第12話 喫茶店
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意外なことにアイラさんの連れてきてくれたお店は薬屋だった。カウンターの上に並べられた様々なスパイスや薬草。
瓶に入った大小様々な薬品と思わしき液体がその奥の棚に綺麗に陳列されている。まるでBARのバックバーの様でカッコ良い。
その横にアンティークな雰囲気の、今時のカフェの様な佇まいの喫茶スペースがあり、最近こちらも始めたらしい。
「元々の倉庫だったスペースを改装して最近オープンしたんだよね〜。昼間っからエールを飲むのもアレだし、今私のお気に入りなんだー」
まさかこの世界にカフェがあるとは思わなかった。もしかしたらコーヒーや紅茶もあるのかも知れないと思うと僕はワクワクしてきた。
「いらっしゃいませー、あらアイラじゃない?」
「へへ、また来ちゃったー」
どうやらアイラさんは既にこの店の常連らしい。
迎え入れてくれたその女性は柔らかい雰囲気のスレンダー美人。サラサラの長い金色の髪から少し尖った耳が見え隠れしている。この世界で初めて見る別種族〈エルフ〉だった。
「君は始めまして…だよね?そんなにエルフの耳が珍しいかな〜」
「ユーゴ〜、そんなに女の子をジロジロ見るもんじゃ無いよー」
「ごごごめんなさいっ!あんまり綺麗な方なんでつい見とれちゃって」
「ユーゴも言うね〜、やっぱジョージさんの息子ってだけあるよね」
「勘弁してくださいよ〜」
「……まあ、お世辞でも嬉しいわユーゴ君。私は《ハイン・リモージュ》よ、宜しくね。さあどうぞ入って」
「こちらこそ宜しくお願いしますっ!」
天気も良かったので僕らはオープンテラスの席に案内してもらった。
識字率が低いのか紙がまだ高級だからか、いずれにせよメニューというものは無いみたいだ。
他のテーブルをさりげなく見渡した感じ、どうやらコーヒーや紅茶はまだ一般的なものでは無いらしく、みんなハーブティーを飲んでいた。
「今日のおすすめは、カミツレ草と香水ハッカね」
(香水ハッカ?なんだかミントっぽい響きだぞ。モヒートの材料に使えるかも知れないな…)
「私はいつものカミツレ草とスコーンのセットで。ユーゴは?」
「じゃあ、僕にもスコーンと香水ハッカを下さい」
「かしこまりました。それならユーゴ君のもセットにしておくわね〜」
親切な店員さんだ。フレンドリーでありながら、あくまでもお客さんへの接客は丁寧。同じサービス業として勉強になる。
ほどなくしてスコーンとハーブティーのセットが運ばれてきた。スコーンにはクリームチーズみたいなものと、シロップ、ジャムが付いている。
「今日のセットは黒カエデの蜜とコケモモのジャムね。クロテットチーズと一緒に塗って食べると美味しいわよ」
「「美味しそ〜っ」」
「「いただきまーす」」
「貴方達なんだか兄弟みたいね 笑、ごゆっくりどうぞ」
これはなかなか本格的だ。ユーゴはまず香水ハッカのハーブティーの香りを嗅いでみる。
(お、嗅いだことのある香りだ。なんかリンゴっぽいしミントの様な香りがする。もしかして日本にもあるハーブかな?どれどれ)
一口飲んでみると、ほのかに甘くリンゴ系のフローラルな香りと、青いミント系のシトラス香が口いっぱいに広る。
その時であった、突然目の前にこの世界の文字で香りハッカの情報が表示されたのだ。
(え、えーーーっ!こ、これはこのハーブティーの鑑定!?
え、なんで?鑑定スキルなんて持ってないのに)
「どしたの?」
「い、いえ。あんまり美味しくて〜」
「良かった〜。スコーンも凄く美味しいんだよ〜」
もぐもぐ。
(やはり食いしん坊だな……と、鑑定の方は?)
【香りハッカ】(レモンバーム)品質:高品質ーー
ー入手難易度Fー
・風邪予防に良いとされ、ミント・シトラスの爽やかな香りでリラックス効果を持つ。
(やっぱり!飲んだことなかったけど、レモンバームだったか、本で読んだ特徴通りだし。という事はカミツレ草も…)
「あのー、アイラさんのカミツレ草もちょっとだけ味見して良いですか?」
「良いよ、全然。ユーゴの香りハッカもちょっと貰うからねー。あっ間接キッスだね、ウフフ」
「いやっ、あのっ、そのっ、反対側から飲みますっ!」
「冗談だよ〜アハハ、本当にユーゴはからかい甲斐があるよね〜」
「本当、勘弁して下さいよ〜」
(この人完全に楽しんでやってるよな……)
ユーゴは律儀にカップの反対側から口をつける。
香りは少しくぐもった感じのリンゴやパイナップルなどのフルーツ。お茶ほどではないほんのりとした渋みと苦みのアクセントがあって飲みやすい。
【カミツレ草】(カモミール)品質:普通ーー
ー入手難易度Fー
・風邪予防に良いとされ、腹痛を抑えて消化を助ける。リンゴの様な爽やかな香りで、リラックス効果を持つ。
(やっぱりカモミールだ!あれっ?品質がさっきと違って〈普通〉になってる。季節や採り方で変わってくるのかな?)
「カミツレ草も美味しいですね!大人の味です」
ユーゴもアイラに倣ってスコーンにクロテットチーズとコケモモのジャムを塗って頬張る。柔らかいクッキーみたいな感じで美味しい。少し口の中の水分が奪われるがまたそれも良い、ハーブティーを飲んで流し込むのだ。
黒カエデの蜜は蜂蜜よりもコクのある味わいで、クロテットチーズの酸味ととてもよく合う。あっという間に平らげてしまった。ただし、食事に関しては特に鑑定は働かなかった。
「良い食べっぷりだねえ、誘った甲斐があったよ!」
「気に入っていただいた様で良かったわ、こちらはお下げしますね」
会話を邪魔する事なく、またお客さんのストレスにならないスマートでさりげない配膳。勉強になる事ばかりだ。
「あ、そうだ。アイラにまた薬草採取のクエストに付き合って貰いたいんだけど、来週空いてる日ある?」
「いつでも大丈夫だよ。あっ、ユーゴには言ってなかったよね。アタシ達たまにパーティを組んで簡単なクエストをこなしてるんだ。と言ってもまだ二人だけのパーティだけどね 笑」
「そうね、女性二人だとロクでもない男しか寄ってこなくて困ってるのよ。そうだユーゴ君、私達のパーティに入る気はない?貴方みたいにしっかりした子なら大歓迎よ」
「それ良いね!誕生日が来るまでは正式な冒険者登録はできないけど、体験での参加は問題ないもんね」
「じゃあ決まりねっ!宜しく、ジョージの息子のユーゴ・エジリ君」
「アレっ、何で?えっ、本気ですかっ?」
「「何っ!嫌なの?」」
「い、いえ、喜んでーっ!」
あっさりと僕の冒険者デビュー(仮)が本人の意思と関係なく決まってしまったのだった。
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