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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第二章
25/102

第25話 旅の商人ヴィクター

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。

「それじゃあヴィクターさん、出発は明後日の朝六時と言う事で宜しいかしら?」


「はいっ、皆さん宜しくお願いします!」


若い旅の商人 《ヴィクター・バージェス》は、ハイン達三名に若干引きつった笑顔でそう答えた。


実はハイン、アイラ、ユーゴの三名はひょんな事から王都まで帰る旅の商人の護衛を引き受ける事になったのだ。


話を少し前の時間に戻そう。


ーーーーーーーーーーーーーーー


アイラの騒動から一週間。ユーゴはハインがうっかり漏らした王都の薬師ギルドの話を聞いてから、一度王都に行ってみたいと思う様になっていた。きっと、まだ見ぬ酒やコーヒーが都会ならばあるかも知れないからだ。


一方でアイラは、まだまだDランクではあったが、メキメキと力を付けて来た為、近頃ネグロンの町周辺の日帰りクエストに少し物足りなさを感じていた。やはり遠征がしたいなと。


そしてハインは例のハイポーションの一件があった日から、あるタイミングを伺っていた。ポーション売買価格が地方より高い王都で、ユーゴ作の高品質ハイポーションでひと山当ててやろうと企んでいたのだった。


三者三様それぞれの思惑がどう絡み合ったのか、事件は突然起こった。


ある日、いつもの様にアイラはクエスト受注の為に朝早くからギルドに来ていた。多くのクエストは朝イチに張り出される為、午前中は冒険者でごった返す。


アイラが貼り出されたとある護衛のクエストに気付き、依頼書に手を伸ばそうとした瞬間、急に横からそれはかっ拐われる。


「おーーっとー、こいつはオメエらにはまだ早いぜっ!よく読め、Dランク以上のパーティって書いてあるだろうが。Dランク2人と、おしめの取れてねえルーキーには荷が重いってもんよ、ガーハッハッハッ」


依頼書を横取りしたのは万年Dランクのベテラン冒険者パーティだった。リーダーのガストンは実質Cランクだと言われているが、ギルドの強制クエストに参加するのを避ける為、下位ランクに留まっているという噂だ。


関わるのも面倒だなと思ったアイラは『ちぇっ』と小さく発するとその場を立ち去ろうとした。


「おいちょっと待て、今舌打ちしたよな?せっかく俺様が忠告をしてやったのになんだその態度は」


「いやあー、そんなに喉から手が出るほど欲しかったんだね〜って思ってさ、アハハ」


「てめえ、舐めた口利きやがって」


辺りに緊張が走った。


ギルド内での揉め事はご法度である。場合によってはライセンスの剥奪まであるので、よほどの事がない限り喧嘩までは中々発展しない。


この時、アイラも気付いて無かったのだが、テーブル席でこの揉め事を密かに眺めている一人の若い男がいた。彼こそがこのクエストの依頼主ヴィクター・バージェスであった。


ヴィクターは王都から品物を売りに来た商人で、こちらで仕入れる商品にたいした物が無かった為、帰りの護衛代をケチろうと考えた。そこで本来Cランクに頼むべき案件を、Dランクの依頼料で発注をかけたのだ。


しかし彼は少し変わった男だった。どんな冒険者が受注をするのだろう?と、飲みながら様子を見て楽しんでいたのだ。


(あの女の子もDランクみたいだけど、あんなゴツい奴ら相手じゃ分が悪いだろ。何も挑発しなくたって……)


ヴィクターは興味津々だった。


「ガストンやべえよ、この女こう見えてあの〈蒼天〉のジョージの弟子らしいぞ」


「それがまた気に入らねえんだよっ!元上級だろうが今は引退したただのおっさんだろうがっ、昔の顔でデケえ面しやがって」


実際ジョージが偉そうに振る舞っている事は無いのだが、おっさんのくせにイケメンでリア充な為、町中の多くのモテない男達から疎まれていた……


「ちょっとアンタっ!私は良いけどジョージさんの悪口だけは聞き捨てならないよ」


「ほう、じゃあどうしようってんだ?ここじゃあ喧嘩は御法度だからな〜。お、そうだ奥に修練場があるだろ、そこで自慢の師匠に習った剣で決着をつけるってのはどうだ?」


「ああ良いよ、後悔させてやるっ」


「おお〜勇ましい事で。じゃ、決まりだ」


(小娘がっ、後悔するのはオマエの方だぜ)


ーーーーーーーーーーーーーーー


まんまとガストンの挑発に乗り、アイラは修練場で勝負をする事になった。


勝負は刃を潰した模擬剣による一本勝負。先に相手の戦意を喪失させるか、戦闘続行不能となった時点で勝敗が決する。立ち合いはギルドの職員にお願いする事にした。


「降参した相手に追い討ちをかけたり、万が一殺してしまった場合は重大なペナルティがあるからそのつもりで!」


「「了解!」」


二人は互いに一定の距離をとってそれぞれ構える。


「ちょっと待った!ただ戦うだけってのも芸がねえ。姉ちゃん俺と賭けをしねえか?」


「良いけど、アンタは何を賭ける?」


「そうだな。万が一俺が負けたら、今すぐ引退してオメエの師匠の所で一生下働きをしてやるよ」


「もし私が負けたら?」


ガストンは下卑た笑みを浮かべた。


「それはつまり実力不足って事だろ?仕方ねえからお前と連れの女エルフ、二人ともうちのパーティで面倒みてやる。ルーキーの兄ちゃんはそうだなあ、親父の下で一生下働きでもしてたら良いだろう!ガッハッハッ」


「ふーん良いわよ」


ガストンは始めから、護衛のクエストでは無くアイラとハインに目をつけていた。むさい男ばかりのパーティで女性との接点がない為、強引な手段に打って出たのであった。


「まあ嫌がるのも無理は……んっ、今何つった?」


「別に良いわよって言ったんだけど?」


「お、おう、良い度胸だ。後悔するなよっ!」


「それでは始めっ!」


ギルド職員のかけ声で勝負は始まった。


先に仕掛けたのはガストン。Cランク相当と言われる剣の腕は伊達ではない。一瞬で距離を詰めると右下から斜め上に剣を振り上げる。しかしコレは囮であった、ガストンはワザと剣を開き気味に握り、地面の土埃を爆散させる。


恐らくアイラはコレを避けるであろう、ガストンはそこまで予想していた。ただし回避出来る場所は限られている。相手が並以下の腕なら正面奥、想像以上の腕なら自分の右手に現れる筈だ。


ガストンはアイラの気配が右に動いたと見るや、そのまま左に身体を反転させて両手で横薙ぎに斬り付けようと勢いを付ける。と、同時だった。


「ぐはあっっ」


ガストンの左脇腹に衝撃が走った。振り向くと同時にアイラに思いっきり横蹴りを喰らったのだ。ガストンはそのまま壁まで吹き飛ばされ、もはや再び立つ事は叶わなかった。


「見え見えだっつーの」


アイラは剣を使わずして勝利した。ジョージの凄さが分からない程度の相手に、剣すら使いたく無かったのだ。


「勝者、アイラ・バーレイっ!」


かくしてジョージの知らない所で、勝手に下働きの新規採用がなされたのだった、しかも格安で。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ヴィクターは目を輝かせていた。大方の予想を覆してCランクと目される先輩冒険者を、Dランクのそれも可愛いらしい女性冒険者が圧倒して見せたのだ。


(このチャンスを逃す手は無いっ、Dランクの依頼料でCランクの実力者、しかもお連れさんがエルフなんて!)


ヴィクターは早速自分の素性を明らかにし、是非このクエストを受けて欲しいと懇願した。


アイラとしては是非依頼を受けたい所だったが、一人では決められないという事で、パーティメンバーであるハインの店まで同行してもらう事にした。


細かい契約などはいつもハインに任せっきりという事もあるが、そもそもパーティとして受注する了承を取っていなかった為だ。この日はたまたまユーゴも手伝いに来ておりパーティメンバーの意見は直ぐにまとまったのだが……


「ヴィクターさん、命はお金には代えられなくてよ?」


ヴィクターはこのパーティにエルフがいるのは知っていたが、ハインの性格までは想像していなかった。


その後しばらく二人の間で依頼料に関しての激しいバトルが繰り広げられる事になる。そして遂に一時間半に渡る交渉の軍杯は、ハインに上がった。


恐らく交渉スキルを持っているであろう商人に交渉事で勝るとは、恐るべきはハインの金への執着心である。そして完全にバトルの蚊帳の外にいたアイラとユーゴは、なぜか二人共遠い目をしていたのであった。


ご愛読ありがとうございます。 よければブクマ、

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