5:伝わらない
世界は真っ暗だった。肉体という概念はなく、只々広がる闇。
そこに色がついた時、見知った人たちが目の前にいた。
「…お父さん?? …おか、母さん??」
その姿を見つけたとき、肉体を得た。二人を追った。
「待って!! 俺はここだ、ここにいるッ!!」
叫びは届かない。とにかく追いかけようと足を踏み出しどうにか追い付けば、2人は感情の消えた黒瞳で彼を見る。
「…ぁ…俺……ぉ…ぼく……いっしょ……」
突然、足元が抜けて水の中へ沈む。息もできず、方向も分からず、ただ、苦しくて苦しくて……。
「…ぁ……ぅ……」
悠太が再び目覚めたのは薄暗い場所だった。どこかの部屋のようだがここはどこだと考えている間に、何やら痛みを感じた。何だ? と思い確認しようとすると……
「う、動けない……」
首は動くようなので顔を上げてみると、視界に映ったのは天井から伸びた蔦のようなもので両手首は括られ吊るされているという現実だった。辛うじてつま先立ちしている状態なので手首や肩にかかる負担は半端ない。それによく見ると、髪から水滴が滴っている。
「拘束されて…水…掛けられた……?」
段々と働いてきた思考をフル回転してどうにか状況確認をした。
大きさは10畳くらいの部屋だろうか…木製の建物でコテージの一室のような雰囲気だが、ここに置かれているものは剣や弓であり…、なにやら謎の木製器具もある。
……目の前に小さな10歳前後の少年…少女? がいた。若草色の髪と、もっと深い緑の瞳を持った、目鼻立ちの整った木のバケツを持った子だ。どうにも耳が長く見えるのは気のせいだろうか……。それに、若草色って、中々な染めのセンスだと悠太は思う。
おそらく水を掛けたのはこの子だと推測される。この子はずっと憎悪の瞳を悠太に向けていた。
その隣には少女がいた。年齢は自分と同じくらいだろうか。少女もまた若草色の髪をしており、深い森色の瞳がとても綺麗で…やっぱり耳長? でも、な、なんというか…可愛いと思う……。
こんな状況なのに少し顔が赤くなったかもしれない。
彼女は先ほどのバケツの子とは違い、心配そうにこちらを見ていた。
「…とりあえず…俺、君たちの敵じゃないよ…?」
言葉をかけてみるが反応はない。
とりあえず、この場から逃げ出せないか足掻いてはみたが、痛みが広がるだけで効果がないと悟ると抵抗をやめる。そして落ち着いてみて改めて気づく。
彼女は可愛い。そして、
「……あれ? もしかして…」
突然、どたばたと音が聞こえ扉が開かれると同時に何人かの人が入ってきた。
「ぬおっ!!?」
素っ頓狂な声を上げるのは無理のないこと、その手には各々弓やら剣やら握られており、全ての人がこちらを憎悪と、不信感の混ざった瞳で睨みつけていたのだ。若い者、歳を取ったもの様々だが…髪の色はさっきと違ってみんな水色。でもやっぱり耳が長く尖って見えるのは幻覚でしょうか……。
「…やっぱ意味わかんねぇ…何喋ってんだ??」
そして彼らはそれぞれに何かを話しているようだが、さっぱりわからなかった。
「この状況…説明してもらえるとありがたいんだけど…無理、ですか?」
やんわりとお願いをしてみても反応は同じ、謎の言葉で話している。
「まいったな…言葉通じないということはやっぱり外国か…。」
やはり悠太はこの状況でありながらも安穏としている。それは感情論を諦めた結果だ。思考を加速させ現状打破。取り敢えず今をどうにかすればいい。
まずは言葉の通じる相手と話し合いをしたいが……。
『お前は言葉を知らないのか?』
初めて自分以外の口から母国語を聞き、悠太は声の主を探す。ただ聞こえてきた母国語はここにいる誰か…というより、形容し難いが脳に直接響いた…と言った感じだ。つまり誰かが分からない……。
が、どうやら声の感じと視線の感じからして声の主は先ほどの10歳前後の子ども…? のようだと思われた。
よく見ても男性か女性か判別のつかない中性的な顔立ちで可愛らしいが、少し釣り目の森色の瞳は明らかにこちらを敵視している。声のトーンから男性の可能性が高い。だから男の子としておこう。
この子になら現状を話すことが出来る。まずはきちんと自分の素性を話し、状況の改善を望むことを優先する。
「言葉は知っている。だが、君たちの使う言葉はわからないんだ。俺は日本人。今は東京の鈴音町に住んでいる。あぁ、えっと名前はに…」
『お前の出生なんてどーでもいいんだよッ』
遮られれば続けるのは得策ではない。とにかく今はこの状況を打破しなければならないのだ。
「なぁ、君、日本語話せるんだろ。…あのさ、俺何でこんなことになってるかわらないんだ。俺は敵じゃないし、抵抗する気もないからさ、降ろして欲しいんだけど……」
彼は初めて言葉の通じる相手に交渉をしてみるが…相手は勝ち誇ったように笑っており……
「…無理…そうだな」
『あぁ、当たり前だろ? それにニホンジンってなんだ? 僕は《念想》で意識に今直接干渉してるんだ。加護の力だ。そんなことも知らないのか』
「ネンソウ? カゴ? 干渉? よくわからんけど…確かになんか変だよな。耳に聞こえてくるってより頭に直接話掛けられてる感じで、これ…気持ち悪い……。まぁ…会話が成立しているだけでもマシと思うか……」
『何ブツブツ言ってるんだ? それに、敵じゃない? 付くんだったらもうちょっとマシな嘘を付けよ。一旦は降ろしてやる。お前の処遇は女王様に決めてもらうからな、そのあとどうなるか…楽しみにしとけよ』
「うわぁ…あまり楽しみにしたくない言い方だな…ソレ」
『余裕だな、まぁ余裕なのも今の内さ。お前には泣いて喚く未来しかない。でも誰も助けたりしないからな……』
そしてまた男の子に睨まれる。まったくもってこの見知らぬ男の子の機嫌を損なうようなことをした記憶はないのだが……。
「あぁ、ユノカ。こいつ降ろしてやって。もちろん拘束は解くなよ」
ユノカと呼ばれた少女はこくりと頷くと…
「――――」
何かを呟く。
するとどうだろう、悠太を吊るし上げた蔦はゆっくりと下がっていき、久しぶりに地に足をつけることが出来た。
「ぬおっ!!?」
と、安心したのはつかの間で、突然重力を得た両足はその重圧に耐えきれず…転んだ。
どうにか起き上がろうと手を使おうとしたら蔦はくるくると生き物のように蠢き、両手首を後ろ手で括りつけた。そしてそのままぐるぐると蠢き腰周りをぐるぐると何重にも巻きつける。5周か6周か…とにかく巻き終わると蔦は勝手に結ばれて勝手に動きをとめた。
「な、何だよこれ…気持ち悪……」
悠太はうつ伏せのまま自分の状況に呆然としていると、大人たちに無理やり起こされ立たされる。男の子は気にせず、悠太に繋がった蔦を掴んで引っ張った。するとそれに繋がれている悠太は自分の意思とは関係なくつんのめるが、どうにか両足が慣れてきたようで再び倒れることはなかった。
『ほら、ぐずぐずすんな。女王様はお忙しい方なんだ。お前なんかに割く時間は少なくていい、とっとと許可もらってとっとと処刑してやるッ!!』
蔦を引く手に力がこもる。男の子は本当に人間族が嫌いだ、だからこの人間族が誰であろうと容赦するつもりはなかった。
「ちょ、待て。何で処刑なんだよッ! 意味わかんなねぇだろ、俺そんなに悪いことしたのか? 俺は何も隠していることなんてない、ただ腹減ったからきのこを…きのこ、あれか? あれがいけなかったのか?」
悠太は久しぶりに取り乱した。考えを優先させていたはずが感情が露になった。
冗談じゃない、ただでさえいっぱいいっぱいな状況であり、いろんな感情を破棄して自分なりに考えて判断することでその状況を打破しようとしたが、処刑となれば話は別だ。だってどんなに希望がなくても諦めていても生きていれば、何か変化はあるかもしれない。また頑張れるかもしれない。それをこんな形で奪われるなんて納得できるわけがない。
…これが本物であれ偽物であれドッペルゲンガーに連れ去られた代償なのか?……
男の子は蔦を握り締めたまままた憎悪の目を向けてきた。
『何も隠してない? よくそんなことが言えるな、だから人間族は嫌いだ、嘘つきで傲慢で弱い』
それ以上男の子は何も語らなかった。
「ふざけんな! わかるように説明しろ! 俺が一体何をしたってんだよっ!!」
『汚く喚くな、薄汚い人間族ッ!!』
「がはッ!!」
男の子の罵声とともに、近くにいた大人の耳長が、持っていた棒で悠太の腹部を突く。
視界が明滅し、呼吸の仕方が分からない。朦朧とする意識をどうにか保とうとするが、悠太はその場で倒れた。
『…まったくこれくらいで倒れるなんて、本当に人間族は軟弱だ』
大人に髪を乱暴に掴まれ、子どもに侮蔑の言葉を浴びせられても、悠太には反撃する手段がない。自分はあまりにも無力。
「………」
悠太も何も語らない。この状況を打開するのは無理なのだ。ならばもういい、と思った。
なぜ処刑されなければならないのか…それは今もってさっぱりわからないがこの沢山の恨みのこもった目を見ればなんとなくわかる。自分は嫌われている、そして助けてくれる者なんていない、と。
確かに。好き好んで寄ってくるのは悪霊くらいだ。
だが、この状況をどう打破すればいいのか分からない。
こんなところで死ぬのは納得いかないが今は……。
◇
結局まともに歩けなかった悠太は目隠しをされて小屋の外に出された。視界は真っ暗。扉を開けたような音、歩くような音がする。現在の悠太は、多分荷物のように誰かの肩に背負われており、足は宙を掻いていた。
状況が分からないのは恐ろしいものだ。ここがどんな場所で、どんな人たちがいて、どんな風に見られているのかさっぱりわからない。吊るされた部屋では窓はなかったが、今陽射しが温かいから恐らく陽は射しているのだろうが……視界は真っ暗だから色々分らない。
「ペジャ爺。こいつが昨日話した、ゴル茸食べた奴だ」
連れていかれた先で悠太は乱暴に降ろされ、正座させられた。それなりに体格のいい耳長たちに弓や槍を突き付けられた状態で目隠しを外される。
不思議な場所だった。霧のない森の中にぽっかりと開けた空間、広場。木の生えてないこの空間は半径10メールくらいだろうか…その中央に扉があるのだ。両開きの木製の扉で、金属でシンプルに装飾されている。そんな扉だけがこの何もない空間の中央にぽつんとあった。
いかにも幻想的な光景だ。
今の状況を悲観しても仕方ないのだから、この幻想的な風景を見ていようと思った。
ここには日本では見られない、ふわふわとビー玉サイズくらいの光がいくつか浮いていた。霊なのだろうか。それにしても光に思念を感じない。目視できるなら何らかの思念があると思うが……少し集中してみると光に色がついているのがわかった。赤、青、緑…他にも色々。なんとも幻想的な光景だ。
もうこの状況をどうこうする気はなかった。これからどうなるのか、どうでもよくなっていた。だから、とても落ち着いている。
目の前の美しい光景をずっと見ていたい、もっと深く見てみたいと思った。そう思わせる柔らかな光だ。
黒い光はやたら悠太の傍をふわふわしているが、縛られて正座させられた挙句に武器を突き付けられている状況。これ以上を深く見るのは無理なようだ。こんな情けない恰好なのに、心配してくれるみたいにふわふわ浮かんでいる。なんだか少し嬉しくなって、気づいたら微笑みかけていた。
途端に、耳長の話し声が聞こえたので見るのは中止。ふわふわの光は色を失くし、元の光に戻った。
ひと時の現実逃避時間は終了だ。
「先日は魔人族擁護派の人間族が移住の提案をしてきたな。帝国の情勢は変わったのか?」
「いや、罠かもしれんぞ、心を赦しては駄目だ」
何かを言っているが、もちろん理解不能。
目の前には髭を生やしたお爺さんがいた。水色の髪で、やっぱり耳長だ。
「……」
取り敢えず、どう反応したらいいのか分からないから悠太は沈黙してみる。
『儂の言葉が分かるかな。人間族の子よ』
「あ、はいわかります」
問われたので丁寧に答えてみる。このお爺さんもどうやら直接頭の中に語りかけることができるようだ。耳長爺さんは少し微笑んだ。
『儂が見るところ、どうやらお前さんに悪意は感じんが、どうも人間族は嘘をつく生き物だからのぉ…。すまんが、里の掟でのぉ、これから女王様に『視て』もらうぞ。記憶の開示を要求するが、断ることは赦されない。分かったかの?』
「えっと…正直言えばよくわかってないですけど、聞かれたことには嘘偽りなく答えますよ。こんなところで死にたくないんで」
正直に言った。記憶の開示? なんのことやらさっぱりだ。
耳長爺さんは声を上げて笑った。
「ほっほっほっ、純粋な子だのぉ。言葉を解せないのは何かの病かのぉ…。まあ良い。シャルノイラス、この子を女王様の元へと連れて行きなさい。許可はもう貰っておる。今のところはまだ『お客人』だ。あまり手荒に扱う出ないぞ?」
「……わ、わかりました」
また何かを言っているが、わからない。本当にここはどこの国だ……。
処刑…か。日本には帰れない……じゃいないな。
『審問の許可が出た。女王様の元へと連れていくぞ』
また男の子が話しかけてきた。
「お? 女王様? って、わ、何!!?」
疑問が頭から抜けないまま悠太から伸びてる蔦を引かれた。
今まで正座していたのに、急にいかれるもんだから体制を崩して倒れる。もちろん後ろ手に縛られているのだから受け身もできない。
「……痛ッ……」
苦悶に顔を歪めていると、男の子は無理やり蔦を引き上げ立たせようとする。
『さっさとしろ、ウスノロ!!』
「これ、シャルノイラス。乱暴にするでないと言うたばかりじゃろが。処遇が決まるまでの辛抱じゃ」
また耳長爺さんの意味不明な言葉が聞こえると、男の子は少し悔しそうにしていた。何の話かはわからないが、この子はどうやらお爺さんには逆らえないらしい。
悠太はそれを理解したが、理解したとてどうこうできるわけでもなく、男の子……いや、怪力男の子に引かれながら、先へ進む。扉の元へ。
『何ぐずぐずしてんだよ、歩けッ!!』
急かされ中に入ると、森の情景が一気に消え去り、青みがかった水晶をくり抜いたような神秘的な空間が広がった。ドーム状の空間には一本の長い廊下が続いている。扉だけの場所からどうしてこの空間が?? と驚かざるを得ない長い廊下だ。壁ははるか遠くにあるが、例え両手が自由でも触れることは叶わないだろう。だってこの廊下……。
「幅狭ッ!!」
って、つい突っ込みたくなる幅だったからだ。長く続く廊下は距離にすれば100メートルくらいだろうか…外装が扉のみで内装がこれだ。もう現実感なさ過ぎて混乱中。幅は30センチ位だろうが…すれ違うのも命がけ…という感じだ。
なぜ命がけかというのは…先ほど壁に触れられないと語ったことに原因がある。
平均台のように続くこの水晶の廊下は、底の見えない空間の真ん中に突っ切るように掛けられていた。もちろんこの廊下にガードレールのようなものはない、板をただくっつけたような本当にちょっと幅広の平均台という表現がぴったりの簡素な作りだ。だから途中でぽきっと折れるのではないか…そんな恐怖もあいまって歩く速度はかなり遅くなる。すると案の定……。
『何もたもたしてんだよ、とっとと歩けッ!! うだうだしてると突き落とすぞッ!!』
男の子は冗談などではなく、本当にやってのけると言わんばかりの勢いで怒鳴りつけ、蔦を引っ張る。
「わっ!!」
その勢いでまたつんのめり、バランスを崩し、その場でグラグラ揺れながらどうにか持ちこたえると、その情けない姿を見た男の子は嘲笑する。
『この程度で怯えてるのか? やっぱり弱いな、人間族は』
この言葉で…キレた。自分は必死なのだ。それを嘲笑するなんて…。
思考を優先させる。感情論で動くな。何度も何度も自分に言い聞かせるが、こんな極限状態ではそうそううまくいくはずがない。だってムカつくことはムカつく。いい加減、限界だ。悠太は始めて男の子を睨んだ。
『何だよ、反抗するのか? 弱虫』
「別にこの状態で反抗をする気はないさ。ただ、生まれてこの方、後ろ手に縛られて引かれながら狭い廊下を歩いたことなんてないもんでね、バランス取りが大変なだけだ」
無感情にそう告げる。反抗したって勝ち目はない、逃げ場もない、だったら従うしかないが…悪口をただただ受け入れることの出来る聖人なんかでもない。
『生意気だな、絶対苦しめてやるッ!!』
憎悪の言葉を男の子は投げつける。
「お前も十分生意気だろ、俺は別に逆らったりしてないのに」
『煩いッ! その余裕の態度が気に入らないんだッ!! 弱い人間族らしく情けなく命乞いでもしてりゃ僕だってここまで苛ついたりしないのにッ!!』
「うわ、何だよそれ。助ける気なんてないとか言ってたくせに」
感情が高まってくれば、自然に今まで我慢していた言葉が溢れ出す。
「大体俺が何をした? きのこが神聖なものだったのなら勝手に食べたこと謝る、出来る限りの償いをする。でもお前、俺がそのこと言っても無視したよな? その上嘘つきだの傲慢だの…俺は何も嘘なんかついてねーってーの。
ったく、何でこんな餓鬼に振り回されなきゃいけないんだよ。ここどこなんだよ、一体なんなんだよ、意味わかんねーーッ!!」
気がつけば男の子が放心状態になるほど言いたい放題ぶちまけていた。
そもそもドッペルゲンガーに出会ってからずっと常識外のことばかりが起きているのだ。
霊と係わりがあり、ある程度の非常識は体験しているが、ここまで常識外が続けばいい加減思考もおかしくなりそうだ。でも後悔なんてない、今はただ、言いたいことを言ってやる。それだけだった。
「人の言うこと何一つ聞こうとしない、受け入れない、信じない。ったく、ふざけんじゃねぇよッ!!!」
言いたいことをいい終え、悠太はこんな状態でありながらも心身ともにすっきりしている。反して美麗の男の子は段々放心状態から解放されていくと、その形が歪むほど、みるみる紅潮していく。
『なんなんだよ、人間族のクセに!! ふざけるな、卑しい生き物。もういい、女王様に引き合わせるのはやめだ。ここで死ねよッ!!!』
「あぁそうかい、そりゃこっちも好都合で。死んだらお前ら全員祟ってやるよ。俺そういうの詳しいもんでッ!」
こっちも強気だ。男の子は更に拳を震わす。
『人間族なんて、世界に還ることなく、消滅しろッ』
男の子はずかずかと彼の前まで近づくと勢いよく蹴り上げた。鳩尾に直撃したそれは年相応のもの…とはいいがたいもので、激しい痛みが一瞬で悠太の全身を支配する。
「あ…かはっ…!!」
こんなの幾つも食らったらそれこそ生殺しだな…なんて思いながら、ふらふらと後ずさりをする。そしてそのままそれは床でない場所に突き当たり……
「うわっ!!」
そのまま底の見えない空間へと落下していったのだった。上げたのは最初の戸惑いの声だけ。悠太はまっ逆さまに落ちていき、悲鳴を上げることなく底なしの空間へと飲まれていった。
『最後までムカつく奴だ』
男の子は廊下の上から見下ろす。もう見えない生意気な人間族の最後の姿を……。
意志疎通って大切。