第23話 とある女給仕
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それから数日が過ぎたある日の晩。ジョージは仕事上がりにいつものように酒を飲んでいたが、その日は珍しく大きくひとつだけ息を漏らした。
「ふぅーー」
ショットで酒を一息にあおる。
「……幸せが逃げるわよ」
その時、突然背後から声を掛けられた。
「バーバラか」
「珍しいわね、考え事?」
「良く判るな」
「あなたがそいつを飲んでる時は、決まって何かがあった時」
「はは、違いねえ」
この日のジョージが飲んでいたのはエールではなく、秘蔵の蒸留酒だ。
「付き合うわよ」
「敵わねえな」
ジョージは空になったショットグラスに酒を注ぐ。
「アイラの事でしょ?」
「やっぱお見通しか」
「明るさだけが取り柄の子だからね」
「どうしたもんかなあー」
「可愛い弟子だからね」
バーバラはショットグラスを一口に飲み干すと、ジョージの肩を軽く叩いて立ち去りぎわに一言。
「もっと頼って良いわよ」
「ああ、助かる」
ジョージは少しだけ気持ちが軽くなった気がした。彼女の言った〈頼る〉がどう意味かは分からなかったが、バーバラには全幅の信頼を置いている。悪いようにはなるまい。
自分は自分のやるべき事をやろう、ジョージはそう思った。
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この日、アイラは完全にオフだった。飛空亭では今日も特訓があったのだが、体調が優れないからと欠席。数ヶ月ぶりに昼の剣術修行をサボり、アイラはハインの店のオープンテラスで佇んでいた。いつものスコーンのセットを頼んではいるが余り進んでる様子はない。
アイラは思い悩んでいた、ユーゴの事だ。あれだけ可愛がっていた弟分が成長しているのは正直嬉しい。むしろ許せなかったのはそれを手放しで祝福してあげられない、自分自身の弱さだった。
「私、何やってんだろ……冒険者辞めちゃおっかな」
ハインはアイラが思い悩んでいるのを知っていたが、独りになりたいと言われそっとしておいた。
しかしそうは言っても同じパーティの仲間だ、今日の彼女の様子はとても見ていられる物ではない。やはり声を掛けなくちゃ、そう思った矢先だった。
アイラの横には、白金ボブヘアーを無造作に整えた、どこか雰囲気のある給仕服の女性が立っていた。バーバラである。
(いつの間に?あの人は確か飛空亭のスタッフ……)
ハインは声を掛けるタイミングを失ったまま、二人の様子を店内から見守る事にした。
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「ここ空いてるかい?」
「バ、バーバラさんっ!どうして此処へ」
「評判の良いカフェが出来たって聞いてね、ちょっと寄ってみたら知ってる顔が居たって訳」
「そうなんですね、ど、どうぞっ」
アイラは人見知りをしない性格ではあるが、仕事に厳しい先輩バーバラには尊敬もあり、やはり敬語になってしまう。もっとも仕事中の私語もほとんど交わさないので、業務以外の話をした事はほぼ無かった。
「最近珍しく元気が無いじゃない?」
「そう見えますか?」
「アンタは明るさだけが取り柄だからね、そんな曇り顔じゃチップも稼げないよ」
「はぁ、すいません……」
「大方ユーゴの事だろう?」
「えっ、何でバーバラさんが?」
「可愛い弟分に剣術で追い抜かれそうになって焦っている、違うかい?」
図星だった。しかし職場の先輩とは言え、冒険者でもないバーバラにそんな事を言われる筋合いは無かった。
「お、お言葉ですがバーバラさんには関係無いと思いますっ!」
「おー怖っ。素人に何が分かる!って感じだねえ」
「失礼ですが、おっしゃる通りです」
「アンタは確か……戦士だったね、さぞかし鍛えてるんだろうけどちょっと勝負しようか?」
「……本気ですか?今の私は手加減出来ませんよっ!」
アイラは完全に頭に来ていた。仕事の事ならまだしも、生き死にを掛けて戦う戦士に言って良い冗談では無い。
「まさか私も死にたく無いからね、腕相撲なんてどう?」
馬鹿馬鹿しい。アイラは今すぐ席を立ちたかった。酒場は重労働だとはいえ女給仕の腕っぷしなどたかが知れている。アイラは単純な腕相撲ならユーゴにも負けないのだ。
「折角だから何か賭けましょ、アンタが勝ったら私のその日のチップを半分あげるわ。どう?」
それで少しでも仕事にやる気を出させようと言うのか?馬鹿にしている。同情など要らない、冒険者を辞める時は飛空亭も辞める、それがアイラのケジメだった。
「良いですよ」
「仮に私が買ったらどうする?」
「何でも言う事聞いてあげますよ、あり得ないけど」
「オッケー」
バーバラは店内のハインに目配せした。
状況を観察していたハインは慌てて駆けつけると、食器を隣に下げた。空気を読むならばここは審判を買って出るべきだろう。
「それでは用意は良いですね?
レディー、
セット、
ゴーーーー!!」
バギイィィィィィィッッッッ!!!!!!
「ええええーーーっっっ!?」
勝負は一瞬だった、分厚い木のテーブルが真っ二つに割れ、床には茫然としたアイラが倒れていた。
「強さなんて人と比べるもんじゃ無いのさ、明日からまた普通に出勤しな」
バーバラはカップに残ったハーブティーを飲み干すと、去り際にハインに声を掛ける。
「ごめんなさい、請求は飛空亭のジョージまでお願いね。ぼったくって良いからさ」
飛空亭の女給仕はそう言って去って行ったのだった。
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「アイラ、あの人何者……?」
「分かんない。でも私の悩みなんて馬鹿らしくなっちゃった!あはははは」
ともあれアイラは元気を取り戻した。そして数日後、ジョージはハインからの高額請求書を見て目を丸くするのであった。
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