第1話 勇悟の日常
初投稿です。 誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。
スキルの性質上、成長までに少し時間が掛かかりますが
第三章くらいからググっと盛り上がる予定です。
僕の名前は 江尻勇悟
どこにでもいる、これといって特筆すべき点のない普通の高校一年生だ。クラスでは特に目立った存在ではなく、成績も中の上。
変わったところといえば実家がBARを営んでいる事くらいだろうか?
父さんは業界では知る人ぞ知る名バーテンダーらしい。僕が中学一年の時に母さんが愛想を尽かして出て行ってしまったところを見ると、仕事一筋であまり家庭を返り見るタイプではない。
ただ、僕はいつも頭ごなしに『ちゃんと勉強してるの?』と聞いてくる母さんが苦手だった。もしかしたら学歴コンプレックスが強い母だったのかもしれない。
一方、父さんは僕が興味を持った事は何でも応援してくれる人だった。いつも自由奔放に生きている父の方が好きだったのだろう。結局僕は、母について行くことはなかった。
あれからもう三年が経つ。
そんなわけで父と二人で暮らすことになった勇悟は、部活もしないで学校から直帰すると、せっせと父のBAR〈アヴィエイション〉の開店準備を今日も手伝っているのであった。
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「ユーゴ!そろそろ飯にしようぜー」
「えーっ、今週ほとんど僕が作ってるんですけど?」
「そういやそうだっけ?いやあー悪い悪い、最近お前の賄いが美味くてさ、ついつい甘えちゃうんだよなー。はははは」
と、褒め上手な父の名は 江尻譲治
かつてはコンクールで日本一にも輝いたことがあるベテランバーテンダーだ。そんな味にうるさい父に料理を褒められて決して悪い気はしない。
「まあ良いよ、ちょっと作ってみたい料理もあったしね」
「悪いな!」
ちなみに今日作るのは〈タコライス〉だ。ポイントは3種類のメキシコ産唐辛子を効かせたタコミート。
牛の挽肉をベースにトロトロに煮込んだ牛スジ肉を刻んで加えた自信作だ。脂とゼラチンの食感がゴロゴロした挽肉と相まって、ご飯が進むこと間違いなし。
あとはスクランブルエッグとレタスの千切り、シュレッドチーズとトマトを乗せればタコライスの完成だ。
「「 いただきまーす!」」
ーーーーーーーもぐもぐもぐもぐーーーーーーーー
「なんだこれっ、いつもよりめちゃくちゃジューシーで旨いな!」
「ほう…いつもとの違いに気が付きましたか?」
「お前これ賄いだぞっ?まさか……和牛の良い奴とか使ってないだろうなあ?」
江尻家の夕食とはすなわち店の賄いである。
当然和牛のような高級食材は使って良いものではない。
「当たり前だろ〜素人じゃないんだから、いつもの安いUS牛のバラ肉に国産の牛スジ肉を加えただけだよ。ちなみに牛スジ肉はなんと1キロ500円の特売品!」
「カリスマ主夫かよっ!」
「ちょ、誰の所為でこんなに料理上手になったと思ってんのさ 笑」
「あっ、俺の所為か?」
「「ぷっ、わははははーーー」」
いつものたわいのない会話を繰り広げながらもタコライスを食べる手は止まらない、あっという間に完食だ。
「いやあ美味かったあ、ご馳走様。食器は浸けといてくれれば良いぞ。あと悪いけど庭からローズマリーとミント摘んどいてくれ」
「うん。ご馳走様ー、ハーブは洗って店の冷蔵庫に入れとくね」
「助かる」
意外と知られていないが、シェフやバーテンダーには家庭菜園をやっている者が少なくない。
その日の料理やカクテルに使うハーブや野菜は、自分で作った方がはるかに安く、そして圧倒的に鮮度と香りが良いためだ。
仕事の手伝いを始めて約二年。凝り性の父譲りの血なのか、ハーブやスパイスの基礎的な知識は、暇つぶしにお店に置いてある本を読んでいるうちにだいたい覚えてしまった。もちろんいくつかは実際に畑でも栽培している。
今日採取するのはローズマリーとイエルバブエナという種類のミント。〈ジントニック〉や〈モヒート〉というカクテルに使用される。まあ僕は未成年なのでまだ飲んだことはないという事にしておこう。
父曰く、
『俺がイエルバブエナで作ったモヒートは、本場のラ・ボデギータのモヒートよりも美味い!』
らしい。
と、話がそれたが今日の僕の仕事はこれで終わり。さて、部屋に戻って読みかけのカクテルブックでも読むか。
何故高校生がそんな一見つまらなそうな本を読み出したのかというと、基本〈ぼっち〉だからである……悪かったな!
僕の通う高校は進学校でありながら割と部活動が盛んで、帰宅部はごくごく少数派であった。学校ではクラスメイトと話こそするけど、放課後や休みの日に一緒に遊ぶほどの友達はいなかった。
まあもともと一人で遊ぶのは嫌いじゃないんだけどね。
最初は家にあった父所蔵のマンガを読み漁っていたのだが、ある日たまたま目にした、写真集の様に美しいカクテルのレシピ本に心を奪われた。
後に知ったがバーテンダーには本の収集癖がある人が多いらしく、酒や料理、はたまた骨董や狩猟に至るまで、家と店には様々な本があった。
勇悟が本好きになったのは間違い無く父の影響だと言える。本を読んでいるうちにだんだんとバーテンダーという仕事に興味を持ち始め、また父の凄さがちょっとずつ分かって来たのだった。
「なるほど。ラ・ボデギータっていうのは、ヘミングウェイがよくモヒートを飲んでいたと言われてるキューバのBARの屋号なのか。そういえば僕が小さい頃は父さん良くあちこち海外に行ってたよなあ」
たまたま読んでいたラムベースカクテルの項に、モヒートの逸話がいくつか書いてあるのを見つけ、ひとりごちる。カクテルブックはこうした〈うんちく〉がまた面白い。
摘んだハーブを仕舞いに行った際に、お店の冷蔵庫からこっそりくすねてきた自家製のビーフジャーキー。端切れ肉をかじりながら本を読み進める。
最近では僕がジャーキーを仕込ませて貰ったりしているのだが、お客様には出せない端切れ肉が時折生じてしまう。まだまだだなと思う一方で手前味噌ながら良い味だ。
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「やべっ!もうこんな時間だ、そろそろ風呂に入って寝ないと」
気付いたら深夜3時を回っていた。読書をきりの良いところで切り上げるのは、なかなかどうして難しい。後ろ髪を引かれつつ部屋の本棚に読みかけのカクテルブックを戻す。
「んっ? こんな本前からあったっけ?」
いつもの見慣れた本棚に、見慣れないハードカバーの古い一冊の本が目に付いた。大量の蔵書があるとはいえ、お酒関係のめぼしい本の位置と内容は大体把握している。
「前はこんなの無かったよな、父さんが最近買い足したのかな?」
おもむろに手に取ってみて違和感に気づく。古ぼけた焦げ茶色の革の表紙に金色の打刻。明らかに初めて見る文字、のはずなのに何故か勇悟は本のタイトルを読むことが出来た。
ーーーーー《ジエリ・トマスの書》と。ーーーーー
その瞬間だった。
突然、本が金色に光り輝いた。まるで光の渦に飲み込まれるかの様な不思議な感覚に襲われる。そして、目を開けていられないほどの激しい光の渦の中で、勇悟はゆっくりと意識を失った。
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