からないところがあった。あのバトルジャンキーのコリーでさえ久しぶりに会ったにも関わらず、戦いを挑まない事からもそれは頷ける。


恐らく今戦えばコリーは自分が負けるとさえ思っていた、この世界で唯一のSランクと言われるコリーがである。約二十年前、当時すでに弟子の二人はAランクが狙える所まで来ていたが、クラウドは突如忽然と皆の前から姿を消した。


その後も何処かで冒険者をしているという噂すら聞くこともなく、いつしか人々の心からクラウドの名前は忘れ去られていった。コリーに勝るとも劣らない実力者の名前が、全く誰にも知られていないという事からもクラウドの異質さが窺える。


「おお怖っ、冗談ですよ。僕もジョージさんの事は本当の兄の様に慕ってるんですから」


「はん、どうだかね。まっ、しばらく王都にいるならまたギルドに顔出しな。どうせ冒険者ランクもBから上げて無いんだろう?」


「ハハハ、僕は今のままで良いですよ。別に最強を目指している訳でも無いですし。取り敢えず今日は挨拶しに来ただけなのでこれで失礼します」


「相変わらずの自由人ね、アンタは」


クラウドは要件だけ伝えると執務室から出て行った。そしてコリーの探知範囲から忽然とその存在は消え失せたのだった。


(相変わらず謎の多い男だね。しかしわざわざこのタイミングで王都に来るなんて出来すぎてる。ユーゴ達に何も無ければ良いけど……)


ーーーーーーーーーーーーーーー


ユーゴ達は戦いの興奮も冷めやらないうちにノースに戻ると、早速樽工場へと足を運んでいた。来週以降に大量に使う事になる樽の火入れをする為だ。


「皆さんこんにちはーっ」


「おお、ユーゴさんアイラさんお世話になっております。お店の方も順調にいっている様でなりよりです」


そう答えたのは職人頭のホグスだ。あれから改良を重ね、樽の精度は日増しに良くなっていた。


「今日はいよいよこの樽を使う段取りが整ったので、引き取りに来たんですよ」


「おおっ、いよいよですか?遂に私達の樽に火酒が入れられる日が来るとは感無量ですっ!」


「ただこのままじゃあ使えないので、樽の中を焼くんですけどね」


ユーゴはそう言うと、職人達に窓を開けるように促す。締め切りでは熱と煙で酸欠になってしまう恐れがあるからだ。


「最終的には魔導具を使って、皆さんにも同じ事をやって頂くんですけど今日は時間が無いので僕が魔法でやっちゃいます」


ユーゴは樽の内部に向けて小さな〈ファイアボール〉を何発か撃ち込む。小さいとは言え樽の内側を焦がすには十分な威力だ。同時に水魔法で樽の縁が焦げるのを防ぐ事も忘れない。


同様にして蓋となる〈鏡板〉の内側にもキチンと焼きを入れていく。そうこうしているうちに辺りには焦げ臭の中にもキャラメルやバニラの様な香りが漂い、数十樽に及ぶ焼き入れは無事終わったのだった。


「ふぅー、やっと終わった!では、後は職人さん達で組み上げて下さい。鏡板にはガマの繊維をきっちり詰めないと、横にした時に中のお酒が漏れちゃうので気を付けて下さいね」


「かしこまりました!しかし凄く香ばしくて複雑な香りがするんですねー、これが火酒に良い香りを付けるとは驚きです」


職人達には先日、ユーゴ作のウィスキーとブランデーを既に味見させていた。現物を飲んだ事があると無いとでは樽造りへのイメージが全然違ってくるのだ。


上級貴族でさえまだ誰も飲んだ事のない超高級酒をタダで飲ませてもらい、職人達のテンションが上がりまくったのは言うまでも無い。翌日ユーゴが組み上がった樽を回収に来た時には、なんと全ての樽が〈高品質〉なのであった。


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