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異世界で見える俺と  作者: 松明みかる
1/51

1:はじまり

長編初です。

よ、よろしくお願いします!


 都内、鈴音町、冬。


 桜李学園に通っている少年、新島悠太は高校2年生。

 今時の若者らしく髪を茶色く染めて…などはしておらず、親から貰ったそのままの黒髪は以前はそれなりに整って切られていたのだろうが、しばらく理髪店に行ってないせいもあり前髪も、横髪も少し伸びていた。瞳ももちろん黒い瞳だ。顔だちは悪くはないが、これと言った特徴があるわけでもなく、身長も平均ライン。しいて言えば少し釣り目なので、見る人によれば目つきが悪く見られがち。 

 

 そんな彼は今、帰宅中。


 だが、帰路を進んでいなかった。追われているのだ。だから、全速力で逃げつつも、ある場所へ向かっていた。


「ったく、俺に休息はないのかッ!!」


 学校の校門を抜け、今日も帰宅部の悠太は直帰するつもりだった。だが…見つかった。見つかってしまったのだ……。


 目的地へ着いた悠太は荒い息を整えながら180度方向転換し、標的を見据え拳を握りしめ集中する。しばらくもしないで追っている者の姿が確認できた。

 あぁ、この場所はやっぱり空気が良い。寒いけど…寒いの苦手だけど。


 追う者の足は地に着いていない。破けたスーツに、裂けた腹、目も片方ないし、血もダラダラ…。要するにグロテスクなソレは『アァァァ!! イタイイタイ。そのカラダ、よごおぉせぇぇっ』と変な声をあげながら悠太目掛けて追ってくる。


「誰がやるかよッ」


 勢いよく突進してくるソレを悠太は力いっぱい殴った。同時にアァァっと叫びながら綺麗な弧を描いて吹っ飛んだソレはしばらくその場でピクピクしていたが、しばらくして何かを感じたようだ。


『……アァ…ぁ? あれ? いた…痛くない? あれ?』

「ようやく正気に戻ったか…この馬鹿が」


 倒れているスーツ姿の男性に近寄ると悠太はその場に屈む。


『…ここは…』

「ここは神社。お前さっきまで悪霊だったんだよ」

『…え? 僕が? だって僕は仕事に……ぁ』

「思い出した?」

『そうか、僕は仕事が耐えられなくて……ということは僕はもう』

「死んでるよ。見えんの俺だけ。俺は避けてたけど、偶然目が合っちまって、お前は俺を見つけた途端追って来たんだよ。だからここまで逃げてぶん殴った」

『……殴るって……君は人間だろう? 生きているのだろう? どうしてそんなことができるんだい。もしかして名うての霊媒師とかなのかい』


 意外と順応性の早い元悪霊のサラリーマンは、思った疑問をすぐにぶつけてきた。


「ただの高校生だよ。ただよく見えるし、憑かれやすい残念体質だけどな」


 元悪霊のサラリーマンはゆっくりと起き上がる。


『…何となくだけれど、憶えているよ。僕は君を襲おうとした。何だか物凄く痛くて、逃げたくて、新しい体があれば痛みは消えると思って……』

「悪霊は大体そんな感じさ。人間スプラッタみたいな姿で痛みを訴えて、そして生者に呪いをかけてくる。まぁ、見えない人からすれば悪寒だったり、空気が悪くなるから気分悪くなったり、ポルターガイスト的なものだったりで済むけど、見える奴は声が聞こえるから襲われる。惑わされる。魂壊して体を乗っ取ろうとしてくる。いい迷惑なんだよ、本当」

『そうか…悪かったな……何の関わりもない君に襲い掛かったりして……』

「悪霊に分別なんてないからな。惑わすか、襲うか、取引か契約……まぁ、慣れてるけど」

『はは…慣れてるのか……凄いな君は』

「別に。さてっと、でお前はこれからどうすんの? 未練がないなら多分今なら成仏できると思うけど」

『そうなのかい? だって僕は……自殺したんだよ』


 元悪霊のサラリーマンは最後の記憶を思い出す。

 頑張った。沢山仕事を頑張った。休み返上で働いたことだって数知れない。終電を逃すくらいに働いたこともある。そうして沢山頑張ったのに……。部内で大きなミスがあり、その責任を押し付けられた。何も関わっていないのに……それがあまりにも理不尽で。


「…まぁ悩みなんて人それぞれだし、俺がどうこう言える立場じゃねぇけどさ」


 どうしようもなかったあの頃を思い出すと、無いはずの心臓が締め付けられる気がした。


「次、頑張れ」

『…ぇ』


 会社のみんなに見放され、もう誰も自分を見てくれない。関心なんて持ってくれない。そう思っていた元悪霊リーマンは、少し心が軽くなる。


「いやさ、もう死んでんだからこんなところで痛い思いして悪霊なんてやってないで、さっさと次の人生行って来ればって思っただけ」

『…はは、そうだね。こんな場所で恨みつらみを溜め込んだって空しいだけだ。せっかくこうやって成仏できる状況があると言うのなら、利用しない手はないな』

「そうそう。そうしてくれると俺も学校帰りに全力疾走しなくて済むから助かるよ」

『それは…すまなかったね、本当に。でも、どうして僕は今悪霊の状態ではないのだろう』

「あぁ…なんか殴ると一時的だけど悪霊化を解除できるみたいなんだ。まぁ、神社みたいな空気のいい場所以外でやったら成功率はダダ下がりだけどな。だからお前はさっさと成仏しろ。今なら転生を願えば成仏できるはずだから」


 指を突き出し宣言する。元悪霊リーマンは困ったように微笑むと陽の落ちかけた薄暗い空を見上げた。

 ここで夕陽でもあれば良い場面なのだろうが、生憎曇りで太陽はほぼ見えない。ただ薄暗いだけの空。

 元悪霊リーマンは肩の力が抜けた気がした。


『凄い人だな、君は。悪霊だった僕を一時的にでもこうやって元の状態に戻してくれて、そして成仏への道も示してくれて……』

「たまたまだ。根っからの悪霊は善霊には戻れない。その場合は……気を失っている間に逃げるが勝ちだ」

『そうか…そうなんだ。僕はまだ、堕ちきってはいなかったんだね…ありがとう救ってくれて……どうか君に祝福を…』


 元悪霊のサラリーマンは小さく微笑む。その姿は次第に薄くなり、悠太にも見えなくなり……消えた。

 夜の帳が下りた神社には悠太が一人佇んでいる。


「いらねぇよ…祝福なんか……」


 暗くなった神社を一人歩く。さて、今度こそ帰らないとおじさんが心配してしまう。心配させると……後が怖い。色々と………。


「おい、新島」


 遅くなった言い訳はどうしようか…また服も汚れてしまったなぁ…言い訳言い訳……。


「おいこら新島、無視すんな」

「……あ、にしん、いたのか」


 目の前にいたのは友人…になるのだろうか、隣のクラスの西慎一郎だ。


「おいコラ、新島、俺を『にしん』と呼ぶな、ぶっ殺すぞ、アァ?」


 性格は御覧の通り、品行方正には程遠い。見た目も茶髪で、いかにも…な感じだ。

 悠太はこんな体質だから基本人との関わりを避けている。学校でも殆ど会話をしないし、必要なことだけを必要な分だけこなしていく、そんな目立たない生徒だ。

 でも、そんな悠太が心を赦しているのが彼だ。


 知り合ったのは小学生の頃で、それからの付き合いだ。とはいっても毎日会って遊んで…という感じではなく、気づいたらそこに居て、何となく行動を共にする…と言った感じだろうか……。


 学校という場所は、生徒という子どもたちが一か所に集められて一つの行動を行う集団行動の練習場だ。だからこそ、どうしても必要な人間関係は『学校』という場所にいれば必要になってくるわけで、その一つが『友達』。まったくいないと虐めの対象になり、それはそれで関わりたくないタイプの人との関わりを増やしてしまう。


 悠太のモットーは『誰の人生にも邪魔にならないように……。誰からも邪魔されないように……。ひっそり穏やかに生きる』だ。喧嘩っ早くて、クラスでも避けられている存在の西は、悠太のモットーには反する存在だが、それでも悠太は彼と友達でいたいと思った。友達になってくれてありがとうと思った。


 見た目や性格は結構アレだが、本当にいい奴なのだ。


「別に今更だろ? それとも慎一郎って呼ばれたい?」

「ざけんな。西でいいだろ、西で」


 睨まれた。うん、いい奴だ……。


「そんなことより、お前今もしかして」

「…あ、登場と同時に睨みきかせてたくせに、そんなこと、で済ますんだ。まぁいいけど…」


 ツッコミを入れてみるが、そこには反応しない西。


「それで、今はもう…いないのか?」

「いないよ。善霊に戻れたから成仏してった」


 そして彼は悠太のこの体質を知っている。幼い日は隠しきれず変人扱いされたこともあったが、現在はある程度見える見えないを調整出来るようになったため、目立たない高校生でいられた。

 まぁ、西のおかげである意味目立つこともないこともないが……。


「てか、お前家が逆だろ? なんでこんなとこに居んだよ」

「お前が校舎出た途端に走るからだろが! 乗っ取られたらどうする気だ。アァ?」


 西はすぐにガンを飛ばしてくる。


「以前死にかけたのを忘れたわけじゃねぇよな。アァ?」


 だからそう何度もガン飛ばさないで…と悠太は思う。


「ははは…あれは確かに強力過ぎたな。でもほら、あれ以降は…」


 なんでこう睨んで来るのやら……。

 夜の帳が下り、外灯に照らされる高校生二人。

 このシチュエーション……はたから見れば、ヤンキーに恐喝されてる…だろうな、うん、絶対。


「…とにかく無茶はすんな。俺はそうでもないが、河野と銀が心配する」

「あ…はは…善処します」


 河野(こうの)(しろがね)、それぞれ知り合ったのも小学生の頃。そして西も含め、ある事件をきっかけに…だ。思い出したくもない事件だが、忘れることも出来ない…そんな事件。


「んじゃまぁ、用事済んだなら帰るぞ。大体俺は寒いの嫌いなんだ。あ、その手袋貸せや」


 悠太も寒いのは苦手だ。だから、西に言われる前に帰り支度をしていた悠太だったが、嵌めようとしたその手袋は、西に強引に奪われた。


「おいこら、何勝手に人の物……」


 西からそれを奪い返そうとした時だった。西の後ろ、外灯の灯りの中に()()()姿()を見たのは。


拝読ありがとうございました♪

続きもよろしくお願いします。

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