第7話 父の本心
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宿屋の朝は早い。その為、日本のバーの様にあまり遅くまでは営業しない、せいぜいが23時には閉店だ。
水時計や砂時計はすでに発明されているものの、この世界の人たちは体内時計が恐ろしく発達しており、不思議と大体決まった時間にはお客さんは蜘蛛の子を散らす様に帰ってくれる。
しかし今夜は満席だった為、片付けと洗い物が鬼の様に溜まっていた。
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洗い物は流れ作業で片付けていくのが基本だ。
一人が洗って一人がそれを右から左へと拭き上げていく。基本拭く人の方が圧倒的に早い為に経験者が洗い場を担当した方が双方のタイムラグが少ない。僕はこの店では初心者だが、すでに日本で洗い物の基礎をしっかり叩き込まれていたので、結構早く洗うのには自信があった。
段々と二人の波長が合い、テンポ良くリズミカルに洗い物が片付いていく。手を動かしながらも口は空いているのでお喋りには持ってこいだ。
「いやあ〜、アイラさん今日は疲れましたねー」
「お疲れ〜、初日にしては良い動きしてたじゃん!あっ、私とはシフト初めてだけどもう一週間くらい働いてるんだっけ?」
「そうですね〜、今日で丁度一週間です」
片付けをしながら今日の疲れを互いに労う。可愛い女子との仕事中のちょっとしたひと時は、まさに一服の清涼剤である。戦士だけど……
「あらかた片付いたね〜、ちょっと休憩しよっかー?」
「切りも良いのでそうしましょうか」
「ユーゴはさあ、冒険者にはならないの?せっかくお父さんが元一流の冒険者なのに」
「僕ですか?あんまり考えた事無かったですねー、そんなに運動神経も良く無いし」
つい先日までバーテンダーを目指していたのに、異世界に来たからと言って急に冒険者になろうとは全く思わなかった。
しかし環境にも慣れてきた今、言われてみれば絶対にやらないという話ではない……
「確かに一週間でその洗い物の早さは、天職かも知れないねーアハハ。私はおてんばで手先があんまり器用じゃ無かったからさ、小さい頃から何となく冒険者になるしかないな〜って思ってたんだー」
「なるほど、それで戦士なんですねー」
「私の友達にも魔法使いの子がいるけどさ、私みたいにガサツじゃ無いも〜ん。どっちかっていうとユーゴは〈ヒーラー〉とか〈サポーター〉向きなのかもね」
「サポート役ですか……腕っぷしには全然自信が無いけど、それだったからイケるかも?」
「ジョージさんの息子なんだから鍛えればかなり強くなれるんじゃないかなー。本格的な冒険者登録は16歳からだけど、色々調べてみたら?まだ若いんだし。ジョージさん絶対喜ぶと思うよ、ユーゴがずっと部屋で本ばっかり読んでるの気にしてたから」
「あははは……ありがとうございます、本だけは部屋にいっぱいあるのでちょっと色々調べてみますね」
「ホントに本好きだねー笑。よし、あとちょっとだしとっとと片付けて帰ろっ」
「はい喜んでーっ!」
「またそれーっ?笑」
「「あはははははーーーー」」
うーむ、この世界での記憶は全然無いのだがどうやら僕はここでも本の虫だったようだ。話の流れから推察するに、部屋に引きこもって本ばかり読んでいたのが、ようやく最近になって父さんの仕事に興味を持ち始めた、ってところか?
仕事はまだまだ完璧じゃないけど、部屋の本にもひと通り目を通しておく必要があるな。
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ジョージはその日の売上勘定をしながら、二人のやり取りを隣の部屋で微笑ましく聞いていた。膝を怪我して引退したとはいえ、元上級冒険者の彼にとっては壁一枚程度なら聞き耳をたてるまでもない。
思春期のユーゴが急に家業を手伝ってみたいと言ってきた時にはどういう風の吹き回しかと思ったが、なかなかどうして覚えが早い。流石は俺の息子だ。特に酒場での仕事っぷりはまるで水を得た魚だ。
ただユーゴはまだ若い。将来宿を継いでくれるのは願ってもないが、今はまだ自分のやりたい事を好きなだけやって欲しい。
「ふふふ、今日はアイラと組ませて正解だったみたいだな。ユーゴも見た目は悪くないんだから、若い娘に興味を持ち始めたらちょっとは変わるかな?」
自慢のエールを片手にひとりごちる。仕事の後のジョージのささやかな楽しみだ。
ジョッキの残り半分ほどを一気にあおり飲むと、本日の売上げが入ったずしりと重い革袋をインベントリ型のアイテムボックスに放り込んだ。
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