第26話 初のカクテル
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ヴィクターの手配で二頭立ての幌馬車一台を借りたユーゴ達一行は、予定通り朝から王都に向けて出発した。順調に行けば片道五日ほどの道のりである。
途中の宿場町で一泊はするものの、残り三泊は野営をする手はずになっている。アイラとユーゴにとっては初の遠征だ。
御者台には御者の男と周囲の警戒にアイラ、荷台にはヴィクターとハインが乗り込む。
一方ユーゴはというと……馬車の横を並走していた。
御者とヴィクターは驚きのあまり固まっていたが、パーティメンバーの二人はもはや慣れたものである。
「ところでユーゴ君、お仕事の方はお休み大丈夫だったの?」
「は、はい。父さんもバーバラさんも行ってこいって。昨日からガストンさんと言う方も手伝いに来てくれる事になったので何とかっ!」
ユーゴは走りながらそう答えた。
「ハインの方こそ、お店は大丈夫なの?」
ユーゴに代わってアイラが尋ねた。
「ええ、〈カフェ〉が出来てからアルバイトの娘を雇ったから大丈夫よ。ユーゴ君のおかげでポーションの在庫も十分置いてこれたしね」
ちなみにカフェとはユーゴの命名だ。
「ふーん流石はハインね。ところでユーゴ〜、途中で私にも代わってよねっ!座ってばっかじゃ身体がなまっちゃうからさー」
「勿論ですっ!」
アイラもやはりジョージの弟子であった。
ハインの提案で、見晴らしの良い場所ではユーゴが御者台に乗り、アイラが並走する事にした。一方、見晴らしの悪い場所では探知能力の高いアイラが御者台に戻り、再びユーゴが並走を続けた。
交代の際は立ち止まることなく、片方が飛び降り片方が飛び乗るといった感じでスムースにポジションを替える。尚且つ今回は荷も少なかった為、馬も疲労せずに予定よりも良いペースで進んで行くのであった。
半分トレーニングをしながらというとんでもない護衛ではあったが、旅の前半は比較的安全なエリアであり、しかも二人が一向にバテる様子がなかった為、ヴィクターも苦笑いで了承してくれた。
かくして一行は無事何事もなく、初日の野営ポイントまで予定を大幅に短縮して到着した。二人はまだまだ行けたのだが、ハインに止められる。焦って必要以上に先に進むのは護衛としては三流だ、何故ならこの先には野営出来るポイントがほぼ無く、安全が担保出来ない為だ。
日中は比較的暖かいとは言え、夜はやはりそこそこに冷え込む。夕食は干し肉などの携行食ではあったが、焚き火を囲み暖を取りながらの食事はやはりひと味違う気がする。
実はこの初めての野営で、ユーゴはちょっとしたホットカクテルを作りたいと思っていた。
実家の厨房やハインの店で色々な食材、薬草を片っ端から鑑定している内に、このカクテルならば今手に入る材料で作れる!と、閃いた為だ。
この世界で初めてお客さんの為に作るカクテルだ。
【ホットカクテルのレシピ】ーーーーーーー
安い赤ワイン 約500ml
ダイダイの実ジュース(オレンジの代用)約250ml
蜂蜜 約30ml
ドワーフネイル(丁子の代用)4粒
カッシアの根(シナモンの代用)1本
まず〈ダイダイの実〉を鍋に4個絞ってジュースにする。続いてその倍量の安い赤ワインを加えて、蜂蜜で少しだけ甘味を整える。釘の様な形のスパイス〈ドワーフネイル〉とニッキの様な香りの木の根〈カッシアの根〉を少々加えたら、鍋を沸かして温まったら完成だ。
ユーゴとアイラは交代で見張りだが、カクテル一杯で酔うほど冒険者はやわではない。せっかくの機会なので全員にホットカクテルを振る舞う事にした。
すると先ず食いしん坊のアイラが食いついてきた。
「へー良い香り〜、ユーゴが作った温かいお酒?変わってるけど美味しそうだね!いただきまーす」
アイラは熱いのか、フウフウしながら恐る恐る口に運んだ。
「何これっ、ホントにお酒?ほんのり甘酸っぱくて美味しいっ!」
それに釣られたのか、各自ホットカクテルを口にしていく。
「しかもワインをそのまま飲むより、あっさりしていて飲みやすいわ。カッシアの根にはこんな使い方があったのね」
ハインからも予想外に高評価だ。もちろんスパイス類がユーゴの私物なのは言うまでもない。
「ホントですね、スパイシーな香りで身体の芯から温まりますよ。こんな美味しいお酒は王都にも無いです!ユーゴさん、何処でこれを?」
各地を旅する商人のヴィクターも、はじめて飲む味に興奮を隠せない様子だ。
「あ、これは僕のオリジナルです。ちょっと試しに作ってみたかったんですけど、思いのほか好評でしたね!」
(可愛いのに男勝りのアイラさん。美人なのに鬼の様にがめついハインさん。お二人にも驚いたけど、ユーゴさんには驚かされっぱなしだ。私の商人としての勘が正しければ、彼らとはこの機会にぜひ仲良くなっておかなくては……)
ヴィクターはそんな事を考えていた。
夜の見張りも護衛任務の内という事で、体力馬鹿のアイラとユーゴの二人が交代で担当する事になった。初の遠征でやる気MAXの二人に任せて、ハインはとっとと寝る事にした。
お陰でヴィクターも気兼ねなく朝までぐっすりと眠る事が出来たのだが、翌朝起きて愕然とするのだった。
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「な、何ですかこの有り様は!?」
「あっ、これ?昨晩遅くに魔狼の群れが馬を襲ってきてさー、今魔石を取ってるとこ」
アイラは六匹ほど地面に転がる、魔狼らしき死骸の胸の辺りをほじくりながらそう答えた。そして先ほど起きてきたユーゴの方に、その魔石を放り始めた。
「ユーゴ、後宜しくね〜」
「はい、ウォーターボールっ!」
ユーゴがそう唱えると、宙に水の球が突如出現し、そこに血で汚れた魔石が次々と放り込まれていく。やがて真っ赤に染まった水球が出来上がった。
ユーゴは更にもう一つ水球を作り出すと、今度は魔石を綺麗に濯いで次々に革袋に仕舞っていった。
「ユ、ユーゴさんそれは水魔法ですか!?」
「はいっ、水を持ってくるよりこっちのが便利なので」
アイラは綺麗な方の水球で手とナイフの血を洗うと、大きな欠伸をした。
「ふわぁ〜お陰で寝不足だよー、時間が掛かるから他の素材は置いてこっか」
「勿体無いけどそうしましょう、他の獣が寄って来るので埋めておきますね」
ユーゴはそう言うと、魔狼が一匹ずつ入るくらいの穴を地面に土魔法で次々と空けていく。それをテンポ良くアイラが放り込み、ユーゴがそれを再び埋め戻す。
締めに、ハインがポーションを一本ずつ二人に投げてよこすと、ユーゴとアイラはスポーツドリンクの様にそれを飲み干した。もちろんポーション代は原価ではあるが、それぞれの取り分からキッチリと引かれている。
もはやヴィクターには意味不明の三人の連携プレーでなのであった。
「よーし、じゃあ出発しよっか!」
「は、ははは。私はまだ寝ぼけているの……か?」
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