第102話 二つの人生
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洗い物してる最中の愛咲との談笑で、すっかり昨夜エロい妄想をしていた罪悪感など忘れて、勇悟はどうしても気になった今朝のことを聞いてみた。
「今日出勤した時なんですけど、愛咲さんがやけによそよそしかったじゃ無いですか。僕何か不味い事しましたっけ…?」
愛咲にはバレてないはずだ、バレるはずがないのだ。
愛咲は何故か赤面する。
「ああ……アレね、覚えてた?うーん、あんまり言いたく無いなあ〜」
「えーっ、滅茶苦茶気になるじゃ無いですか。教えて下さいよーっ」
「でも、そう言う勇悟だって今朝は私の目を見ようとしなかったよね?」
「えーっ、そ、そうでしたっけ?気のせいじゃないですかねー」
迂闊であった、当然ブーメランが返ってくる。
「じゃあ今、私の目をじっと見れる?」
「えっ!?」
愛咲は勇悟の目をじーっと見つめた。そのプレッシャーに思わず勇悟は徐々に目が泳ぎ出す。
「ほらぁ、やっぱり目を逸らしたー。なんか私に対してやましい事ない?」
困った勇悟は嫌われる事も覚悟の上で正直に話す事にした。
「すいません……実は夢を見ました」
「えっ……ちなみにどんな夢か聞いても良い?」
「わ、笑わないで、あと怒らないで下さいねっ!」
「うん、笑わなし怒らない」
勇悟は異世界での冒険活劇をあたかも自分が経験してきたかのように饒舌に語り出した。物語の主役はユーゴとアイラだ。
異世界に転生してしまった勇悟がバーテンダーを目指して、少しずつ成長していくという荒唐無稽な話だ。そして話の中に愛咲そっくりなアイラという冒険者が登場するのだが、やがて二人は恋に落ちてゆく。
愛咲も勇悟の話がよほど面白いのか、食い入るような目で話を聞いていた。
「ーーーそしてユーゴは、最後は人知れず現代に再転生されたのでした……っていう夢のお話でした」
「おおーーっ」
パチパチパチパチ。
「随分壮大な夢だったねー、錬金術師とかって。あれっ?でもそれだったら私から目を背ける話じゃ無いよね。もしかして所々大事なところ端折ってない?例えば主人公のユーゴとアイラの濡れ場とか……」
「いえ、その……」
勇悟の顔は真っ赤である。
「やっぱり……正直言うとね、私も昨日変な夢を見たんだー。今の勇悟の話を聞いて完全に腑に落ちたんだけど、私が見たのはそのーなんて言うの、ユーゴとアイラの〈濡れ場〉?なんだと思う。
容姿も私達にそっくりだし、名前まで同じじゃ無い?私もなんだか恥ずかしくなっちゃって、今朝は勇悟の顔がまともに見れなかったの」
やはり愛咲の顔も真っ赤であった。
「で、でも二人で同じ夢を見るなんて事あり得ますかね?」
「うん、普通に考えたらそうだよね」
しかし愛咲もアレが普通の夢だとは思えなかった。愛咲は決して軽い女ではない。抜群の男好きするスタイルとその容姿からしょっちゅう男性に声をかけ掛けられるが、飲み食いと運動意外にあまり興味の無い愛咲は、実は男性経験がゼロである。
普段その手の事をほとんど考えない自分が、夢の中であんなエッチな絶技を思いつくのだろうか?
愛咲はまるで勇悟に全てを見られてしまった様な気がして再び赤面する。その時突然勇悟が口を開いた。
「愛咲さん、出会ってたった二日でこんな事を言う男を信用出来ないかも知れませんが……
あなたが好きです!自分でもよく分からないけど、昨日から胸の奥が苦しいんです、なんだかポッカリ穴が空いたような感じで」
愛咲はユーゴの突然の告白にビックリしたが、一切嫌な気持ちがしないどころかむしろ凄く嬉しかった。異性にこんな気持ちを抱いたのは生まれて初めてだった。
「嬉しいっ、ありがとう。でも不思議だね、私も勇悟とは初めて会った気がしないんだ。
ねえ知ってる?イブはアダムの肋骨から神さまが作ったんだって。勇悟の胸にポッカリ空いた穴って私が埋めること……出来るのかな?」
「えっ、そ、それって……!?」
愛咲はそっと勇悟の唇を奪った。その瞬間二人の魂が共鳴し合う。勇悟の胸にポッカリ空いた穴が、見る見るうちに愛咲で満たされていく。
店の二階にある勇悟の自室に移動すると、自然と二人は我を忘れて激しく愛し合った。互いが今何を求めているのかが手を取るように分かる。まるで二人の心と身体が溶けて一つになってしまうかの様な、とても不思議な初体験だった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
その日以降、二人が異世界の夢を見る事は一度も無かった。二人が付き合うきっかけになった大事な出来事なのだが、夢の内容も時が経つにつれて徐々に薄れていった。
ーーーそれから十年後、ユーゴが独立をするタイミングで二人はついに正式に結ばれる事になる。父の知り合いのイギリス人牧師の立会のもと、大勢の仲間やお客さんに囲まれてチャペルの前で愛を宣誓し合う。
「汝ユーゴは、この女アイラを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「ち、誓いますっ」
ユーゴらしい緊張した返事に、周囲からはクスクスと笑いが漏れる。
「汝アイラは、この男ユーゴを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」
「誓いまーす」
ドッ!!辺りが笑いに包まれる。
(愛咲さんそこは伸ばすとかじゃないから…)
二人は互いの指輪を交換し合いうと、勇悟はベールをたくし上げ愛咲に優しくキスをした。指輪のデザインがかなり個性的なのは愛咲の趣味だ。
「「「おめでとう!!!」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
その祝福の声と拍手はしばらくの間鳴り止まなかった。譲治の知り合いの牧師の名前は〈ハリー・クラウド〉といった。クラウドはとても嬉しそうに二人を見つめていた。
『二人ともおめでとう。末永くお幸せに……』
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