第64話 開店準備②
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ユーゴらはその足で、コールドテーブルの搬入の件を話しにスター・ケイプに向かった。
「お爺ちゃん、ただいま帰りましたっ!」
「おお、ユーゴとアイラちゃんかよく帰って来たね。お陰でコールドテーブルの方も、着々と量産体制に入っておるぞ」
「うん、それでそのコールドテーブルの納品の件なんだけどー、流石に明日とかだと急すぎるかな?」
「いや全然構わんよ、まずはデモンストレーションを兼ねてユーゴのそのBARとやらで商談をさせて貰うのだからな。納品は早いに越した事は無い」
ユーゴはBARの客を最初の内は上流階級だけに絞ろうと考えていた。というのも酒の仕入れ自体がまだまだ高いため、カクテル一杯の値段が銀貨5枚くらいになってしまうのだ。そういう意味では魔導冷蔵庫を買えるくらいの富裕層はBARの客として持ってこいであった。
(炭酸飲料も何とかなりそうだし、早ければ来月頭にはオープン出来るかも?あっ、ヤバい!)
事はとんとん拍子に行くかと思われたが、ユーゴはBARにとって最も重要な材料を完全に見落としていた事に今頃になって気が付く。
この世界ではまだ一度も見た事の無い、氷である。
この世界には氷屋という商売が無かった。王都からかなり北まで行けば凍った湖から切り出した氷などもあるようだが、少なくとも王都には流通していなかった。従来の魔導冷蔵庫さえあればとりあえず事足りてしまうのだ。
(ど、どうしよう?北の町まで仕入れに行く?否、現実的じゃ無いよなあ)
氷そのものは最悪魔法で造るにしても、ユーゴに残された選択肢はもはや一つしか無かった。
「お爺ちゃん思いつきなんだけど、魔導冷凍庫を作ってみたいんだよね、僕」
「何っ、冷凍庫だと?コールドテーブルよりも単純にもっと冷える装置は造れるだろうが……サイズがなあ。流石のユーゴでも氷魔法の魔法陣のサイズだけはどうにも出来んだろう、BARには冷凍庫がどうしても必要なのかね?」
「うん、僕もすっかり忘れてたんだけどBARには必ず氷が必要なんだよね」
「かつては北の湖で取れた氷が王に献上された事もあったらしいが、まあコールドテーブルを考えたのもお前だしな。ダメ元で好きにやってみなさい、材料は幾らでもこちらで手配しよう」
あまり期待はされてないようだが、一応ウィルからの承諾は貰った。そうなるとやはり問題は魔法陣だ。従来の魔導冷蔵庫は、大きな氷魔法の魔法陣の脇に送風に使う風魔法の魔法陣を描くのが一般的だった。しかしこれだとサイズが大きくなりすぎるため、ユーゴは氷魔法を使わないコールドテーブルを考案した。
ただし気化熱では氷を保管する程の低温までは冷やすことが出来ない。やはり冷凍庫には氷魔法が必要だ。ユーゴは水魔法のステータスが3になった事で氷魔法が使えるようになっていた。何事も経験だと思い取り敢えず魔法を使ってみる。
「クリエイトアイス!」
ユーゴの目の前に複雑な魔法陣が現れ、目の前には氷の塊が現れた。もし保管さえできるのなら魔法使いの氷屋という商売も可能だろう。
(確かにあの複雑な魔法陣を小さく描くのは至難の業だな……)
だがユーゴはその時何となくだが、魔法陣というのは簡略化出来るのではないかとふと思った。
この世界の算術がどれほど進んでいるのかは知らないが、仮に絵で分数の8/128を表現するとしよう。りんごが128個あって、その上にりんごが8個乗っかっている様なイメージだ。しかしこれを約分すればりんご16個の上に1個を描けば済む話である。
氷魔法の魔法陣はその陣の数こそ多いものの同じ図柄の集合体であり、約分して描いてもバランス自体は取れそうであった。そうとなったらあとは実験あるのみだ。ユーゴは紙の上に簡略化した氷魔法の魔法陣を描いていく。殴り描きではあるが大幅に陣の数を減らす事が出来ている。
ユーゴは出来上がったそれを、より魔法陣に精通しているマリーに見せてみる事にした。
「母さんこれをちょっと見て欲しいんだけど……」
「なになにユーゴが考えたの?水魔法っぽいけど少しだけ複雑ね。えっ、これもしかして大分省略して描かれてるけど、氷魔法!?」
「うん、そのつもりなんだけど実際にこれ発動するかな?」
「理論上は発動しそうな気もするけど……これって省略とかしちゃって良い訳?アンタよくこんな事考えたわね」
「うん、何となく閃いたんだよねー。あ、あと風魔法の魔法陣も重ね掛けしたいんだ、コールドテーブルみたいにね」
「この魔法陣のサイズならコールドテーブルをそのまま流用できるから、ちょっと描いてはみるけど。もし本当に発動したらお父さんショックで倒れかねないわね……」
「まさか、そんなに上手くいくとは思ってないよ。まあダメ元だし今後何かしらのヒントにはなると思うんだ」
ユーゴはこの件をひとまずマリーに預ける事にした。
その間にやっておくべき事は山ほどある。ユーゴはアイラを連れ立って市場に出向いた。ヴィクターズで仕入れた酒だけでは表現しきれない風味を、ハーブやスパイスやフルーツで補うためだ。傷みやすいものは冷蔵庫が届く明日以降仕入れるとして、トニックウォーターの素材となる木の皮や、炭にして使う黒かえでの木材などをいくつか仕入れておく。
『ミクソロジストと呼ばれるバーテンダーは、まさに現代の錬金術師だ』と、父譲治が言っていた事をまさか自分が異世界で体現する事になるとは思ってもいなかった。
ちなみにユーゴはこの秘密のBARの名前をもう決めていた。そう、かつて父譲治がやっていたBAR〈アヴィエイション〉だ。直訳すると〈飛行〉という意味になるのだが同名のジンベースのカクテルがある。当然ユーゴは〈ジン〉も一から作るつもりだ。
通常ジンはベースとなる火酒にハーブやスパイスを漬け込んで再蒸留するのが一般的だ。ユーゴは蒸留器こそ持っていないが、代わりに錬金術がある。幸にしてジンの主原料となるジュニパーベリーに似た針葉樹のぼっくりを見つけたので、あとはお好みの草根木皮を入れるだけだ。
ユーゴらはひと通りの材料を仕入れると一旦BARに戻り、購入した素材を店内のカウンターの上に綺麗に並べていく。
「よーし今夜は色々作りまくるぞーっ」
「いよいよだね〜、なんか私までワクワクして来たよ」
「何かすいません、僕のやりたい事ばっかりで」
「ううん、私も結構楽しんでるから大丈夫だよっ。あ、そう言えば朝から何も食べて無かったね、腹ごしらえにハミッシュさんとこ食べ行こうよ」
「良いですね!一週間ぶりにっ」
二人は仲良く手を繋いで、ハミッシュの屋台にガベッジサンドを買いに向かった。
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