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異世界で見える俺と  作者: 松明みかる
43/51

43:頼まれごとと頼みごと


「まさか人間族が儂の元へ来るとはのぉ…何用じゃ?」

「長老さんには悪いことにはなんねぇから安心しろよ。ちょっと2つほど頼みがあるんだ」


 ユウタは今長老の家に来ていた。そして早々に頼みごとを告げる。


 まずは一つ目。


 準精霊たちを結界の外に出すのはいいが、それなりの魔力と干渉力のある精霊種を一気に開放して、結界に不備が出ないのかを確認するため、女王様の館への接触許可が欲しいことを説明した。

 ついでに、アシリッドとエミルが肉体に戻る可能性を求めて出て行ったこと、エミルが体を取り戻したら戻ってくることを簡潔に報告。 


「なるほどのぉ…もしかすると、準精霊は今もお前さんの周りにおるのか?」

「いいやいない。先に女王様の館の前に待機してもらってる。あ、成り行きで闇の精霊とは契約しちゃったから問答無用で連れて行くつもりなんでそこんとこよろしく。でも今はここにいないからな? ちょっとちょっかい出されるの困るから外で待機させてる」

「なんと!!? 精霊契約をしたのか?? 本当にお前さんには驚かされてばかりじゃの」


 ペジャは素直な感想を述べていた。

 この人間族は色々想像の斜め上を行く。今は亡きはずの魔王アシリッド様と懇意にしており、お目にかかることも貴重な精霊とまさかの契約とは……。


 人間族を好きにはなれない。だが、この人間族に関しては今までの非礼もある。態度は本当に悪いが、そうそう邪険には出来ないのがもどかしい……。


「あいにくじゃが、今女王様は別の場所に扉を繋げておられるから謁見は無理じゃよ。報告もなかったからのぉ…急用ができたのやもしれん。じゃが、精霊の接触という観点じゃったら、問題ないと儂が断言するぞ。精霊が通り抜けるだけで結界を壊しはせんよ」

「おぉ、そっか。なら女王様にわざわざ確認しなくていいな。ありがとな。でも、そっか…扉出てないのか……」


 ユウタは少し考えこむ。何か、モヤっとするのだ。


「なぁ、長老さん。これは俺の勝手な意見だから参考程度に聞いて欲しいんだけど」

「ん? 何じゃ」

「まず、いまいち女王様の館の仕組みがわかってない感があるんだけど、基本的に女王様の扉って常時設置されていて、接続希望時に村とか里の長が許可貰って接続すんだよな。で、許可が出たら他の地域の扉が消えて許可の出た場所の扉が開く」

「その通りじゃ。一度にいくつも出ているときには館へ入ることは出来ん。各地域の扉が消え許可の出た扉のみ館への道は開かれる」


 ユウタの疑問をペジャは復唱するように肯定する。


「だよな。で、前回はこことは別の場所に接続しっぱなしでこっちにはしばらく扉はなかった。その原因は人間族が襲ってきた、からだよな?」

「そうじゃ。人間族はそれを魔人族を狩るが故『魔狩り』と呼んで、正当な狩りと主張してくるんじゃ」

「へぇ、『魔狩り』ねぇ。それが俺がフルボッコにされた理由か…」


 今更どうでもいいやという無関心でユウタは呟く。


「じゃないじゃない。話し戻すと、そん時は女王様が早く気づけたから結界をガッツリ歪ませて人間族の進行速度を遅らせてみんなを避難させた、んだよな」

「そうじゃ。儂ら長を任された者は日に2度女王様の扉に接触し、里の状況の報告と女王様からも異変に関してや他の里での報告を受けるんじゃ。その際に襲撃を知らされたその里の長が女王様の指示のもと避難したんじゃろうな」

「へぇ、里長ってそんな仕事があるんだ。ん? じゃあその報告する時は他の里とかの扉が消えんの?」

「扉に接触するだけじゃから消えはせん。消えるのはあくまでも扉が開き、館へと繋がった時じゃ」

「なるほどなるほど。だとすると、今ここの扉が消えてるってことは、どこかの里とかで館が開かれるってことでいいのか?」

「その通りじゃ」

「今まで連続して『魔狩り』が発生したことってあんの?」

「ここまで立て続けなのはないのぉ」

「そっか……。ならさ…そろそろここにも『魔狩り』来るんじゃねぇの?」


 ユウタのモヤモヤはそれだった。

 長老は寝耳に水とでもいった感じで目を見開き口も開いている。


「あ、いや。さっきも言ったけどこれは俺の個人的な意見な。用心には越したことないだろうから一つの意見を言ってるだけ」

「……何故そう思うのじゃ」

「だって前回の魔狩りは女王様の早期発見で全員逃げ切ったんだろ? で、そんなに時間経ってないのに今別の里で女王様は接続しっぱなし。

 もしそれが『魔狩り』であり、女王様は現在進行形で結界歪ませるのに必死になっていたら、他の里は放置状態だ。

 ここはもう何度も魔狩りの調査員とか来てるって話だし、だとしたら場所もある程度特定されている可能性がある。そして確実に狩るなら女王様を一つの場所に固定させて、あとは大体場所の割れた里に一斉襲撃掛ければ、それほど苦なく狩りが出来るんじゃないのかなぁって思っただけ」


 あくまでも個人的意見。今までの状況知ってるわけじゃないし、無関係者だから、と念押ししてユウタは説明を終える。


 確かに里には警備を張っているし、侵入者は逃さないように心掛けてはいる。だが、女王様の結界に頼っている部分が多いのも事実だ。的を射すぎた話だった。だからこそ疑問が残る。それは……。


「お前さん、どうして儂らに警告するようなそんな情報を与えるんじゃ? そのまま黙っておればお前さんを苦しめたエル属は人間族に狩られる可能性だってあるんじゃぞ?」


 何故、理不尽なことをされたこの人間族が、自分たちを助けるような助言を行うかだ。


「シャルがいるからに決まってんだろ? あとは…まぁ、おまけでガッシュさん」

「シャルノイラスが?」

「そうだ。あいつは最初はまぁ、アレだったけど、最終的には俺の味方になってくれたんだ。それにエミルの妹でもあるんだぞ。エミルが戻ってきた時シャルが居なかったら悲しいじゃないか。だから教えた。正直他はどうでもいい」


 なんともわかりやすい答えが返ってきた。


 確かにそうなのだろう。頼るものがないときに信じてくれた、頼れた、それは大きな心の支えとなったのだろうとペジャは理解した。


「成程な、お前さんらしいわい。ならばその忠告、心して肝に銘じておくとしよう」

「おう、よろしく。あ、そうそう。じゃあもういっこの頼みだけど」


 元々ユウタは2つの頼みのためにここに来たのだ。


 一つはわかった。

 女王様は留守だけど、結界には支障はない。準精霊のお願いは問題ないことがわかった。

 どうせ物のついでだ、加でも不可でもどっちでもよかったが、可能なら出してあげよう。


 もやっとしてた部分もきちんと説明できた。あとはどうにかしてくれるだろう。


 ならば、もう一つの頼みごとを。

 どちらかと言えばこのお願いがユウタのメインだ。このお願いをするためにここに来たと言っても過言ではない……。


「なんじゃ?」

「道案内頼みたいんだ。ほら、俺森の中を馬鹿みたいに彷徨っただろ? でも実際結界の範囲って凄く短いらしいし、惑わされなければ30分も掛からないで結界抜けられるんだろ?」


 ユウタは結界のことに関してシャルノイラスに聞いていた。なんともそんな短い空間で3日も彷徨っていたとは馬鹿な話だ。


「? 人の町にはシャルノイラスが同行するんじゃなかったかの? おぉ、まずは準精霊を逃がすんじゃったな。安心せいシャルノイラスは結界の境目を理解できるぞ?」


 結界の境目に関しては基本エル属ならば誰でも確認できるだろう。それは問題にするほどのことではない。とペジャは続けた。


「いや、予定が変わったんだ」


 ユウタは笑った。


「俺は準精霊を逃がしたらそのままこの里を出るよ」





 クロは言われたとおりに長老の家の入口で待機している。


 長老宅の警備のエル属にも今やクロは目視できる存在だ。お目にかかることが滅多にない精霊種。可愛らしい姿に、風景に透けて見える4枚の羽根。未契約の精霊種の願いを聞くと祝福が与えられるという噂もある。


 エル属のフェンムは警備中なのにその愛らしさに見とれて職場放棄しそうになる。声を掛けようと思ったが、精霊に何を話しかければいいのか分からない。そわそわと中をうかがう様子も可愛い。

 そもそも、黒髪の精霊は人間族に付き添うようにやってきて、「待機」と言われてここにいるようだが……。


 何故、敬われる対象である精霊が人間族に従っているのか……。


 まさか、この短時間で契約???


 長老を訪れた人間族に色々あったのは知っている。だが聞きかじりの知識で有り、実際目にしたことは今回が初めてだった。


 どこか飄々としていて、無関心な感じもするが感情は豊かなのでは、と思った。正直知っている内容から想像できる状態ではないと思うが……まぁ、うわさは尾びれ背びれが付いてどんどん誇張されるものだ。


「お待たせ、クロ。さてと、女王様の扉前に行くとしますか」


 噂の人間族が戻ってきたようだ。


「おかえり…ユウタ。 大丈夫だった? 怖くなかった?」


 やはり、この人間族をやたら気に掛ける精霊。警備をしているフェンムにはそれが理解できない。だが、人間族に関わりたいとも思わないから、結局ただの警備員として役目を果たすことにした。


 クロは……と言えば、ユウタに酷いことばかりするエル属の大人と会うと聞いて、居ても立っても居られなかった。でも待機を命じられてそれを守るしかなかった。


 契約の内容は『一緒にいたい』。だったら待機を拒絶することも可能だったろう。だが、クロにはそれが出来なかった。嫌われたくなった。


 何故なら、これは一方的な契約なのだ。自分が一緒にいたいから無理やり契約した。それは形だけの偽の契約。契約という言葉を使って一緒にいるだけ……。ユウタがそれに気づいているのかいないのか…それはわからないが……。


「怖いわけないだろ。言っとくけど今の俺には『恐怖』も『憎悪』もない。そういうのは味わい尽くして今は何も感じなくなったんだ。だから心配することないって」


 やはりユウタは笑う。でもクロにはそれが…痛い。


「さて、女王様はいないらしいけど、あいつらが結界出ても支障はないという確証は取れたから、問題なく出ていけるはずだ。案内役も無事ゲットしたし、長居は無用。ってことで、行くぞ、クロ」

「う……うん」


 ユウタは笑う。ニコニコニコニコ。





 女王様の扉はないがその広場には4の準精霊がふわふわと認識されないまま存在している。


「ねぇ、あの子《契約》してないわよね。何であの子だけ『精霊』になれたのかしら…」

「ボクはあの人間族の影響だと思うなぁ。あの子…今はクロだね。クロはずっとあの人間族がここから解放してくれるって信じてただろ? きっとそこで『何か』を見つけたんだ。だから昇華した」


 青の疑問に答えたのは緑。


「『何か』ってなんだろうなぁ。もしかして名前?? でもクロかぁ…マジ名前テキトーだよな。ってか、アタシら名前とかなくね?」

「アタシは人間族なんかにそんな適当に名前なんて付けて欲しくはないわ。アタシは自分で考えるの、アタシに相応しい華麗な名前をね」


 茶も白もそれに続く。

 結局話題はクロと人間族になる。

 やっと外の世界へ出られるのだ、それは話題にもなるだろう。


「あ…噂をすれば…ですね……」


 青が見つけたのは白髪の少年。

 自分たちを解放してくれる者の姿だ。


 前回の被り物の簡素な服ではなく、緑の服に黒のズボン、身なりはきちんとしているようだった。

 そこに問題はないが……。


「あれ? ……あの人…」


 茶の素朴な疑問。少年の隣にはエル属の大人がいたのだ。


「悪いちょい遅くなった。そいじゃ行こか」


 何もない空間に話しかけるユウタ。同行人は頭に? しかない。


「おい…何に話しかけているんだ」

「あぁ、悪い。お前には見えないんだよな。ちょっと待ってろ…」


 ユウタは大分慣れた感じで《可視化の陣》を引いた。同時に現れる精霊の姿。


「な!!? こんなに精霊が!!?」


 予想通りの驚きでユウタは少し吹いてしまう。


「正確にはまだ準精霊。なんかこの陣の中でだけ精霊化するらしいんだ。それを利用してこの結界から出たいんだと」

「……なるほどな……理屈はわかったが…相変わらず想定外の行動をするな人間族」

「まぁ、そう睨むなって。俺がどこに向かいたいのかは長老さんに聞いたんだろ?」

「…あぁ、お前が狂人なのだと、私の考えは間違えてなかったのだとようく理解できたよ」

「おう。お前ならそう言うと思ったよ、エリット」


 案内役の名を呼びユウタは準精霊が何かを言い出す前に陣を消す。


「さて、それじゃ行きますか」


 ユウタは笑う。ニコニコニコニコ。



そんなに笑わないでくれ…ユウタ…

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