第49話 血濡れのマリー
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トマス商会は王都の南ブロック通称〈サウス〉にある。現代日本で言うところのいわゆる銀座だ。そこから東西どちらかのブロックを抜けて北に向かうと、徐々に街並みが変わってくる。貧困層が住むバラックなどがちらほら増え始めると、そこはもう北ブロック〈ノース〉だ。
「ちょっとユーゴ、さっきから客引きの女の人ばっかり見てるよね」
「いえ、そんな事ないですって。向こうが話しかけてくるからつい」
と言ってる間に次々寄ってくる。客引きの女性達は見るからにセクシーな衣装を着ており、目のやり場に困ってしまう。
「あら、こちらのお兄さんイケメンね〜。ちょっとお姉さんと良い事しましょっか〜」
「は、はいぃぃーーーーーーたたたたたっ!」
「はいこっちーー」
アイラに耳を引っ張られて連れて行かれるユーゴなのであった。
「イタタタタタっ、アイラさん千切れちゃいますっ」
「ポーション飲めば治るでしょ」
「いや、そう言う問題では無いような」
「ユーゴはイケメンなんだから、もうちょっと気を張ってよね」
「はい、スイマセン」
大好きなアイラにイケメンと言われて悪い気はしない、そもそも自分に自信の無いユーゴにイケメンと言われた経験はこれまで無かったのだ。
人間とは不思議な物で自信は顔に出る、素材が良いにも関わらず全くモテない奴がいるのはその為だ。事実ユーゴはアイラと出会った頃よりも、遥かに良い顔をしていた。
ノースは治安が悪いと言われていたが、実際に来てみるとそんな事は無かった。少し拍子抜けした二人は近くの屋台で何かつまみ食いする事にした。
「よう、そこのお二人さん。北の名物〈ガベッジサンド〉はどうだい?美味いぜえ〜」
「えっ、ガベッジですか?」
「ハハハ、いくら北のもんだってゴミは喰わねえよ、こいつはいわゆる魔物の臓物さ」
なるほど、ギルドで解体された魔物は一部の皮や肉はお金になるが、基本的に内臓などは廃棄されてしまう。それを引き取って商売している業者があると以前聞いたことがある。関西風に言えば〈放るもん〉が〈ホルモン〉になった様な物だろう。
「へー、美味しそうですね二つ下さい」
「おー言ってみるもんだな、二つで銀貨1枚だよ」
早速食べてみると確かにコレは美味い。恐らく小腸から染み出した脂で焼いたオニョンと安っぽいチーズ、たっぷりの刻んだハツやレバーなど全てを鉄板の上で調理する。臓物にはハーブも効かせてあるようだ。仕上げに表面を脂で焼いたパンで挟んだら完成だ。
ユーゴはアイテムボックスからネグロンカラシーナを取り出すと、こっそりパンの内側に塗りたくった。
「ちょっと臓物臭さが有りますけど、そこがまた良いですね。しかも超安いしっ」
「うん、私も全然大丈夫っ。むしろ美味しい」
「おっ、兄ちゃん達見たところ余所者っぽいのに嬉しい事言ってくれるねえ〜」
「やっぱり分かりますか?」
「まあ、俺は毎日ここに立ってるからな。最近はマフィアも大人しいから商売がやり易くて助かるよ」
どうやら最近治安がそれほど悪くないのはマフィアが関係している様だった。料理好きのユーゴはその鉄板屋台を何気なく観察しているとある事に気がついた。
「あれ?この鉄板って、下から煙が出てないですけどもしかして……魔導具ですか?」
「おう兄ちゃん、気付いたのはアンタが初めてだぜ。ぱっと見分からない様にしてるがな、ここだけの話こいつは魔導具だ」
ここだけの話で教えてくれたのだが、なんでもここのガベッジサンドを気に入った魔法使いが自作でプレゼントしてくれだそうだ。
しかもその魔法使いがノースを仕切るマフィアと揉めた際、彼らの根城を魔法で跡形もなく燃やし尽くした事がきっかけで、ここ数年はマフィア達も大人しくなっているらしい。
「僕らもその人には注意した方が良さそうですね」
「うん、ユーゴは巻き込まれ体質だからね」
「ちょっと変わった人だけどこの辺の住人には慕われてるんだぜ。〈北の魔女マリー〉って言えば知らねえ奴はいねえよ。もっともマフィア連中には〈血塗れのマリー〉で通ってるらしいけどな」
「あ、女性だったんですね。ガベッジサンド好きって言うからてっきり男の人かと」
「まあ、確かにそれだけ聞いたら普通は男だと思うわな、ハハハ」
とその時、小さな女の子が屋台の店主の足元から現れた。どうやら店主の娘さんの様だ。
「ねえパパ、今日もマリー様のところにお手伝いに行って良い?」
「ああ、良いけど職人さん達の迷惑にならない様にな。あっそうだ、これマリー様にって差し入れで持っていってくれ」
「うん、マリー様に渡してくるね」
「北の魔女に差し入れですか?」
「ああ、さっき言ったマフィアの根城の跡地にな、マリー様が自費で俺たちの居住区を作って下さったんだ。その御礼としては全然足りねえんだが、今度は逆にここいらの大工達がマリー様の家を建てさせてくれって話になってな。
まあ俺としてはお世話になったお返しに、差し入れぐらいしか出来なくて情けねえんだけどよ」
北の魔女マリーはなかなか人情味のある人の様だ。少し興味を持ったユーゴらは、治安の悪い場所である事に変わりはないので、その女の子の護衛を兼ねて後を付けてみる事にした。
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