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錬金術師?いえ、バーテンダーです  作者: 比呂彦
第二章
23/102

第23話 とある女給仕

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。

それから数日が過ぎたある日の晩。ジョージは仕事上がりにいつものように酒を飲んでいたが、その日は珍しく大きくひとつだけ息を漏らした。


「ふぅーー」


ショットで酒を一息にあおる。


「……幸せが逃げるわよ」


その時、突然背後から声を掛けられた。


「バーバラか」


「珍しいわね、考え事?」


「良く判るな」


「あなたがそいつを飲んでる時は、決まって何かがあった時」


「はは、違いねえ」


この日のジョージが飲んでいたのはエールではなく、秘蔵の蒸留酒だ。


「付き合うわよ」


「敵わねえな」


ジョージは空になったショットグラスに酒を注ぐ。


「アイラの事でしょ?」


「やっぱお見通しか」


「明るさだけが取り柄の子だからね」


「どうしたもんかなあー」


「可愛い弟子だからね」


バーバラはショットグラスを一口に飲み干すと、ジョージの肩を軽く叩いて立ち去りぎわに一言。


「もっと頼って良いわよ」


「ああ、助かる」


ジョージは少しだけ気持ちが軽くなった気がした。彼女の言った〈頼る〉がどう意味かは分からなかったが、バーバラには全幅の信頼を置いている。悪いようにはなるまい。


自分は自分のやるべき事をやろう、ジョージはそう思った。


ーーーーーーーーーーーーーー


この日、アイラは完全にオフだった。飛空亭では今日も特訓があったのだが、体調が優れないからと欠席。数ヶ月ぶりに昼の剣術修行をサボり、アイラはハインの店のオープンテラスで佇んでいた。いつものスコーンのセットを頼んではいるが余り進んでる様子はない。


アイラは思い悩んでいた、ユーゴの事だ。あれだけ可愛がっていた弟分が成長しているのは正直嬉しい。むしろ許せなかったのはそれを手放しで祝福してあげられない、自分自身の弱さだった。


「私、何やってんだろ……冒険者辞めちゃおっかな」


ハインはアイラが思い悩んでいるのを知っていたが、独りになりたいと言われそっとしておいた。


しかしそうは言っても同じパーティの仲間だ、今日の彼女の様子はとても見ていられる物ではない。やはり声を掛けなくちゃ、そう思った矢先だった。


アイラの横には、白金ボブヘアーを無造作に整えた、どこか雰囲気のある給仕服の女性が立っていた。バーバラである。


(いつの間に?あの人は確か飛空亭のスタッフ……)


ハインは声を掛けるタイミングを失ったまま、二人の様子を店内から見守る事にした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「ここ空いてるかい?」


「バ、バーバラさんっ!どうして此処へ」


「評判の良いカフェが出来たって聞いてね、ちょっと寄ってみたら知ってる顔が居たって訳」


「そうなんですね、ど、どうぞっ」


アイラは人見知りをしない性格ではあるが、仕事に厳しい先輩バーバラには尊敬もあり、やはり敬語になってしまう。もっとも仕事中の私語もほとんど交わさないので、業務以外の話をした事はほぼ無かった。


「最近珍しく元気が無いじゃない?」


「そう見えますか?」


「アンタは明るさだけが取り柄だからね、そんな曇り顔じゃチップも稼げないよ」


「はぁ、すいません……」


「大方ユーゴの事だろう?」


「えっ、何でバーバラさんが?」


「可愛い弟分に剣術で追い抜かれそうになって焦っている、違うかい?」


図星だった。しかし職場の先輩とは言え、冒険者でもないバーバラにそんな事を言われる筋合いは無かった。


「お、お言葉ですがバーバラさんには関係無いと思いますっ!」


「おー怖っ。素人に何が分かる!って感じだねえ」


「失礼ですが、おっしゃる通りです」


「アンタは確か……戦士だったね、さぞかし鍛えてるんだろうけどちょっと勝負しようか?」


「……本気ですか?今の私は手加減出来ませんよっ!」


アイラは完全に頭に来ていた。仕事の事ならまだしも、生き死にを掛けて戦う戦士に言って良い冗談では無い。


「まさか私も死にたく無いからね、腕相撲なんてどう?」


馬鹿馬鹿しい。アイラは今すぐ席を立ちたかった。酒場は重労働だとはいえ女給仕の腕っぷしなどたかが知れている。アイラは単純な腕相撲ならユーゴにも負けないのだ。


「折角だから何か賭けましょ、アンタが勝ったら私のその日のチップを半分あげるわ。どう?」


それで少しでも仕事にやる気を出させようと言うのか?馬鹿にしている。同情など要らない、冒険者を辞める時は飛空亭も辞める、それがアイラのケジメだった。


「良いですよ」


「仮に私が買ったらどうする?」


「何でも言う事聞いてあげますよ、あり得ないけど」


「オッケー」


バーバラは店内のハインに目配せした。


状況を観察していたハインは慌てて駆けつけると、食器を隣に下げた。空気を読むならばここは審判を買って出るべきだろう。


「それでは用意は良いですね?


 レディー、


 セット、


 ゴーーーー!!」



バギイィィィィィィッッッッ!!!!!!



「ええええーーーっっっ!?」



勝負は一瞬だった、分厚い木のテーブルが真っ二つに割れ、床には茫然としたアイラが倒れていた。


「強さなんて人と比べるもんじゃ無いのさ、明日からまた普通に出勤しな」


バーバラはカップに残ったハーブティーを飲み干すと、去り際にハインに声を掛ける。


「ごめんなさい、請求は飛空亭のジョージまでお願いね。ぼったくって良いからさ」


飛空亭の女給仕はそう言って去って行ったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「アイラ、あの人何者……?」


「分かんない。でも私の悩みなんて馬鹿らしくなっちゃった!あはははは」


ともあれアイラは元気を取り戻した。そして数日後、ジョージはハインからの高額請求書を見て目を丸くするのであった。


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