第100話 突然の別れ
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それから二年の月日が経った。
ユーゴは19歳、アイラは22歳になっていた。子供は二人とも無事に生まれすくすくと育っていた。
出産を機に、実家住まいになったユーゴ達は毎日忙しく過ごしていた。お母さんが二人いるようなものなので、それでも普通の家よりは遥かに子育てが楽なはずであったが、ようやく歩き出した子供達からは目が離せない。
「ああーっ、ほら《カイト》そこは開けちゃダメっ!」
「もうー《ルナ》もそれは食べれないよーっ!」
もはやどっちがどっちの子供かよく分からない。ウィリアムのたっての希望により、周りには二人ともアイラの子供として公表した。マリーは普段からローブを被っている所為か、妊娠している事に気付いた者はいなかっのだ。
ユーゴとアイラが授かった男の子は空を連想する〈カイト〉、ジョージとマリーに授かった女の子は月をイメージして〈ルナ〉と名付けた。
ちなみに名付け親はどちらもユーゴだ。
この二年でヴィクターズは大きく躍進した。ネグロンを始め多くの町に支店を増やし、その時価総額はついにトマス商会をも超えた。
ウィスキーとブランデーの小売販売は翌年まで待たなければならなかったが、コーヒーの大規模生産工場を遂に完成させたのが大きい。
又、ヴィクターはハインを正式に妻に迎え、CLUB リモージュも正に最盛期を迎えていた。毎夜高級ワインがバンバン空けられ、さながら異世界版グレートギャツビーの様な豪華絢爛さであった。因みに超VIP用のブランデーだけはユーゴがヴィクターにこっそりと卸していた。
ハインの本業の方もヴィクターと一緒になった事により、全てのヴィクターズ店舗に《ファーマシー》という名の薬屋を併設する事になった。
多くの薬師を抱えたハインが次の薬師ギルドマスターになるのはもはや時間の問題であろう。寿命の長いエルフは妊娠しづらい為、二人の間に子供が出来るのはもう少し後の話だ。
マリーの実家であるスター・ケイプもやはり急成長を遂げた。全ての貴族に冷凍庫と冷蔵庫が普及すると、町の飲食店でも導入する店が徐々に増え始めていた。
又、トマス商会と共同で立ち上げた〈ウィルジョンソン〉ブランドの炭酸飲料各種も馬鹿売れしており、これらが冷蔵庫の普及に一役買ったのは言うまでも無い。
トマス商会もコーヒーに遅れる事約一年。ようやく紅茶の生産ラインを完成させ、再びナンバーワン商社の座に返り咲くべく奮起している。
かくしてサヴァラン王国の長者番付トップスリーは、それぞれが代替わりするまでしばらく不動の地位を築いたのであった。
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一方ネグロンでは、ヴィクターが作ったマスタード工場の特需により町全体が活気付いていた。
そしてなんと、バーバラが遂にジョージと結ばれる事になる。バーバラが飛空亭に来て早19年、今年34歳になるバーバラは、今が絶頂期とも言える美しさを見せていた。
この話を後で聞いたマリーは我が事の様に喜んだ。この19年間バーバラがジョージに好意を寄せていた事は知っていた。その間、何人かと付き合いこそしたものの決して長続きはしなかった。バーバラの心の中には常にジョージがいたのだ。
バーバラは19年の片想いをついに実らせた事になる。ジョージは果報者であった。しかしながら町中の男性陣は心の中でこう思ったに違いない(リア充いい加減にしろ!)と。
ちなみにお調子者のガストンは……未だ独身であった。(後に飛空亭のスタッフの子と無事結婚!芸は身を助くのだ)
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丁度その頃の話である。アイラはまだ育児期間という事で週末だけの勤務となっていた。その日、ユーゴが一人で営業をしていると。
「やあっ、久しぶりだね!」
BAR アヴィエイションに久しぶりにクラウドが姿を現した。ユーゴはあの時クラウドが執行猶予と言っていた事を不意に思い出す。
「も、もしかしてっ……!?」
「アハハ、もう君を消すとか言わないから安心して良いよ。今日はね、随分遅くなっちゃったんだけど出産祝いを持って来たんだ」
「ほっ、出産祝いですか?」
「うん、探し出すのに大分苦労したんだよコレ」
クラウドが取り出したのは古びた一冊の本だった。元々本好きのユーゴであったが、ここ数年は忙しすぎて本を読む時間も取れていなかった。
「ちょっと適当なページを開いてみてよ」
ユーゴは何気なくページを開いてみる。すると本から白い光が溢れ出し次第にユーゴの身体を包んでいく。
「ええっ!ま、まさかこれは……」
『騙し討ちをした様で申し訳ない、他にこうする他無かったんだよ。実は……ジエリ・トマスが異世界から君の魂を連れて来てしまった事により、この世界に歪みが生じ始めている。
色々方法を考えたんだけどね、どうやらそれを元通りにするには君の魂と、向こうの世界に行ってしまったユーゴ・エジリの魂を、それぞれ元の世界に戻すしかないみたいだ。
その本は以前ジエリ・トマスを封印した時に作った物の予備でね、君の魂を肉体から一旦取り出す為の神器さ。君の魂を完全に消すわけではないけれど、この世界からは去ってもらう事になる』
「もし、もしですよ。仮に僕の魂がこの世界に居続けたらどうなるんですか?」
『流石に不測の事態になってみない事には分からないけど、例えば隕石が衝突してこの世界の全生物が絶滅してしまう……最悪の場合はそのくらいの事が起きるだろうね』
「つまり、僕の家族や周りの人達も全て亡くなってしまうという事ですか?」
『うん、あくまでも最悪の場合だけどそうなるのかな』
ユーゴは少し考えた。自分は今幸せの絶頂にあると言えるし、もはや人生に於いてやり残した事は何も無い。唯一の心残りはアイラと子供達を残していく事だが、自分の所為で彼らが死んでしまっては元も子もない。
「そうですか……分かりました。では僕の魂を元の世界に戻して下さい」
『……君にとっても決して悪い話では無いと思ったんだ、理解してくれてありがとう。肉体はそのまま残すので、多分家族は魂が入れ替わったとは恐らく気がつかないだろう。記憶がどうなるかまでは私にも分からないが……それでは覚悟は良いかな?』
「はい、一思いにやって下さい」
ユーゴは覚悟を決めた。向こうから戻って来る〈勇悟〉も元はこの世界の〈ユーゴ〉だ。きっとアイラや周りの人達とも今まで通り上手くやってくれるだろう。周りの人達が幸せであればもはや思い残す事は無い。
白い光はやがて大きな光の渦となり、ユーゴの身体を完全に包み込む。薄れゆく意識の中、最後に頭の中に浮かんだのはやはりアイラだった。そしてユーゴはゆっくりと意識を失った。
その瞬間、アイラはふとユーゴの気配を感じた。
「えっ、ユーゴ?……あれ、何だろう気のせいかな」
かくしてこの世界の危機は人知れずユーゴによって回避された。もちろんクラウド以外に誰もそれを知る由は無かった。
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