第42話 奇跡の飲物
ここから第三章です。いよいよユーゴがBARの開業に向けて、動き出します!
誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。
王都からユーゴらが帰って来て一週間が経った。
ユーゴは毎日仕事と鍛錬で忙しくしながらも、この一週間で色々と新たな試みをしていた。
その一つが恐らくコーヒーとなるであろう〈奇跡の実〉だ。ユーゴは果実の部分を全て食べると、さくらんぼの様に種だけを取り出す。
果肉部分が残っていると悪くなりやすい為、綺麗に洗ってから数日間天日で乾かす。大豆の様に薄皮が付いているのを剥がせば、コーヒーの生豆の完成だ。
今日辺りヴィクターが到着するという連絡を貰っていた為、前もって準備を進めていたのだ。
「ユーゴさーん!ご無沙汰してまーす」
「お久しぶりですヴィクターさんっ!王都では大変お世話になりました。あっ、父さんこの人が話をしてた商人のヴィクターさん」
「いやー、息子のユーゴが王都では世話になりっぱなしだったみたいで、ありがとうございました」
「とんでもありませんっ!こちらこそユーゴさんには商売の上で沢山のヒントを頂いてなんとお礼を言ったら良いか」
「ああ、なるほど。その一つが今日の為にユーゴが用意した〈コーヒー豆〉っていう奴ですか」
「そうなんですよ。私も楽しみで昨晩は眠れませんでした」
「ヴィクターさんそりゃあ単に、奇跡の実の食べ過ぎなんじゃねえのか?」
「あっ、そう言えばそうかも知れませんっ」
「「ハッハッハッハ」」
二人は早くも打ち解けた様だ。
早速三人はキッチンに移動すると、ユーゴは魔導コンロでじっくりと豆を炒っていく。炒りが足りないと生っぽいし、火加減を失敗すると焦げて苦くなってしまう。コーヒーの美味しさは焙煎の技術が一つの鍵となる。
ユーゴが父ジョージを誘ったのは、キッチンを借りる事もあるのだが、その絶対的な味覚に全幅の信頼を置いているからである。ジョージを納得させる事が出来ればこの実験は成功と言える。逆もまた然りだ。
ユーゴはコーヒーの抽出用に、綿にとても良く似た素材の生地をチョイスした。この世界では肌着としてよく使われる生地だ。ちなみに普段着ている様な冒険者用の服では目が粗すぎる。
これをコーヒーのフィルターとして使用する。十五分ほど丁寧に炒った豆を、今度はすり鉢の中でやはり丁寧に砕いていく。豆が持つ油分でペースト状にならない様に注意しながらある程度細かく砕いていく。
あらかじめお湯で温めておいたジョッキを一旦空にし、フィルターを被せる。ここに先ほどの砕いた豆を大匙六杯ほど入れる。
特に大切なのは抽出温度だ。お湯の温度は85度前後を目指す。どうやって調整するのかというと、一度沸騰したお湯を口の細いピッチャーに移すと少し温度が下がって丁度良い感じになる。
「それでは、抽出して行きます」
先ずはコーヒーの粉に少しだけお湯を染み込ませる。ジョッキの中にコーヒーがポタポタ垂れるか垂れないかくらいが丁度良い。この最初のお湯を1回目とカウントする。粉がお湯を吸ってハンバーグの様に膨らんでくるので、次に円を描く様に細くお湯を注ぎ足していく。これが2回目のお湯だ。
「凄く良い香りですねユーゴさん!」
ヴィクターが興奮している。
お湯が全て落ち切る前に、3回目のお湯を注いでいく。やはりこのお湯も落ち切る前に4回目のお湯を注いでいく。4回目はほとんど量と濃度の調整といっても良いくらいだ。
4回目のお湯が全て落ち切る前に、フィルターをジョッキから外して完成だ。
「で、出来ました」
ユーゴは出来上がったコーヒーを予め温めておいたハーブティー用のカップに三等分して注ぐ。
ここまで苦労して淹れたコーヒーではあったが、ユーゴの鑑定では〈普通〉品質となっていた。こういう時は勝手に発動する鑑定スキルが恨めしい。本来は先入観抜きで飲んでみるのがテイスティングの醍醐味なのだ。
全員が固唾を飲んだ。
「それでは試飲してみましょう」
各々が先ず香りを嗅ぐ。
「凄く複雑で濃厚な香りですね。柑橘の様でも有り、またベリーの果実の様でも有り、バンの実の種を炒っただけでこんな香りになるなんて信じられませんっ!」
続いて各々コーヒーを口に運ぶ。
「焦げているのかと思ったら実際それほど苦くは無いんだな、むしろ木の実の様な甘みや深いコクがある。更にさっき感じた香りと同じ様な味わいまで感じられる」
二人は初めてコーヒーを飲むとは思えないほど、的確なテイスティングコメントを出していく。やはりこの二人にお願いして正解だった様だ。
「更に鼻腔内にずっとコーヒーの余韻が漂いますね、これはもう奇跡の飲物と言っても過言ではありませんよっ!ユーゴさん」
「ああヴィクターの言う通りだユーゴ。コイツが完成した暁には世間がひっくり返るぞっ」
「うん、僕が思っていたのと大体同じものが再現出来たと思う。更にコーヒーを飲んだ後は頭の中が覚醒すると思うんだ、奇跡の実を食べた時と同じ様な感覚だね。後はこれが量産出来るかどうかなんだけど……」
「ユ、ユーゴさん。先日お話しさせて頂いた通り、本当にその役目をこのヴィクターに任せて頂いて宜しいんでしょうか?」
「はい、僕はただ美味しいコーヒーが飲みたいだけですから。是非お願いします!」
「ありがとうございます。このヴィクターの命に代えても、絶対に成功させて見せますっっ!!」
ヴィクターは涙を流して喜んでいた。そしてこの日から数年後、ヴィクターはコーヒー豆の大規模生産工場を完成させるまでに至るのだが、それはまた別のお話。
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