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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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524話 迷いの森


 7/14(水)はお休みさせて頂きます。

 申し訳ありません!


「あれ〜?ここどこだろ〜?」


 ピンク色の獣人族は、そのケモ耳を外側に向けて辺りに気を回す。

 本当のことを言うならば、異邦人たる獣人族のケモ耳には、十分たる聴覚能力は備わっていない。

 もう1人の獣人族はそれを理解しているものの、この獣人族はそれがよく分かっていない。


 それがために、ケモ耳も聞こえるものだと思い込んでいる。

 正しくは、感覚としてケモ耳からは聞こえないことは分かっていたが、もしかしての可能性を信じた。

 その思い込みによって知覚魔法が働き、常にこの獣人族のケモ耳には敏感に音が届いている。


「魔物もいなそ〜、だね!」


 周囲の安全を確認して、獣人族はつま先で地面を2回叩く。

 ふわりと足が地面から離れ、獣人族の体はゆっくりと空へ向かって上っていく。


 飛行魔法にそんなギミックはないから、カッコつけてるだけなのは言わずもがな。


 上手く木の枝に当たらないように、避けつつ高度を上げていく。

 いずれは森の上に出るはず。

 獣人族はそう思っていた。


「……?」


 ただ、視界が森から開けることはない。

 重なる枝々の向こう側、確かに青空があるはずなのに、枝々を抜けても抜けても、一向にその空が近づくことはない。

 能天気な獣人族も、この異常事態には驚いた。


「えぇ〜?もしかして魔法かな〜?」


 すぐに獣人族は原因の追及を始めた。


 青い魔導士から話は聞いている、この星には術者なしに魔法が働いている場所があると。

 レアなケースであっても、ないことではない。


 とにかく空から出れないことを理解した獣人族は地上に降り、いい感じの木の棒を拾ってから森の中を歩き始める。


「てて〜て てて〜て」


 端的に言えば出られない森、俗に言う迷いの森なのだが、この獣人族は能天気だった。

 鼻歌混じりに木の棒を振り回し、誰もいない森の中を行進する。

 ただ原因であろう術者を探すためだけに、無闇矢鱈と歩く事を決めたのだ。


 獣人族の心境はこう、「何かあってもミオちゃんが来てくれるからね〜」だ。

 たまたま術者を見つけられたらラッキー、日が落ち始めたらもう1人の獣人族が来てくれると信じきっている。

 だから状況に恐怖せず、この迷子を楽しむ余裕がある。


「てて〜て てて〜て てててて〜て〜て〜て〜て〜」


 この森に熊はいないが、それは置いておいて。


 今、ピンクの獣人族が迷い込んでいる場所は何なのか。

 この獣人族が考えている通り、迷いの森であることは間違っていない。

 運悪く墜落してしまったこの森は幻想種の1体が守護する、聖なる森。


 純情な乙女を逃がさんと、拗らせた一角の幻想種がここにいる。

 神獣の頃はやりたい放題であったが、幻想種として蘇り、この森を守る使命を司ったその幻想種は、その獰猛性を隠し、森に迷い込む人々を見逃し続けてきた。


 さて、この幻想種は純情な乙女に焦がれ執着する性を抑えつけてきたのだが、小さく純情な獣人族が凄まじい衝撃と共に降り立ったものだから、どこかのリミッターが壊れてしまったようだ。

 鼻息荒く目を覚まし、その割れた4つの蹄で地面を駆け始める。


 こうともなれば獣人族もその音に気がつく。

 すぐに異空間から湖の騎士の剣が1回転して現れ、誰も見ていないというのにカッコよくキャッチして、音の方へと構える。

 「決まった…!」ではないよ、獣人族。


 相手は幻想種であり、気を抜いていい相手ではない。

 ここに(ミオ)の1人でもいれば注意が1度入り気合いを入れ直すというのに。

 私が行くとなるとそれはそれでややこしくなるから、ここは一旦ね?


 獣人族は構えた剣を振り上げ、音の持ち主が現れるのを待つ。


 そしてそれが現れる。


 それは白馬の幻想種。

 どんな病気にも効くすごい漢方の原料である真っ直ぐと伸びた一角、馬よりも一回りぐらい大きい程度の体躯。

 誰にも世話をされてないせいで、汚らしく伸びているだけの蹄を持った、どうしようもない性癖の白い獣。


 その名はユニコーン、一角獣の幻想種。


 説明に威厳を感じないって?

 しょうがないでしょ、(ミオ)じゃないんだから。

 というか疲れちゃうって、ナレーターみたいな口調。


 こほん。


 それは木々の隙間から跳ねるように飛び出し、凛とした立ち姿で獣人族の目の前に立ち止まる。

 瞬間、獣人族は両足に強化魔法をかけ、武士だったら切腹必須の先制攻撃をしかける。


「とりゃ〜!!!」


 流石の幻想種もこれには驚きつつも、助走なしで勢いよく跳ねて躱し、獣人族から距離を取る。


 幻想種にとってこの獣人族はある意味獲物だったが、獣人族にとってこの幻想種は明確に討伐すべき獲物なのだ。

 幻想種を倒したら加護を貰えるなんておまけも忘れて、この森からちゃんと脱出するために斬りねじ伏せようと考えている。

 それと「あの角持って帰ってマリンちゃんにあげよ〜」とも考えている。


 動機の差が明白であり、覚悟の持ちようも獣人族の方が上回っている。

 珍しい種族の純情な乙女が訪れ、さぞルンルンだった幻想種も、これには興醒めである。


 しかしそれでも元神獣、現幻想種は気落ちする訳がない。

 誇りとプライドに賭け、自分を倒さんとする冒険者と正面からぶつかり合い、その力を見定めんとする立場として、奮い立たせるように鼻息を荒く鳴らした。

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