72話 第2回 ミオ先生による魔法授業(第4編)
水魔法をアリスとレイが練習している間、2人は水を浮かせるもコントロールを失い何度もテーブルの上に水を溢す。
その度に私が溢れた水を魔法で掻き集めてはコップの中に入れる作業をしている。
うーん、暇だなぁ。
水魔法を今日中に覚えるって出来ることなのかな?
私としては簡単だけど、もしかして本当は難しい?
最初はコップの中に波が立たせるぐらいしか動かせなかった2人も、今ではコップの外に水を出して短時間ながら浮かせることは出来るようにはなっている。
ただ短時間浮かせる分には2人ともそこまで時間をかけることなく出来ていたけど、そこから浮かせ続けることが出来るようになる気配がない。
どうして出来ないんだろう。
単純にイメージが出来ていないから?
水を操ることが難しいから?
イメージの問題なら2人が上手く出来るようになるのを待つしかないし、水を操ることが難しいならそれも仕方ない。
私は気長に待つしかない。
私は水流を利用して水を浮かせる。
手を広げたぐらいの大きさの細い水の輪っかを作ると、それを薄く伸ばすように水を回すように速く流す。
すると水はレコードディスクのような形になる。
これは水輪魔術と言い、水で物を切断せる時に使う魔法。
切断する行為は風魔法の方が簡単に出来るけど、自由に操ったり永続的に斬り続けたい場合は水輪魔術の方が簡単みたい。
確かにこれは使える。
何個も水の輪は作れるし、風魔法では一直線にしか飛んでいかないけど水の輪なら自由にカーブさせたり出来る。
「ミオお姉ちゃん」
「はいはい」
アリスが水を溢したので私はそれをコップの中に戻す。
覆水盆に返らずって言うけど、この世界では使えないことわざだね。
私が色々な水魔法を試している間も、アリスとレイは全く水を浮かせ続けることが出来ない。
というかさっきから浮かせる時間も短くなってきてる気がするし、アリスに関しては疲れてるように見える。
アリスはそろそろ魔力不足みたいだね。
「アリス、もう魔力なくなったんじゃない?」
「いえ、まだ魔力がある感じはします」
「感じはするってことは、少なくなってるんでしょ?今日のところは終わりにしようよ」
「でも、あともうちょっとで出来そうですから」
そんなことないと思うけど。
このままやり続けても魔力がなくなるだけだね。
「いや、今日はもう魔法を使うのは終わりだよ。魔力切れの後遺症で明日も魔法が使えなくなったら効率が悪いからね」
魔力不足を起こすと人によっては魔力が回復しづらくなるらしい。
魔法指南書からの受け売りだ。
「…はい、分かりました。今日はこのくらいにしますね」
「よしよし、偉いね」
私は少し椅子を引いて膝の上を叩く。
するとアリスはそれに気付いて私の元までやってきて膝の上に座る。
かわいいぃ…
あぁ、いい匂いだなぁ…
私はアリスの頭を撫でながらレイに話しかける。
「レイもこの辺りで終わりにしようよ」
「え〜、私はまだまだ魔力あるよ〜」
「アリスと勝負してるんでしょ?練習時間を一緒にしないとフェアじゃないよ」
「う〜ん、そうかもしれないけど〜…」
レイは納得しない様子。
まあ、フェアかどうかは怪しい。
魔力量が少ないのが悪いと言えばそれまでだし。
「私はアリスに魔法を使わないように言って了承したんだから、レイも了承しないとダメじゃない?」
「うぬぅ、確かに〜… いやでも〜」
「でも何?」
「出来てない私が言うのもおかしいんだけど〜、しっかり水を操ることが出来ると思うんだよね〜」
うん、おかしい。
出来てないのに出来ると思うってどういうこと?
「つまり?」
「ミオちゃんが出した水、なんか操りづらい気がする〜」
「なるほど?」
私の水が操りづらい?
「どうしてそう思ったの?」
「そこまでイメージは悪くないと思うし〜、魔力の使い方も覚えたから簡単に出来ると思うんだけど、でも出来ないんだよね〜。どうしてかなって考えたら、この水が普通の水じゃないからなのかなって」
確かにその可能性はありそう。
私の魔力で作った水は、私でないと操ることが難しいなら、2人が出来ない辻褄が合う。
私の魔力の水なら、私の魔力に強く反応するのかな?
「アリス、ちょっと我慢してね」
「? はい、ひゃん!」
私は撫でていた手からアリスの頭に魔力を流しこむ。
「んっ、急に魔力を流さないでください」
アリスが体を跳ねさせてから私に振り向く。
かわいい。
「ごめんね、私が流した魔力を使うことは出来そう?」
「はい、出来そうです」
「それなら、その魔力を使って水を浮かせてみて」
「分かりました」
そう言うと、アリスはコップの方を見る。
アリスの髪で遊びながら待っていると、コップの水が浮き始める。
アリスもレイも手を使って魔力を放つみたいな予備動作をしないから急に魔法が始まる。
コップから水が離れると、綺麗な球体になる。
水の球は8の字を描くように空中を動く。
「すごい!出来ました!」
アリスが嬉しそうに水の球を操る。
「やっぱりそうじゃ〜ん。多分、私もアリスも普通の水なら操ることが出来るよ」
そう言うとレイは席を立って水を汲みにいく。
「見てて〜」
そう言うとレイは私達が見えるようにコップを持ち上げる。
コップの中には水が入っており、レイは私達がそのコップを見れてることを確認すると、コップの中の水を浮かせる。
「ほら出来た〜!」
レイは嬉しそうに言うと、水を私達の前まで持ってくる。
私はその水に指を入れる。
水は動き続けており、水の流れで浮かせていることが分かる。
「レイも出来てる。これはどっちが先に出来たか分からないから、引き分けだね」
「あっ」
「うそ〜…」
アリスはハッとなり、レイは落胆する様に膝から崩れていく。
もしかしたら魔法指南書に他人が作った水は操りづらいとか書いてあったかも。
まあ、平和的でいいよね?
うん。
私はアリスの髪で遊び続ける。
後で確認したらしっかり書いてありました。
先生!
しっかりしてください!