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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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498話 支配の魔力


 ナイフを取り出してルシフェルと相対する。


 向こうの表情を読む限りでは、明確な焦りが見て取れる。

 ルシフェルは非戦闘員という話は知ってるから、ここでタイマンなのは本当に好都合。


 左手に魔力を込めて、構えて、戦闘態勢に入る。

 グレートセブンであれ2000年生きているであれ、私は負けるつもりはないよ。


「どうする?戦う?」

「いーや、やめよう!僕がミオ君に敵うとは思えないからね!それよりかはヴェスパー君だったり、暇はないだろうけどイクス君を呼びたい、いいかな?」


 ルシフェルが頬を掻いてる。

 それで「いいよ」とは言えないよね?


 ヴェスパーってそこそこ戦闘力ありそうで呼んで欲しくないんだよね。

 北極の氷像を作ったのはヴェスパー、即席の牢屋で拘束も出来るし、石碑の場所で使った火の玉とかあれも戦闘に使えそうで。


 イクスに限っては絶対に嫌だ。

 イクスには私が手も足も出ないし。


 だって時間魔法だよ?

 時止めて来るんだよ?


 時止められてる状態で腕落とされて、首を掻っ切られて距離を取られたら、回復魔法が間に合う前に出血多量で死にかけるよ。

 それに絶対に追いつけないし、一撃必殺を不意打ちで当てない限りは私に勝ち目はないもん。


 そういえばイクスいないけど、もう怪異戦闘から離脱したのかな?

 海の方には見えないね。


「悪いけどここにいて欲しいかな」

「それは残念過ぎるなぁ。この辺りの説得は応じてくれたりは?」

「呼ぶか呼ばないかでしょ?」


 空を見上げて進捗を確認する。

 いやね、見ても分かんないけどね?

 それでも順調に魔法陣が結ばれてるのだけは、私の目でもよく分かる。


 このまま説得で時間を浪費してくれるなら、むしろ願ったり叶ったりかな?


「いいよ、話は聞いてあげるよ」


 納得するかは別としてね。


「助かるよ、ホントーにね。これはセリア君の為でもあるから」


 2000年も生きてれば口が上手くなるのか、それともセリアの為というのは本当か。

 とりあえず話は聞いてあげないとね。


「セリア君が教祖となり、これからルルイエと共に浮上してくる怪物、大いなるクトゥルフを呼ぶ。それは分かるだろう?」

「うん、分かってるよ」


 そのクトゥルフっていう個体がイマイチ分かってないけど。

 本当はルルイエに潜入して、その辺りの情報も知っておくべきなんだろうね。

 戦争で重要視されるのは情報の方だったりするもんね。


「そうだなぁ。ミオ君って神格の退散って見たことはあるかな?獣人族の大陸がどれほど外側の神格と関わりがあるのか、分からなくてね」

「神格の退散?うーん、知らないね」


 聞いたこと無いよね?

 神格の退散。


「退散と言わず、追放、撃退、消滅と言ったりもするんだけれども、知らないー、かな?」

「えーっと、いや、ある……?いや、ある、あるね。追放は聞いたことある」


 どこで聞いたかと言えば、沼地、フレンとドリアード様がいる場所、あそこで聞いたね。

 ブラックビーストが私の体を介して降臨した時、ドリアード様が魔法で追放しようとしていた。


「曖昧って風だね、それなら解説もいれてあげよう」


 そうだね、入れてくれた方が助かるかな。

 時間も稼げるもんね。


「神格の退散、それはこの星の外側から、宇宙の外側から、もしくは虚の世界からの神格に対して有効となる、元の場所に帰ってもらう為の呪文」


 その辺りは何となく分かる。

 この星の神に対して使えないっていうのは、ちょっと気になるけどそういう物なんだろうね。


「効果は一時的なものであれ、退散した神格は何らかの儀式や魔法で存在証明し、もう1度降臨ーってする必要があってね。神格の退散が出来れば基本は安泰なんだなー、これが」

「へぇ。それってセリアが出来ることなの?」

「セリア君の魔力の特異性は、外側の神格に対してのそれはそれは強ーい繋がりだ。ミオ君にもその特異性はあるが、ミオ君が特筆すべきはそうじゃないね?ミオ君はその繋がりが転じて変質の魔力となり、セリア君は支配、支配する魔力と見える!」


 支配する魔力。


 生まれもって、デウス・エクス・マキナに目をつけられたりしてるのかな?

 それかブラックビーストとか、そのクトゥルフとか?


「ミオ君全く気付いてないが、セリア君に若干の支配を貰ってるね?」

「えっ、なにそれ?」


 セリアから支配を受けてる?


 セリアの方を見る。


 セリアはこの会話が聞こえているかは分からない。

 海の音でこの会話はかき消されてるかもしれない。

 ただチラッと私の方を見てて、私が見た瞬間に目を逸らしたのが分かった。


 これは確信犯?


「えっでも、セリアは悪いことしようとしてる訳じゃないよね?」

「もちろん、恩寵派に取ってはいいことさ。ミオ君が思ってる風のこと、まーったく今更心配する必要はない」


 ルシフェルに言われて気付かされて、それは良かったって思ってる自分が少し情けない。

 精神系の魔法に気付けないのは、この世界に生き延びていくには大変そうなのが分かった。


「そうだねぇ、ミオ君のパーティだったらカミラ君かな?支配の手を伸ばしたのに気がついて、敵対視したりしなかったかい?」

「あぁー、してたしてた」


 確かに、私とセリアが力を貸すって約束した時、カミラはセリアを睨みつけてた。

 そっか、カミラってそういうのも分かるんだ。

 ちっちゃくてプライド高いだけの吸血鬼じゃないんだよね、本当に。


「その支配の魔力、上手くやればクトゥルフさえも支配しうる、ミオ君の魔力の特質並みに強力な物で、それを上手く利用すれば神格の退散は難なく出来るはずだ。その手助けをしたい」


 こういう分野ってグレートセブン達の庭なんだろうね。


「出来れば、ヴェスパー君を呼んで、ね。どうかな?」


 うわぁ、これは説得されちゃってる気がする。

 私が知らない分野だからこそ、専門家の意見を聞いちゃうと「そうなんだ!」ってなる現象だね。


「まっ、君が今この話を聞いて拒絶しなかったなら、それは支配を働かせているセリア君も構わないーって思ってるってことさ。違うかなー、セリア君ー?」


 ルシフェルがセリアに声をかける。

 セリアはその顔をこっちに向けると、静かに頷き空に目を向け直す。


「決まりだね」

「分かった、呼んできていいよ」

「これは助かる、君が冷静で助かるよ」


 ルシフェルはそう言って箒に乗って、ヴェスパーの方へと向かっていく。

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