第51話 母の実家
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「やっぱりユーゴじゃない!見違えたわねえ、すっかり男らしくなっちゃって」
「う、うん。母さんも変わってないね、すぐに分かったよ」
ユーゴはまだ少し混乱していたが、普段母親と話していた時のように明るく振る舞った。頭ではなんとか理解が追いついて来ている。父ジョージがそうであった様に、恐らくこの女性は勇悟の母親の〈江尻麻里〉では無く、ユーゴの母親の〈マリー・エジリ〉なのだ。
一方、隣でもう一人固まっている人物がいた、アイラだ。
「は、初めましてっ。私アイラ・バーレイと申します!ユーゴとはいつも一緒に激しく汗を流したりする間柄、いやっ、そう言ういやらしい奴じゃなくて、あのっ、そのー」
半ば誤解を招きかねない自己紹介で、アイラは完全にテンパっていた。天真爛漫なアイラも未来の姑には緊張するらしい。
「うん、宜しくね……アイラさん。しかし天才魔導師と言われた私がどれだけ教えても、全く魔法に興味を示さなかったユーゴが土魔法!?もしかして他にも何か出来るのっ?」
マリーはユーゴの魔法を見て、何故か急にテンションが上がった様子だ。
「う、うん水魔法も使えるよ。ウォーターボール!」
ユーゴはいつもよりも大きな水球を宙に浮かべ、自由自在に操ると遥か上空でそれを爆散させた。
「わーっ、きれーい」
空に掛かった虹を見てシャーリーが歓声を上げる。
「なっ、いったいどうなってるの!?ユーゴに魔法の才能なんてこれっぽっちも無いと思ってたのに。こんな事なら早とちりして出て行くんじゃ無かったわよーっ」
「えっ?えーーっ!?そ、それってどう言う……」
マリーがここじゃアレなので場所を変えようという事で、ユーゴとアイラは母の今の仮住まいにお邪魔するとこにした。なお、シャーリーからの差し入れはちゃんと忘れずにもらってきた様だ。
マリーの家のリビングで当時母が出て行った時の状況を改めて聞いてみた。アイラは席を外そうと気を利かせたが、マリーが構わないという事で一緒に聞く事にした。
江尻家の母〈麻里〉と同じく、マリーは大変教育熱心だったらしい。ジャンルは勉強では無くこの世界で言うところの魔法学だったが、とにかくガミガミ叱りながらと結構な教育ママだったそうだ。
幼いユーゴは拒絶反応を示し、一切魔力関連のスキルが発現しないまま徐々に引きこもりになっていった。この辺りまでは江尻家の状況と酷似している。
ジョージが女性からモテるのは今に始まった事では無く、マリーが出て行った理由は寧ろ自分自身にあった様だ。
自分の分身である息子を一流の魔法使いにしたい。しかしそれが出来ていない事へのストレスと、息子を追い込んでしまった事への自責の念で自暴自棄になり、遂には家を出て行ってしまったそうだ。
ジョージの女性関係云々の話は、母を庇う為にジョージが後から泥を被ったのだなと、寧ろユーゴには思えた。
「じゃあ父さんの浮気とかが原因じゃなくて、寧ろ母さんの一人相撲だったって事?」
「うっ、あなたしばらく見ないうちに、随分言うようになったわね……」
「まあ、僕ももう成人だし色々あったからね」
「元々実家の反対を押し切って、駆け落ち同然に結婚しちゃったのよね私。おかげで実家にも帰れないし、ジョージにも合わせる顔が無いし。そうだっ!ユーゴがなんとかしてよっ」
この世界の母マリーの記憶が一切無いユーゴではあったが、この数時間で大体分かった。マリーは超箱入りで世間知らずの天才ポンコツ魔導師なのであった。
「とりあえず母さんの実家の方から何とかしないとね。今飛空亭に母さんが戻っても、多分混乱しか起きない気がするし」
「まあ、私の実家は王都だしね」
「へえ、何処なの?」
「南のスター・ケイプって言えば分かるかしら?」
「えっ!?」
ユーゴとアイラは顔を見合わせた。ユーゴが門前払いされた理由……つまりはそう言う事だったのである。
駆け落ち同然で結婚したジョージとマリーは、飛空亭をオープンするに当たりやはり冷蔵庫をスター・ケイプに頼んだようだ。しかしそもそも結婚を認めなかったマリーの父親は激怒し、当然その依頼を受ける事は無かった。
そこで魔法に天才的な才能を持っていたマリーが見様見真似で、飛空亭の魔導コンロや冷蔵室を作ったというわけだ。
「あっ、じゃあ母さん。何で魔導コンロは小型化出来るのに、冷蔵庫は大型の物しか無いのか知ってる?」
「うん、当たり前じゃ無い。だって火魔法なんて駆け出しの魔法使いでも使えるけど、氷魔法は中級以上の魔法使いじゃ無いと使えないでしょ?術式が複雑だとそれだけ魔法陣も複雑でかなり大きくなるから、魔導具自体を小さくし辛いのよ」
「あ、なるほどっ!そう言う事かあ」
水魔法をある程度使えるようになっていたユーゴは、なんと無く理解出来た。魔法を使う為には魔法陣の構造ををある程度は理解している必要がある。それはさながら数学の公式を覚える感覚に似ていたからだ。
魔導具への興味が尽きないユーゴではあったが、先ずは今後の作戦を考えなくてはならない。母は実家には一度も帰っていないらしく、やはり祖父は娘を心配しているだろう。母だけでも許してもらえるチャンスはあるはずだ。
その日は一旦解散して、ユーゴらはヴィクターが手配してくれた金の豚耳亭に泊まる事にしたのだった。
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