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異世界で見える俺と  作者: 松明みかる
2/51

2:ドッペルゲンガー


 半端ない悪寒。


 悠太の思考は完全に止まっていた。何も考えることが出来ない。


 薄暗い外灯の下で、この闇夜に溶け込みそうな真っ黒な服を着ている。いや、服というよりマントというべきか。その下は微妙に季節感のない服装だった。薄手の黒の上着に幾重にも編みこまれた金糸の刺繍。それはどこか異国を思わせ、1歩間違えれば厨二病か何かのコスプレのようにも見えるが、悠太が驚いたのはそこではない。


 黒い髪はどこからか現れた風に揺れ、外灯に照らされた黒い瞳はまっすぐに悠太を見つめている。 


「……ぇ、あ。………あぁ…」


 ようやく声が戻ってきた悠太は戸惑いの声しか出せない。


「おい、新島? 何か見えたのか」


 突然の悠太の変化に西が辺りを気にするが、西には何も見えないし感じない。

 悠太には西の声が聞こえる。でも動けない。ただ危険危険危険と本能が告げる。


「……何で? どうして…俺が…ここに?」



 だってこれは……この現象は……。



 髪型も服装も確かに違った。しかし、悠太の視界に映るのは紛れもなく悠太自身だった。

 世界には自分に似た存在が三人はいるというが、目の前の彼はそんな生易しいものじゃない。本当に自分だった。自分が二人いるのだ。


「ドッペルゲンガー……?」


 危険だと全身が警告する。コレは危険だ。見てはならない、見るな、見るなと本能が警告する。

 本で読んだ限りでは、ドッペルゲンガーは自分と瓜二つの存在であるが邪悪なものであり、自分が死を迎える前に体験する現象のはずだ。しかも、空想の域を超えていない現象だ。現実にありえるはずがない。


「げろ………ッ」


 この震えは寒さじゃない。恐怖だ。今すぐ走り去りたいのに、動けない。


「おい、新島、新島ッ!!」

「…し…ここか…にげ…」


 西も状況の異常さに気付き、声を荒げる。

 だが、悠太はどうにかして声を出す程度のことしかできない。危険を伝える。これはだめだ。関わっては駄目だ。殴れる気もしないし、殴ってどうこうなる相手でもない。


「逃げろッ!!!」


 思いが力になり、どうにか西を突き飛ばした。いい具合に突き飛ばされて転んでくれたので、外灯からは離れてくれたようだ。

 とにかくここから離れてくれればいい。でも出来ればもっともっと遠くへ。


「西!! ここから逃げろッ!!」

「新島ッ!! 一体どうしたんだ、俺にもわかるように」

「時間がないんだッ、頼むッ!!」


 必死の懇願。大切な人。自分の都合で危険に巻き込みたくない。もう誰も。

 そんな悠太の懇願など気にせず、マントの自分はゆっくり右手を(かざ)す。


「ぇ、ちょおぉぉおぉ!!?」


 すると悠太はその手に吸い寄せられ、気づけば彼に抱きしめられていた。そこには温感も冷感もない。抱きしめられているのに何も感じない。感じないということは……。


「新島ッ!!?」


 悠太が外灯に吸い寄せられ、宙で固定される…というポルターガイスト現象を目撃した西もまた混乱中だ。だがわかるのは悠太は今、見えない何かと対峙していて、それが自分の手に負えないものだということだ。


 悠太はどうにかして西をここから逃がさなければいけない。混乱を抑えて、その場から逃げだす方法を考えてみる。だが、思考はしても体が意志についてきてくれないことを理解する。


 体の自由がない。抵抗できない。声まで出ない。これは憑りつかれるのか? それとも何か別の……


 思考は働くからあらゆる打開策を考えるが、答えが見つからない。見つからないことが分かった途端に死を予感出来た。

 自分と瓜二つのドッぺルゲンガー。悪霊。死神。それを見てしまった自分はこのまま死ぬのだろうか…それはいい…それはいいが、あいつは無関係だ。何が何でも逃がさないといけない。


 でも西はそんな悠太の願いなど聞き入れてはくれない。

 馬鹿が付くほどお人好しで、心配性で、喧嘩っ早くて……だからこちらへ向かってくる。


(来るな……)


 ドッペルゲンガーに抱きしめられたまま悠太はそれを確認してた。いやな予感しかしない。


(こっちに来るなッ……)


 西は近づいてくる。でも声が出来ない、意識が保てない……。


(……頼む死神。連れて行くなら俺だけにしてくれ)


 願うのはそんなこと。


 体と心を同時に溶かされるような不気味な感覚。

 朦朧としていく意識は視覚、聴覚、嗅覚…次々と奪い、音もなく悠太の存在そのものを奪っていく。


 あ…れ……?


 西がこちらに来ているのだろうか……。

 そのことさえもうわからない。


「……ぇ…悠太?」


 悠太は消えた。

 突然、西の目前で……。


「おい、嘘だろ…ッ!?」


 西はもう外灯にいた。

 だが、そこは初めから何もなかったように存在し、先ほどのことが夢ではないのかと錯覚させる。


「返事しろ、新島ッッ!!!!」


 薄暗い外灯の下での必死の叫びは空を漂うだけ。


 そうして新島悠太は……消えた。

 


さて、これからが……。

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