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異世界で見える俺と  作者: 松明みかる
8/51

8:あらためまして自己紹介

魔法部分わかりやすく? 修正しました。


 箪笥(たんす)に、机に椅子に自分が座っているベッド。一般常識と大差ない10畳くらいの部屋には大きな窓があったが、カーテンはしっかりと閉じられている。


「里を探索するなって言われているし、カーテン開ける気はないけどな」


 悠太はゆっくりと立ち上がると窓に近づき大きく伸びをして深呼吸。

 出発は明日の朝。カーテンの隙間からこぼれる光はまだまだその力を蓄えており、恐らくまだ午前中、もしくは昼頃だと思われる。


「といっても、時間単位が地球基準だったら、の話だけどな」


 独り言が多いなと思いつつもやめることはできない。何せ暇だし、何といっても自分の身に起こっていることがあまりにも非現実過ぎる。


「異世界…かぁ……」


 漫画や小説などで人気のジャンルではあるが、悠太がその知識として得ているものは大抵、言葉は通じるし、文字や通貨に違和感ないとか、主人公は結構チートで異世界で勇者として魔王を倒す、とか不思議な力で世界を救うとか…厨二心をくすぐるファンタジーの世界だ。

 確かに出会った人物は現実離れした美女とか、美麗の少年とか耳が長くて尖った人たち…耳長だが、待遇が酷すぎる。


「3日間森彷徨ってその後に吊るされて餓鬼にボコられて軟禁中。ナニコレ、どこに夢と希望が? 大いなる冒険が??」


 声にしてみて余計空しくなる。


「でも……」


 ゆっくりと目を閉じて深呼吸してみる。やっぱり空気が違う。

 確かに散々な目にあったけど、空気が綺麗な場所にはあいつらが居づらいから、そこに関してはまぁ居心地がいいのかもしれない。とか自分に言い聞かせてみたが、ここは日本でもないわけで、勘違いと言え軟禁中で、これからどうなるかも不安しかないわけで……。それでもやっぱり居心地がいいのかと言われれば……。


「……あ、でもそういえばさっき……」


 悶々と答えの出ない妄想を膨らませていると、ふと吊るされていた時のことを思い出した。瞬間、背中に感じ慣れた特有の気配を感じてしまったので再び部屋に視線を戻すと……。


「ははは…見えるわけがない……わけないか…はははハハ………」


 予想通りの展開に乾いた笑いが自然と出てきた。



「えっと…君…いつの間に……?」


 目の前に少女がいた。

 背格好からして自分と大差ない年齢だと思う。というか彼女を見たことがある。


「………君、俺のこと見えてる?」


 天井から伸びた蔦で拘束されてた時にいた、心配そうに自分を見ていた少女だ。

 彼女は今も悠太を心配そうに見ている。


「あぁ、言葉通じないんだっけ…あの子みたいに頭ン中で会話…とか…無理そ?」


 彼女に向って話しかければ、彼女はまるで自分に話しかけてる?? とてもいうように、左右をキョロキョロみて自分に指をあてていた。

 ここには自分と彼女しかいない。だから悠太はうんうん、と頷いてみる。でも彼女はまるで自分に話しかけてくるなんて信じられない…とでもいった感じだ。


「…あれ…そうか、俺が『見える』ってこと……知るわけないよな…」


 吊るされていた時も気づいていた。もしかして、と思ったが、いま改めて見ると、やっぱり彼女はこの世に在らざる存在だった。


「えっと…俺の声が聞こえているか分からないし、理解出来てるかも分からないけど、君、霊だね。善霊っぽいから話しかけちゃってるけど、そっちは話すつもりはあるのかな?」


 悠太はとりあえず話しかけてみる。彼女の(まと)う雰囲気は悠太の知る悪霊の類ではないことは経験則からわかる。つまり彼女は無害だ。だったら話し相手にならないか?

 普段から霊と係わっている…とうか係わることを余儀なくされる悠太は、彼らとのコミュニケーションなど日常茶飯事の出来事だ。


 ちなみに、ちょっかいを出して欲しくないときは『見えないモード』にする方法まで習得済だから、今はそれなりにプライベートは守られている……と思う。まぁ、悪霊は勝手に現れて体を乗っ取ろうとしてくるから会話なんてしようとも思わないが。


『ぇ? ……あの…私のこと、見えてる? もしかして、声も聞こえてる…のかな?』


 彼女の声が聞こえた。脳内再生で日本語変換されているので、彼女もまたあの男の子と同じ《念想》なるものを使える人のようだった。霊の状態でも不思議な力は使えるらしい。まぁ、そこは異世界チートという言葉でどうにでも納得できる。

 脳内変換される声もまた可愛く、風鈴の涼やかさと爽やかさを感じる。


「イイネ」


 悠太は本音をぽろっと口に出す。


『…ぇ?』

「あぁ、気にしないで。心の声がつい駄々洩れになっただけだから。それより君、いつの間にこの部屋に?」

『シャルがここに来ると同時よ。シャルのことも気になったんだけど、貴方のことも気になって…つい覗いて…って、えぇ!!? ホントに私の声聞こえてるの!?』

「あぁ、聞こえてるよ。《念想》…だっけ? それのお陰でバッチリ日本語訳されるし、問題なく会話できるみたいだね。

 実は何もすることなくて暇だったんだよねぇ。一人で悶々としてもいい考え何か浮かばないしさ、良かったら話し相手になってくれない? この世界のこと色々知りたいし。もちろんお礼はするよ? 成仏を希望するなら手伝うことが出来る。ほら、善霊なら現世の心残りって、良心的なものだろ?」


 悠太は彼女に近づきつつ身振り手振りで饒舌(じょうぜつ)に語り掛ける。彼女はその殆ど理解できない言葉を、困った表情で必死に理解しようとしているようだった。どんな表情をしていてもやっぱり可愛い。


 もし、彼女が生者だったのなら人気者だろうなぁと思う。恐らくこんなに気軽に話しかけることはできないだろう。

 生者への接触は何かと気を遣うのだ。憑かれやすい体質だと潤滑な人間関係を作るのは本当に大変だ。だからこそ悠太は、霊に対してならどんなに自分の理想の女性が目の前に現れたとしても、緊張することなく演技することもなく、いつもの自分でいられる。


 今もその状況だ。目の前の若草色の髪の彼女はとても可愛い。恐らく好みだ。耳長なのはきっと異世界だからだろう。だがそんな些細なことは気にする点ではない。


「あぁ、えっと取り敢えず座る? 椅子でもベッドでも適当にさ」

『え? あぁ…私……』

「君、存在薄くなっちゃてるみたいだけど、姿は生前と変わらないみたいだね。同じ姿を保つのって想いが大切だから、何か届けたい想いがあるってことだろ?」

『想い…? そう、なのかな。私は…』


 悠太は自分が座っているベッドをトントンと叩き、彼女にも座るように促した。彼女は誘わるままに横に座る。近くで見ても…可愛い。若草色の長い髪に森色の瞳。

 ここの人たちはみんな水色系の髪で緑の目だったけど、みんな睨んで来るから怖い。それに対し、この子はなんかマイナスイオン溢れ出す癒しって感じだ。


「初めまして。俺は新島悠太。日本にいたんだけど、なんかドッペルゲンガーに攫われて現在この世界で渡り人? やってます。ってことで、この世界のこと、言語も含めだけど何も知らない超無知だから、色々ご教授いただけると嬉しいわけです、はい」


 屈託ない笑顔で自己紹介。この世界でやっとできた初めての自己紹介が霊相手だなんて、なんとも自分らしいと悠太は思った。


『ユウタ…? あ、えぇ…っと、こちらこそはじめまして。私はエミューテイネル』

「エミュー…テイネルちゃん? フルネーム? 名前だけ??」


 自己紹介された名前は日本の響きとは遠いもの。エミューが名前でテイネルがファミリーネーム? 全部合わせて名前? どう判断したらいいのか迷いどころだ。

 エミューテイネルはその迷いを察したのか、小さく笑いその疑問を解消してくれる。


『フフ、エミューテイネルが名前よ。でも、基本は愛称で呼ばれることが多かったから同年代の子にそう呼ばれるのってこそばゆいわね。だから私のことはエミルでいいわ』

「エミル…了解。んじゃ、俺はユウタ、でよろしく」

『わかったわ、ユウタ』


 エミルは気さくな性格のようで悠太の希望通り話し相手になってくれるようだった。変な堅苦しさも、緊張感もない。ずっと前から知っていた…そんな感じさえするが、何がどうしたって二人は初対面。


「さて、俺もこの世界のこと色々知りたいところではあるけど、まずはエミルのこと知らないとな。留まるにしろ、成仏するにしろ、情報は必要。ってことで、エミル。いきなり不躾な質問で申し訳ないけど…どうしてそうなった?」


 霊体なのだからそうなった原因がある。その情報は何よりも大切なものでることを悠太は知っている。だからこそ知る必要があるのだ。まぁ、日本では知りたくもないのに、憑依してきて情報を無理やり送り込んでくる悪霊とかもいた。大抵耐えられる情報ではなかったからその度に両親に助けられたものだ。


『魔王様を助けたくて……』

「………ぇ?」


 ちょっと今とんでもない単語出てきましたよ、と悠太は思う。悠太の頭は現在フル回転中だ。糖分欲しい。ないけど。

 まぁ、異世界だし、勇者とか魔王とかいてもおかしくないだろうけど……とりあえず悠太絶賛混乱中。


「エミル。聞くけど魔王様って…どゆこと?」

『魔王様? 魔王様は4人いるんだけど、私が助けたかった魔王アシリッド様は…優しくて、不思議で、考えが幼稚で、自身の信念に真っ直ぐな人……かな』


 途中かなりディスった言葉が含まれていたことを聞き逃すことはできない。そして、悠太の中で妄想の悪の帝王のような魔王像が崩れていく。雪崩のごとく、土石流のごとくの勢いで。ってか4人もいるのか……この世界の魔王様は。


「それじゃ、その…魔王…えっとアシリッド様? を助けるためにエミルは今の姿に?」


 エミルは頷く。


『どうしても助けたくて…でもアシリッド様は…あ、魔王様のことね』

「え? あ、うん」

『アシリッド様は人間族に騙されて捕らわれてしまったの。そうして磔にされて公開処刑されたわ』


 可愛い子が淡々と恐ろしいことを口にしている。この世界は日本のように法に守られてはいないのだろう。差別もあって…ヒエラルキーも想像できる。


『それが耐えられなくて…私ね、あ、そうそう私、アシリッド様の側近だったの』

「ふぇ? あ。あぁそうなんだ」

『うん。まだ歴は浅いんだけどね。あ、えっと……どこまで話したっけ?』

「エミルは側近」

『あぁ、そうだった。あのね…』


 エミルはあれだ。真剣に話をすると、無意識に話の腰を折る、空気をがっつり変えてくる。そういうタイプなのだろう。楽しい話をするときは……してみないとわからないな。

 悠太のプチ分析結果はそうなった。


『魂魔法《乖離かいり》を使って、私は自分の肉体から離れて魂だけの存在になった。そうしてアシリッド様の魂だけでも救おうとしたの』

「魂…魔法?」


 流石異世界…何でもアリだな…と悠太は思う。 


『うん。あ、魔法って系統がいくつもあってね、魂魔法、自然魔法、光闇魔法、精霊魔法あとは…陣魔法と集合魔法とかかな。自分で創る人もいるから種類はたくさんあるの。あとは、古代魔法とかあるけど、一般的なのはこの辺だよ。あとは、加護かな』


 お、また脱線か? とも思うが、これはこれで興味深い。


『魔力の所有量とか許容量、性質は個体差があって、属によって得意や不得意もあるのよ。私は魔人族のエル属。自然魔法の風、水、魂魔法、光魔法が性質としてあって得意なのは風と光ね』

「なんか、正直普通レベルってのがどんなもんかがわかんけど、凄いって感じする」

『凄いのかなぁ…。アシリッド様はもっと凄いよ?』

「え、あぁそうだろうね」


 仮にも魔王様だ。きっと物凄く強いのだろう。そして…。


「魂魔法………それでエミルは善霊になった…ということか」


 とりあえず、話の筋を戻してみた。


『ゼンレイ? はわからないけど、魂魔法《乖離》は本来、幽体になって情報を得る、いわゆる諜報系の魔法よ。

 見聞きしかできないけど、壁もすり抜け可能だし、魔法も干渉しない。そもそも誰にも認識されないから絶対無敵状態だけど、肉体の切り離し時間が長いと心臓停止でそのまま死んでしまうからあまり実用的ではないの』

「えっと…つまりエミルは切り離し時間が長かった…ってこと?」

『えぇ、恐らく。アシリッド様の魂を引っこ抜いた後、私は自分の体に戻ろうとしたの。でもね』

「……時間切れだったわけか…」

『違うわ。間に合いはしたわ。でも人が多すぎで、どこで切り離したのか分からなくなったの。つまり迷子ね』

「…………ぇ?」


 それ、ドヤ顔で言うこと?

 迷子で死亡ってシャレにならんよ?





 エミル、天然だ。ド天然だ。こういう人って本当にいるんだなぁと悠太は感心。


「じゃないじゃない。それで死んでりゃ意味ないだろ……」

『意味はあるわ。だってアシリッド様の魂は引っこ抜けたもの。そして世界に還ってないもの。あ、世界に還るっていうのはね、普通人が死ぬと魂は世界に吸収されて記憶を洗い落とされて次の命になるための準備期間に入るのよ。あ、そうそうこの魂の循環はね、世界の三大不思議って言われているとかいないとか』

「あ、ああそうなんだ」


 3度も話の転換をされるとなんかもう慣れてくる。こういうものだと。


『うん。だから意味はあるの』


 そして話を戻してまたドヤ顔。それもまた可愛いと思うが…ちょっと待て、今聞き逃してはいけない単語があったはずだ。


「ぁ…ってことは魔王…えっとアシリッド様? の幽体もここにいる……?」 


 邪悪そのものではないだろうが、仮にも魔王と名乗るものが…しかも人間に騙されて処刑されたそんな魔王様がこの近くに???

 悠太の全身が震え……。


『今はいないわ。この里は退屈らしくて今は人間族の街に遊びに行ってるの』


 震え…ることはなかった。しかも、


「ちょっ、人間族の街? だって魔王様は人間族に処刑されたんだろ? 何だって遊びに…… !!? まさかッ」


 騙され殺され、恨みは相当なものなはずだ。だとしたら、エミルのような善霊ではなく悪霊になっており、そして怪奇現象を起こしまくっているのかもしれない。魔王クラスの悪霊。それはそれで恐ろしいことだ。


『ユウタが何を焦っているのかはわからないけど、アシリッド様は基本人間族好きだし、街とか遺跡とか…ようするに旅好きね』


 ……うん、なんか疲れた。この世界の魔王様は旅好きな魔王様。もうそれでいいや。

 悠太の中で何かを諦めた。真剣に悩まなくていい気がしてきた。

 でも、よく考えれば少し前まで生死を問われていたのだ。このくらいの緩さが今は心地いい。


「ようするに、エミルはそこまで自分の死を悲観していないんだな」

『後悔はしてるよ? でも疑問にも思ってる。なんで世界に還ってないのかなって』


 そう言えばさっきそんなことを言っていたな、と思い出す。魔王の魂引っこ抜いたとか言うからそっちに気を取られてしまったが、こっちはこっちで割と重要なワードだ。


「確かに。死んだら魂は世界に還って記憶は流される…だっけ。だとすれば、エミルはどうして幽体のまま彷徨っている? ってことになるな」

『うん。変だよね』

「もしかしてまだ死んでないとか?」

『え?』

「いや、可能性の話だかんね? エミルは自分の体を見つけきらなかった。でももしどこかに保管されていたら?

  例えば、近くにいた人が突然エミルが倒れたもんだから、病院みたいなところに連れて行って、そこで今も人工呼吸器みたいなの付けて延命措置を続けて魂の帰りを待っているとしたら?」


 そういう技術がこの世界にあるかは不明だが、可能性がないわけでもないと思う。


『ちょっとわかんない単語とかあったけど、なるほど、どこかに連れていかれてって……え? それどこ? 私の知ってるところ?』

「あ、いや、たとえ話ね。そもそも俺この世界のルール知らないよ?」

『あ、そうだよね。うん…そっか…』


 なんか、このやり取り慣れてきた…と悠太は思う。


「何か憶えてない? 魂のみになる前に近くに誰かいたとか…病院みたいな場所…とか」

『それがね、あの時のことはぼんやりとしか憶えていないの。アシリッド様もそれは同じみたいで、だから今は割り切ってここにいるって感じかな』


 本当に割り切っているのだろうか…エミューテイネルはユウタに優しく微笑む。

 その時だった。そいつが現れたのは。



え…誰??

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