第39話 雲の上の存在
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翌日も昨日に引き続き市内散策をする。あと一週間あっても足りないくらいただの街歩きが楽しくて仕方がない。前の世界で言えば、父譲治に連れて行って貰った花の都パリのウィンドウショッピング以来の楽しさだ。
ヴィクターのアテンドで食器屋から魔導具屋までくまなく回る事が出来た。ネグロンの町に帰ってから作ってみたい物がどんどん増えていく。
その日の夕方にバギーの鍛冶屋に行ってみると、約束通りの魔剣が出来上がっていた。ハインは鍛冶屋に興味が無いのか先に宿に戻っているそうだ。
「おう、よく来たな。例の物出来上がってるぞ、先ずは戦士の姉ちゃんの剣だ」
「アイラだよっ!」
「おう、そうだったなすまんすまん。それでだ、お前の剣には〈斬れ味〉と〈剛力〉の効果を付与しといたぞ。全部で金貨30枚になっちまったが構わねえか?」
バギーは断りもなく勝手にエンチャントの重ね掛けをしていた。特に悪びれた様子もないのだが、アイラも似たような人種であった。
「えーっ、二つもエンチャントが付いてるの?やったーっ!」
「そう言うと思ったぜ!そしてこっちが小僧の剣だ」
ユーゴが受け取った瞬間、勝手に鑑定スキルが発動する。見た目の違いはややスリムになったくらいだろうか。手に持った感じでは重さが三割程度減っている。更に品質が〈最高品質〉まで上がっており、おまけにこちらも〈斬れ味〉に加えて〈貫通〉のダブル・エンチャントだった。
「あのー、めちゃくちゃハイスペックになってるんですけど!?〈最高品質〉だしエンチャントもう一つ増えてるしっ!」
「ほう、持っただけで分かるか?お前の体格に合わせてやや絞っといた。〈貫通〉は万が一斬れねえぐれえ硬い相手と出くわした時に、よくぶっ刺さる様にと思ってな。あ、悪いんだけどこっちも金貨10枚な」
もうバギーのやりたい放題であった。更にアイラは革鎧もリザード調の物に新調し、着込み用のスケイルメイルまで買った為、稼いだ金貨40枚を全て使い果たしたのであった。
「そう言えばお前ら〈コリー〉には会ったのか?明日帰るんだろ。」
「コリーさんですか?いえ、存じ上げないですけど」
「ジョージの野郎から何も聞いてねえのか?コリーは冒険者ギルド本部のマスターで、かつてのジョージの師匠だぞ。ジョージが駆け出しの頃にはもう現役を退いていたが、この国で唯一人と言われている元Sランク冒険者だ。ジョージの弟子だっつったら喜ぶぜきっと」
「なんと、ジョージさんがあの《エイダ・コールマン》のお弟子さんだったとは!どおりでお二人が規格外な訳です」
ヴィクターが一人で納得していた。ともかく明日の朝には帰らなくてはならないので、今からでもギルド本部に行ってみなくては。
ーーーーーーーーーーーーーーー
バギーにお礼を述べたユーゴらは、ヴィクターにコリーの話を聞きながらギルド本部へと向かう。なんでもエイダ・コールマンは女性で絶世の美女だと言う噂なのである。
ジョージの師匠だからかなりの高齢の筈であるが、実際に会った事がある者は少ないらしく、噂が一人歩きしている感は否めない。
そうこうしているうちにギルド本部に到着した。
「おや、ユーゴさん今日はどうされました?」
「実は僕の父が本部のギルドマスターの弟子らしくて、明日帰るのでご挨拶だけでもしておきたいなと思いまして」
「そうだったんですか。お二人ともジョージさんのお弟子さんですもんね。うちのマスターは余り人に会わないんですが、今日は珍しく奥に居るので伝えて来ます、少しお待ちを」
職員の男フーダックはそうユーゴらに伝えると奥に一旦引っ込む。しばらくするとフーダックの後から一人の女性が現れた。滅多に姿を見せないギルド本部のマスターの登場とあって辺りがざわつきだした。
「ジョージの弟子ってのはどいつだい?」
そこに現れた女性はユーゴの想像とは大きく異なり、アイラに勝るとも劣らない女性らしく引き締まった体躯で、ハインともまた違うワイルドな印象の美人ダークエルフ。
それが伝説の元Sランク冒険者〈エイダ・コールマン〉の第一印象であった。
「父がお世話になっておりますっ!息子のユーゴ・エジリです」
「ジョージさんの弟子のアイラ・バーレイでーす」
「エイダ・コールマンだ、コリーで良いよ。さて、ジョージの教え子ならやることは一つだ。奥の修練場でちょっと腕を見てやろう」
やはりジョージの師匠も又、バトルジャンキーなのであった。案内されるがままにコリーの後に付いていく。流石に本部だけあって修練場もかなり広い。
「実は父ではなくて鍛冶師のバギーさんから教えて貰ったんです」
「そうだろうさ、ジョージはそういうところ一つも気が利かないからね。バギーの奴も相変わらず良い仕事をするじゃないか。よし、その剣でかかって来な」
「えっ、この剣めちゃくちゃ斬れ味良いですよ?」
「呆れたね、私に当てられる気でいるのかい?そっちのアンタも同時で良いよ」
「えーっ、私も同時で良いんですか?まあそういう事なら遠慮なく」
今のアイラは王都に来る前よりも格段にレベルアップしている。ユーゴもそれに劣るとは言え、Dランク相当の賞金首を一撃で仕留める程の腕前だ。
そんな二人を同時に相手取る、しかも魔剣による真剣勝負だ。恐らくジョージでもかなり手こずるのではないか?ユーゴはそう考えていた。
コリーは二人の間に無手で立つと、いつでもどうぞと言わんばかりだ。
「遠慮は無用だよ、かかって来な」
二人は目配せをすると同時に斬りかかる。毎日のように稽古をしているだけあって、打ち合わせは無くとも互いの剣筋は身体が覚えているのだ。だがしかし覚醒したアイラの剣速は想像を遥かに超えており、ユーゴはワンテンポ遅れてしまう。
その一瞬の隙を見逃さなかったコリーはアイラの高速の剣を上体だけで躱すと、その襟首を掴んでユーゴの方に片手で軽々と投げ飛ばす。まるでドッジボールの様なスピードで飛んで来るアイラを、ユーゴは屈んで躱すと短距離走のスタートの様な姿勢でコリーに突っ込む。
躱したユーゴも素晴らしいが、コリーとってはそれも想定内。ユーゴはクラウチングスタートの姿勢のまま固まっていた。コリーの足裏で顔面を押さえつけられたままのユーゴの背後から、壁に激突したアイラの爆音が遅れてやって来た。
「ま、参りました……」
二人は全く何もさせて貰えなかった。父ジョージも大概化け物だと思ったが上には上がいた。元Sランク冒険者だと言う噂は本当だった。
「そっちのアンタ大丈夫かい?」
「う、うん。何とか生きてまーす」
「頑丈で何よりだ、なかなか良かったよ」
「あのー」
コリーの足の裏からユーゴが申し訳なさそうに声を掛ける。
「なんだい坊主まだそこに居たのかい?なんだかジョージの顔を踏ん付けてるみたいで、昔を思い出したよ。アッハッハ」
エイダ・コールマンはドSだった。
「まあ、大体分かったよ。ちょっと連携が悪かったね、理由は何となく想像が付くけど。それよりもアンタ達の冒険者カードをちょっと寄越しな。
なになにDランクとEランク?ネグロン支部の職員もボンクラだね。あたしの権限でそれぞれ1ランクずつアップしときな。全くギルドにとって損失だよ」
コリーはそう云うと、冒険者カードをフーダックに投げて寄越したのだった。
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