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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第三章
56/102

第56話 アルデヒド・ファミリー

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。

北の魔女マリーがノースを去ってから早二週間、マフィア達の間では〈血塗れ〉に関して様々な議論が飛び交っていた。


「ーーーじゃあいっその事、その冒険者の嫁を攫っちまうってのはどうだ?」


ちなみに嫁とはアイラの事である。最近になってマリーの息子夫婦が、アジト跡に頻繁に出入りしているという情報を掴んでいたのだ。


「おお、そいつは名案だな」


「俺はたまたまそいつらが稽古してるのを見かけたぜ。嫁もそこそこ使う様だが防戦一方だったな。亭主さえいなければ楽勝だろ」


それは単に剣道でいうところの掛かり稽古を、アイラがユーゴに付けてあげていただけなのだが、マフィアとはいえ戦闘のプロばかりでは無い。


「一人になった隙をついて攫っちまえば、血塗れの奴も何も手出し出来まい」


「いや、相手はあの血塗れだぞ。それこそ人質ごと魔法を喰らわせるんじゃなかろうか?」


「あ、あり得るな……まあ、ともかくボスに相談してみよう」


ユーゴらの知らないところで、マフィア達はアイラ誘拐の計画を企てていたのであった。


ユーゴがお店作りに奔走している間、稽古の時間以外は基本アイラは手持ち無沙汰だった。戦闘馬鹿なのでたいしてユーゴの役にも立てない。


その為最近は、毎日一時間程度近所の散策をしている。もしかしたらユーゴの興味を引くようなお店を発見出来るかも知れない、という期待もあった。


アイラがいつもと違う裏道を散策している時だった。明らかにその筋の人間と分かる二人の男が向こうから歩いて来ると、突然道を塞いだ。


「お姉ちゃん、ちょっと俺たちと良い事しようか?」


漂う気配からしてアイラの敵では無いが、関わるのも面倒だ。


「うーん、どうしようかな〜。やっぱ遠慮しとくよっ」


アイラはすぐさまその場を離脱しようと試みたが次の瞬間、首筋にチクリとした痛みが走り途端に身体が麻痺し始める。もう一人の男が気配を完全に消して物陰に潜んでいたのだ。それは探知能力を持つアイラの意識の外からの攻撃だった。ふらつくアイラはそのまま三人に取り押さえられ、大した抵抗も出来ずに意識を失ってしまう。


「お前、剣の腕はからっきしだけど、毒針の方は流石に百発百中だな」


「うるせぇ、気配を消した俺の毒針からは誰も逃げられねえ。どんな奴でもあと半日は起きられねえよ」


「ここじゃあ人目につく、取り敢えずアジトに連れて行こうぜ」


三人はそこから五分程離れた倉庫に、アイラを担いで連れていく。麻痺の効果は絶大らしく、手足を縛るまでも無いようだ。雑談をしてる内に一行はアジトまで辿り着いた。


アジトの中には他にも二十人ほどのマフィアがたむろしていた。元々は樽の倉庫だったらしく、樽をテーブルにして酒を飲む者や、ギャンブルに興じる者などその様子は様々だ。そして一番奥のテーブルには、蛇の様な目をした痩身の男が座っていた。


このマフィアのボス《衝撃のアルデヒド》だ。


王都では二つのマフィアが縄張争いをしており、その一つがかつて最大勢力だった〈アルデヒド一家〉だ。マリーにアジトを吹き飛ばされていなければ、一家がこんな辛酸を舐める事は無かった。現在では第二勢力だった西ウェストの〈メチル一家〉が徐々に勢力を広げつつあり、アルデヒドは焦っていた。


「ボス!連れてきましたぜ」


「ほう、仕事が早いなお前ら。コイツが〈血塗れ〉の義理の娘か」


「へい、一人でいる所を上手いこと毒針で麻痺させて拐ってきました」


「良くやった、後で褒美をやろう」


「へいっ、有難うございます!」


「血塗れの邪魔さえ無ければ、ウェストの連中なんぞ俺の敵じゃねえんだ。ほう、コイツはよく見りゃなかなか良い女じゃねえか。まずは俺が可愛がってやろう」


アルデヒドがアイラに手を伸ばしたその瞬間。


「凄く良い女の間違いじゃなくて?」


アイラはブレイクダンスでもする様に回転しながら飛び起きると、アルデヒドの正面に距離を置いて対峙する。


「うおっ、てめえっ。おいっ!どうなってんだ!」


「有り得ねえ!オークだって半日は起きられねえ麻痺毒だぞっ」


異常回復のスキルを持つアイラは、担がれる前にはとっくに意識を取り戻していた。格下相手に遅れを取ってしまった自分に我慢がならないアイラは、思い付きで相手のアジトに行って大暴れする事にしたのだ。完全に八つ当たりである。


毒針の男は再びスキルで気配を断つと、アイラの背後から毒針を吹きかける、がしかし。


「あのさー、急に気配だけ断たれたって丸見えだっつーのっ」


アイラは毒針を上体だけで難なく躱すと、男を一撃で昏倒させた。一応生きている……筈だ。


「こんな可愛い女の子に乱暴しようとしたんだから、当然覚悟は出来てるよね?」


「馬鹿が、この人数相手に何が出来る。お前らぁっ、もはや殺しても構わんぞー、仕留めた奴には金貨5枚だ!手前の死体はその後で散々弄んでやるからなっ」


アルデヒドが下卑た笑みを浮かべる。


(ちょ、キモっ!それにしても…Dランクの賞金首だって金貨10枚なのに、5枚ってちょっとケチ過ぎじゃないの?)


アイラはそんな事を考えながら、次々と襲い掛かってくるマフィアを全て一撃で打ち伏せていく。両刃なので峰打ちは出来ないが、剣の腹で殴っている為死んではいないだろう。


10分ほどが経ったであろうか、痛みによってうずくまるマフィア達で倉庫は埋め尽くされていた。全員死んでこそいないものの、身体中の骨がどこかしら粉々に砕けている。


「さて、最後のアナタはどう可愛がってくれるんだっけ〜?」


「舐めやがって、何故俺が〈衝撃〉と言われているか見せてやる。エアバレット!」


ズドドドドドドドドドドドド!!!!!


アルデヒドは両方の掌から空気の弾丸を連射する。風魔法が使えるマフィアなど普通はいない、ましてや両手撃ちなら尚更だ。流石は異名持ちだけのことはある。エアバレットを撃ちまくるその姿はまるで〈野菜の星のエリート王子〉の様だった。あの技でやられた奴っていたっけ?


「はぁはぁはぁはぁ、や、やったか?」


ここまでやってくれるとユーゴで無くともフラグを回収しない訳には行かない。アイラは土埃に紛れて背後に回り込むと、首に手刀を一発叩き込んで完全に勝利を収めたのであった。


「ふぅ、私もまだまだね……」


完全勝利の後に自己嫌悪するアイラであった。

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