第27話 生命のやりとり
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その後一行は予定通り二日目の夜を宿場町で過ごし、三日目、四日目の夜は初日と同じく野営をした。
ここまでは拍子抜けするほど順調な行程であったが、ここから王都までが実は最大の難所であった。
途中に通称〈追い剥ぎ峠〉と呼ばれる丘陵地帯があり、商人にとっては出来れば避けて通りたい盗賊のメッカがある。しかしここを迂回すると、王都まで余計に二日半もかかってしまう為、殆どの商人は護衛を雇う選択をする。
「皆さんここからは特に注意して下さい!万が一盗賊に狙われたら、逃げ場が有りませんので」
ヴィクターが緊張した面持ちでそう告げる。
追い剥ぎ峠は緩やかなアップダウンの一本道で左右に逃げ場が無い、そのため盗賊達は当然その地形を理解して襲撃してくるのだ。
アイラは最大限に警戒をしつつ、頭の中で対策を練っていた。
(私がもし盗賊だったら、まずは足止めをするでしょ?その後左右から襲ってくるとして……飛び道具を持ってると厄介だな)
アイラがそんな事を考えていると、僅かにだが誰かが遠くで争っている様な音が聞こえてきた。
「ヴィクター!多分この先あと五分くらいのポイントで戦闘が起きてるよー」
「えっ、何も見えませんけど本当ですか!?」
「うん、かすかにだけど剣を打ち合う音と怒声が聞こえるから間違いないと思う。多分十人くらい」
峠の街道は馬車二台が余裕を持ってすれ違えるくらいには広い。無視して全速力で突っ切れば恐らく被害は最小限で済むであろう。
「では、そのまま横を突っ切りましょう」
「えっ、助けたりしないの?」
「基本スルーが我々商人の常識です。足留めされない限りは無視して下さい!」
「うーん、依頼主の要望じゃしょうがないよね」
しばらくするとアイラの言った通り、前方では二台の馬車が横転し辺りで戦闘が繰り広げられていた。どうやら盗賊に襲われている様だ。
「盗賊が優勢みたいだね」
その時、ヴィクターはある事に気づいた。
「あの幌馬車の屋根の青い斜め十字は……トマス商会!?」
王都でも一二を争う老舗、トマス商会の商会旗は青地に白の斜め十字。スリッパーで一財を築いたと言われており、よく見ると十字はスリッパーがクロスしている様にも見える。
もしこのまま素通りして万が一彼らが助かった場合、今後の商売に少なからず悪い影響が出るかもしれない。仮に加勢して助けた場合、トマス商会に大きな恩を売ることが出来る。よく見れば商人側が劣勢とは言え、盗賊側が攻めあぐねている様にも見える。
ヴィクターは瞬時にして損得勘定をする。そしてその隣で同じ様な事を考えている人物がいた、ハインである。
「襲われているのは〈あの〉トマス商会。救出の謝礼に金貨50枚は堅いわね……」
心の声がダダ漏れであった。
そして隣にいたヴィクターとハインの目が合う。
「「助けましょう」」
「アイラ、ユーゴ君!加勢するわよっ」
ハインが二人に声を掛ける。
「そうこなくっちゃ〜」
「りょ、了解ですっ!」
「アイラ、飛び込む前に必ず確認して頂戴!助太刀がいるかどうか」
後から助けなど求めてないと言われたら、元の木阿弥である。こんな時でも抜け目の無いハイン。
「オッケー! おーーーい、助太刀はいるかあーーーっ!!」
つば競り合いをしていた護衛の冒険者らしき男がアイラに気が付く。
「頼むっ、盗賊だっ!」
「よしっ、頼まれたーーーっ!」
アイラはそう答えると、馬車から飛び降りざまに一閃、返事をくれた男の相手を一刀のもとに斬り捨てた。既に何人かは護衛が倒していた様で、残る盗賊は七人。
それに続いてユーゴも馬車から飛び降りると、形勢はもはや一気に逆転した。数の不利さえ無ければ盗賊に遅れをとるような護衛達では無い。
アイラとユーゴの加勢により持ち直した護衛達は、直ぐさま攻勢に出る。盗賊は分が悪いとみるや否やすぐに敗走を始めるが、こちらもそれを許すほど甘くは無い。
結果、商人側が十人もの盗賊を返り討ちにし、終わってみればほぼ完勝であった。
ただ一人、ユーゴが討ち漏らしてしまった盗賊頭を除いて。
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「この度はなんとお礼を申し上げて良いか分かりません」
襲われていたのはやはりトマス商会の馬車だった。商会の恰幅の良い男が深々と頭を下げる。馬車から投げ出された為服こそ汚れてはいたが、刀傷などは一切無かった。優秀な護衛達である、恐らく専属で雇われている冒険者なのであろう。
護衛の冒険者達五名にはかなり失血していた者や、矢で毒を受けた者もいたが、ハインのポーションのお陰で全員事なきを得た。もちろん後で請求が行く。
「同じ商人として当然の事をしたまでです」
何も活躍していないヴィクターがそう答えた。
「後で王都の商会本店まで足を運んで頂いても宜しいでしょうか、是非この度のお礼をさせて戴きたい。お名前を伺っても?」
「旅の商人ヴィクター・バージェスと申します」
「ハイン・リモージュよ、一応ヴィクターさんの護衛の途中ではあったけれど、私達の事も以後お見知り置きを」
同じくほぼ何もしていないハインも、しっかりとアピールは忘れない。
「勿論ですとも、ヴィクターさんにハインさんですね。今は……こんな物しか手持ちがありませんが、お二人にはこちらを渡しておきます」
それはトマス商会の斜め十字があしらわれた大金貨であった。今日の口約束の手形代わりなのだろうが、仮に持ち逃げしても金貨10枚以上の価値がある事から、その男の誠意のほどが伺えた。
幸運にも転倒したトマス商会の馬車の内一台は無事であった。もう一台は車軸が壊れてしまっていた為、ヴィクターの提案で残りの荷をこちらの馬車で引き受ける事にした。帰り道の荷が少なかった事が幸いした。そして一行は再び王都に向けて出発するのだった。
当然定員オーバーになる為、アイラとユーゴは例によって馬車の横を並走した。
「ユーゴ、気分は大丈夫?」
声を掛けたのはアイラの気遣いだ。盗賊頭を討ち漏らしたのは明らかにユーゴのミスだ。実力では勝っていたものの、若さ故の経験不足を逆手に取られた。怯えた目をした相手にとどめを刺すのを躊躇したユーゴは、隙を突かれて逃げられたのだった。アイラに言わせれば、その怯えすらも演技の可能性があった。
「取り逃がしちゃってすいません。やっぱり悪党でも同じ命なんだなって思ったら…」
「まあ、少しずつ慣れていけば良いさ。でも取り逃した事で次に奪われる誰かの命もあるって事を忘れないでね」
「はい…肝に命じておきます!」
アイラはそれ以上は何も言わなかった。しかしこのユーゴの甘さが、後々アイラの運命を大きく変えてしまう事になるのだが、二人はまだ知る由も無かった。
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