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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第四章
66/102

第66話 プレオープン①

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。

これまでバーテンダーを目指す上で、ジエリ・トマスが残してくれた錬金術スキルは殆ど役に立っていなかったのだが、錬金術がカンストした辺りから状況は今までと一変した。


ユーゴの錬金術はもはや液体だけで無く、個体だろうが気体だろうが理屈がおよそ分かっているものであれば新たに作り出すことが出来るし、存在しているものであれば複製する事すら出来た。もはや等価交換もへったくれも無いチートっぷりであった。


ユーゴは先日バギーに作って貰ったスイングトップ瓶の金属パーツを硝子の瓶に嵌めると、まず炭酸用の瓶をいくつか複製した。瓶の材料は鉱物であれば何でもよく、その辺の土を材料にした。


この瓶はいわゆるリターナブル瓶で、洗って再利用するのだ。普通であれば煮沸消毒しなければならず面倒なのだが、水魔法の使えるユーゴには何の苦労も無かった。


試しに炭酸とトニックウォーターを作ってみたが、およそ日本で一般的に普及しているクオリティの物が出来たとユーゴは満足している。


その他バギーの鍛冶屋仲間から、バーツールもかなり納得のいくものが出来上がって来ていた。ユーゴは錬金術で微調整をした後、更に複製をする。流石にシェイカーが一つでは間に合わないからだ。


ちなみにこの世界初のシェイカーは海外で多く見られるタイプのツーピース・シェイカーだ。いわゆる金属の大きいカップと小さいカップを嵌めてシェイクするシンプルな物で、パッと見は簡単に外れてしまいそうだが、氷が入り中の空気が冷える事により内圧が下がるので簡単には外れない。


日本でよく見るタイプのスリーピース・シェイカーの形もユーゴは熟知している為、そちらも難なく錬金術で錬成が出来た。


その他副材料でもっとも活躍するレモンとライムに関しては、ヴィクターがユーゴとの一件で〈ライの実〉を専売で扱う様になっており、より酸っぱい〈レムの実〉というものまで見つけて来ていた。味は予想通りライムとレモンだった。


ユーゴはこのBARに於いては、自分自身も混乱してややこしいので、酒からツールから副材料に至るまで全て現代日本での呼称に切り替える事にした。言わば全てがユーゴ・オリジナルブランドである。


その他ベーススピリッツとなる蒸留酒に関しては、黒かえでの炭と錬金術で、ドワーフの火酒をチャコールメローイング(いわゆる活性炭ろ過)した〈ウォッカ〉や、そのウォッカと砂糖で錬成した〈ラム〉、先日ボタニカルを買ってきて作った〈ジン〉も当然完成していた。竜舌蘭の様な植物が市場に無かった為、まだ〈テキーラ〉は出来ていないが、今後探していく事にする。


広葉樹の木材片を焦がしたものでドワーフの火酒、エルフの火酒をそれぞれ加工すると、ユーゴの予想通りほぼ〈ウィスキー〉と〈ブランデー〉に近いものが出来上がった。


樽材の種類や麦芽の乾燥方法など改良の余地はまだまだあるが、これは直接火酒を創ってる職人達に情報提供すれば、今後より良くなっていくであろう。


ほぼ全ての環境が整ったところでユーゴはプレオープンと称して、関係者を招待する事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


まずユーゴは招待客全てに、錬金術で魔力を込めて錬成した特殊なコインを渡した。そしてそれはユーゴが認めた者にしか今後も配られる事はなく、一般客はメンバーの随伴でしか入店が出来ない事を意味していた。


この秘密のBARには一見入り口が無い。廃墟の様に見える建物の煉瓦の一つに、よく見ると金の文字で《Bar Aviation》と表記されている。その横のコイン一枚分の隙間にそのコインを入れると、突如目の前の壁が奥に開くという寸法だ。


「ほう、これは面白い趣向ですね。外壁だと思っていたのが扉の一部だとはっ」


そう呟いたのはトマス商会会頭のジョン・トマスだ。執事のスバスもきちんと招待する辺り、ユーゴの気遣いに抜かりは無い。二人が中には入るとそこは従来の酒場とは全く異質な、ラグジュアリーな空間が広がっていた。


見事に研磨された一枚板のカウンターの奥には、今まで見た事も無いほど精度の高いガラス瓶に入った、色とりどりのお酒が所狭しと並んでいた。


カウンター席の向かいには四人掛けのテーブルが二席、カウンターも八席だけのこじんまりした空間だ。照明は全て天井から吊り下げられており、ガラスのカットが美しい魔導具のランタンであった。薄暗い店内には既に先客が数人居たものの、トマスはすっかりBARの内装に見入っていた。


「「いらっしゃいませ、トマスさん」」


カウンターの中からユーゴとアイラが声を掛ける。濃いグレーのツイード生地のベストと蝶ネクタイに、仕立ての良い白いシャツが清潔感を感じさせる。今までの冒険者スタイルとは全く違う新鮮な出で立ちだ。


「これはこれは、ユーゴさんアイラさん思わず見惚れてしまい、ご挨拶が遅れました」


「やはり、トマスさん程の方でもそうなっちゃいますよね?」


そう隣から話しかけるのはヴィクターだ。


「おお、トマスさんご無沙汰しております。この度は孫の門出にわざわざお越し頂きまして、誠にありがとう御座います」


続いてウィリアムがトマスに声を掛ける。


「ご無沙汰しておりますウィリアムさん、皆さんお早いお着きでね」


ウィリアムとトマスには面識があるようだ。


「立ち話も何ですから、お好きな席に座ってくださーい。あと事前にお伝えした様に、このお店では一切皆さんの身分を考慮せず平等に扱いますのでご了承くださいね」


ユーゴから丁寧な言葉遣いを指示されているアイラだが、やはりそこは彼女のキャラが出てしまう。逆にユーゴが言いづらい事も率先して言ってくれるので、そこは上手くバランスが取れていると言える。


「それでは皆さんお揃いの様ですから、先ずは乾杯しましょうか」


ユーゴは自家製のジンとトニックウォーターとライムで人数分の〈ジントニック〉を手早く作る。一杯目なので少しソーダを加えて甘さを控えるのがポイントだ。特注の捻じりを加えたバースプーンで、炭酸の気が抜けない様にそっと混ぜれば完成だ。


「お待たせしました、僕のオリジナルのおカクテルジントニックです。本日はお忙しい最中わざわざ足を運んで頂きまして、誠にありがとうございます。それでは皆さんとの素晴らしきご縁に、乾杯っ!」


「「「乾杯!」」」


間違い無く異世界初となるジントニックの美味さに、ユーゴ以外の全員が度肝を抜かれた事は言うまでも無い。

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